日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は、宮崎県日南市の油津にやってきました。ここは江戸時代に名産品の飫肥杉を港まで船に積んで運ぶために掘削された堀川運河をはじめ、古い景観が残る風情ある地域です。
そんな油津では、「魚(ぎょ)うどん」というめずらしい郷土料理が食べられます。名前にうどんと付くからにはもちろん麺料理なのですが、材料は小麦粉ではなく、なんと魚! 油津港からほど近い地元で評判の居酒屋「魚料理 びびんや」で、どんな麺料理なのかを確かめてきました!
■噛むと味が出るトビウオ麺
びびんやは、刺身や焼き魚など海の幸や、地元九州の焼酎を豊富に取りそろえる居酒屋。夏休みシーズンには昼から多くの家族連れが訪れる人気店です。案内してくれたのは店長の間瀬田尚己さん。早速、魚うどんを作ってもらいましょう!
出てきたのは、シンプルながらも明らかに普通のうどんとは違う麺料理。ねぎ、とろろ昆布、揚げ玉といった定番の具材の下には、素朴な印象の麺が顔をのぞかせています。
間瀬田さん「穀類の代わりに魚のすり身で麺を作ったうどんが、魚うどんです。麺の材料は主にトビウオ。それにメジナ、イシダイ、フエフキダイなどの白身魚と、重曹や卵白などが混ぜられています」
よくかみしめて食べると、魚のうまみが徐々に口の中に広がっていきます。麺自体にこれだけの味があるなんて……普通のうどんとは一線を画する新感覚です!
間瀬田さん「お客さんには、『イメージと違った』とよく言われますよ。もっと味気ないものと思っていたのに、味も食感もしっかりあると」
そうなのです! かまぼこのような単なる魚のすり身の加工品とは、また違った味わいがあるのです。魚の風味だけでなく、きちんとしたコシもあり、しっかりと麺料理を食べているのだと感じられます。その秘密は材料にあるのだとか。
間瀬田さん「魚うどんに使う魚に明確な定義はありませんが、トビウオとその他の魚の両方を使うのがポイントです。実はトビウオ自体にはあまり味がありません。あれはぷりぷりとした食感を楽しむもので、魚うどんに麺らしいコシを生み出してくれます。そこに味のある他の白身魚を混ぜることで、食感と味が両立した麺となるわけです」
昆布やカツオでダシを取った和風の汁は、甘みがあってやや濃いめ。個性の強い麺とちょうど良いバランスの味に仕上がっています。麺と汁の両方から漂う魚介の香りを満喫しながら、あっという間に完食です!
■近海の幸を生かした地産地消の郷土料理へ
この地方の郷土料理である魚うどん。しかし、生まれも育ちも油津の間瀬田さんでも、子どものころは食べたことがなかったといいます。
間瀬田さん「元々は戦後食糧難の時代に、米や穀物の代用品として作られていたそうですが、しばらくして魚うどんを作る文化は途絶えてしまいました。それを十数年前に日南市の漁協の女性部が再現したんです」
漁師町のさまざまな料理を加工・販売する地元漁協の女性部の手によって、一度は失われた魚うどんは、再び地域に浸透し始めました。昔と同じく、材料となる魚もすべて油津の近海産だそうです。
間瀬田さん「特にこの辺りはトビウオの産地として知られていて、7月から11月くらいにかけてたくさんのトビウオがやってきます。その時期にとれたトビウオをごっそりと保存して、年間を通じて魚うどんとして提供しているんです」
それはまさしく、地産地消。食料難のなかで編み出された先人の知恵は、姿を変えて新たな時代に受け継がれたのですね。
間瀬田さん「魚うどんは気軽に魚の栄養を取ることができて、カロリーも低い健康的な郷土料理です。食べたことのない方には、ぜひ初めての感覚を楽しんでほしいですね」
実は、ここ油津は宮崎市街と県の南端にある都井岬を結ぶ通称「日南フェニックスロード」という観光ルート上に位置しています。宮崎に遊びに来たら、この街を通るという人も多いはず。あなたも旅の思い出の一ページに、魚うどんを加えてみませんか?
- 店舗情報
●魚料理 びびんや
住所:宮崎県日南市西町2-6-3
電話:0987-23-5888
営業時間:11:00~15:00、17:00〜21:30(LO)
(月曜休、祝日の場合は翌日休)
http://bibinya.com/
※記事中の情報・価格は取材当時のものです。