暮らしのコト

麺は口ほどにものを言う~ご当地ヌードル探訪~

老舗そば屋のまかないラーメン 山形県天童市の「鳥中華」

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日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は、山形県天童市にやってきました。ここは全国に名をとどろかす将棋駒の一大産地。国内シェア9割以上を誇ります。街中のいたるところに将棋の意匠が見られることからも、ここが「将棋の街」であることが伺えます。

電信柱に詰め将棋が! ほかにも歩道や郵便ポスト、マンホールなど街中に将棋駒があふれています。

電信柱に詰め将棋が! ほかにも歩道や郵便ポスト、マンホールなど街中に将棋駒があふれています。

とりわけ有名なのは、毎年4月に開催される「人間将棋」。舞鶴山山頂広場にある巨大将棋盤を舞台に、甲冑や着物をまとった人間を将棋駒に見立ててプロ棋士が対局。勇壮な姿に目を奪われる、天童市の春の風物詩です。

舞鶴山山頂広場。開催当日は奥の階段部分が観客席となり、盤上の熱戦を楽しめます。

舞鶴山山頂広場。開催当日は奥の階段部分が観客席となり、盤上の熱戦を楽しめます。

そんな天童市で誕生したご当地ラーメンがおいしいと、近年評判になっているそう。その名も「鳥中華」。著名なラーメン評論家に味を認められ、ラーメンファンも注目する話題のメニューですが、発祥はラーメン屋でも中華料理屋でもなく、そば屋だというから驚きです。発祥の店「手打 水車生そば」を訪れ、人気の秘密に迫りました!

■そば屋の魅力がぎゅっと凝縮!

3階建てで席数はなんと300席! 裏には90台以上が停車できる立体駐車場もあります。

3階建てで席数はなんと300席! 裏には90台以上が停車できる立体駐車場もあります。

 店内の一角。障子にあしらわれた将棋駒が天童らしい!

店内の一角。障子にあしらわれた将棋駒が天童らしい!

「手打 水車生そば」は、県内有数の知名度を誇る1861年創業の老舗そば屋。昼どきを過ぎても老若男女でなおにぎわう店を案内してくれたのは、五代目店主の矢萩長兵衛さん。それでは、早速作ってもらいましょう!

「元祖 鳥中華」。刻みのりは別皿で運ばれてきます。

「元祖 鳥中華」。刻みのりは別皿で運ばれてきます。

鳥中華という名の通り、大ぶりの鶏肉が盛られ、周りには三つ葉ねぎのりが散らされています。スープ全体を覆うのは、脂身でしょうか?

矢萩さん「これは天かす。トッピングのために新しく揚げたものではなくて、天ざるそばや天ぷらそばに使う天ぷらを揚げたときにできるものだから、えびや野菜のエキスが染み込んでいておいしいですよ」

ラーメンに天かす! 意外な組み合わせに驚きながらスープを一口飲むと、あまじょっぱさとともに奥深いうまみのようなものを感じます。コクリとのみ込んだ後に残ったのは、上品な魚介の香りこのラーメンと一線を画すスープは、もしかして……そばのつゆ?

矢萩さん「そうです。麺が違うので薄さ加減は調整しますが、鳥中華のスープは温かいそばのつゆと基本的には同じもの鰹節サバ節ソーダ節を削って取っただしです」

スープには粗めにひいたこしょうが入っており、あまじょっぱさにピリっとしたアクセントを加えてくれています。さらに、スープを覆い尽くすほどの天かすがラーメンらしい油分と、天ぷらそばのような風味をプラス! これはやみつきになりそうな味です。

麺は中太のちぢれ麺で、鳥中華のための特注麺。

麺は中太のちぢれ麺で、鳥中華のための特注麺。

中太の縮れ麺はしっかりとしたコシがあり、スープをほどよく絡めとってくれます。鳥中華の顔とも言える鳥肉は、冷凍ではなく生の鳥もも肉を使用しているそう。豊かな風味と、ぷりっとした食感がたまりません!

真っ赤な一味唐辛子は地元天童市で製造されたもの。

真っ赤な一味唐辛子は地元天童市で製造されたもの。

鳥中華本来の味を楽しんだら、一味唐辛子を振りかけてもおいしくいただけます。

矢萩さん「そばと合うものはぜんぶ合うんですよ。材料がそばとほとんど同じですからね。そういう意味では、うちのメニューを無駄なく使って作るのが鳥中華かな。スープはもちろん、天かすは天ざるそばがよく出るから作れるものだし、鳥肉や三つ葉といった具材も、そばで使うために用意していたものですから」

そば屋のおいしいトコロが凝縮された鳥中華。見た目以上にぜいたくな味わいです!

■山形県に広がる“鳥中華文化”

契約農場で栽培したそばの実を使用し、製粉から麺打ちまで手がける「手打 水車生そば」は、田舎そばの名店として知られています。そんな人気のそば屋が、なぜラーメンを作っているのでしょう?

矢萩さんもともとはまかないだったんです。この近所は温泉街ですから、昔は宴会客をもてなすお酌さんがいっぱいいて、うちに食べに来てくれました。でも、なかには田舎そばが駄目な人もいたんです。太くて、そば粉の風味が強いですからね。そんな人にまかないである鳥中華を出してみたら、『おいしい』と食べてくれたんです」

定番の「ざるそば」。家族連れやグループ客は鳥中華と一緒に注文して楽しんでいるようです。

定番の「ざるそば」。家族連れやグループ客は鳥中華と一緒に注文して楽しんでいるようです。

お酌さんに出したことをきっかけに、裏メニューとして口コミで広まっていった鳥中華。それが正式にメニューに載ったきっかけは、グルメ本の取材でした。

矢萩さん30年くらい前に、グルメ本で鳥中華を取り上げたいという話があったんです。うちはあくまでそば屋なので、紹介していいものかと迷いましたが、お客さんが『うまい』というから、出してもらうことにしました。メニューに載せたのはそのときですね。なければ、うそになってしまいますから」

気がつけば、鳥中華は店の名物に。最近になって人気にますます拍車がかかり、およそ4割のお客さんが鳥中華を注文するそうです。休日は多いときで400食以上出るんだとか。

矢萩さん「こうして鳥中華が評判になったのも、周りの人の協力のたまものです。温泉街のホテルが宿泊客にうちを紹介してくれたり、鳥中華の無料券を独自に作って配ってくれたりね。マスコミも取り上げてくれて、県外からもお客さんが来てくれるようになりました」

天童市は温泉の街としても有名。手打 水車生そばの向かい側はホテルや旅館が集まる天童温泉。

天童市は温泉の街としても有名。手打 水車生そばの向かい側はホテルや旅館が集まる天童温泉。

こうして少しずつ知名度が高まった鳥中華は、今では山形県内を中心とした各地のそば屋で提供されるようになりました

矢萩さん「ついこの間までは、なかったんですけどね。うちとしては売上に貢献できるなら、どんどん売りなさいと他の店に推奨しているんです」

取扱店は少しずつ増えており、基本は元祖と同じスタイルですが、なかには冷たいスープの「冷やし鳥中華」など、独自のアレンジを加える店もあります。山形県内では、だいぶメジャーになってきたようですね!

矢萩さん「メジャーとまではいかなくても、それなりに知られるようになりました。鳥中華はそば屋にしかできないラーメン。なれるかはわかりませんが、山形の食文化の1ページに残ったら、とてもうれしいですね」

松尾芭蕉が「閑けさや岩にしみ入る蝉の声」と詠んだことで知られる山寺をはじめ、有名な観光地にも近い天童市は東北旅行の宿泊先にもぴったり。将棋にまつわるスポットを巡り、温泉につかったあとは、名物の鳥中華を食べてこの街を満喫しちゃいましょう!

店頭で販売しているおみやげ用の鳥中華も人気!

店頭で販売しているおみやげ用の鳥中華も人気!

  • 店舗情報

    ●手打 水車生そば
    住所:山形県天童市鎌田本町1-3-26
    電話:023-653-2576
    営業時間:11:00~23:00(元旦休)
    http://www.suisyasoba.com/

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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