日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は、奈良県天理市にやってきました。宗教都市として有名な街ですね。
市内には古代の息吹を感じられるスポットも点在。日本最古の道とされる「山の辺の道」や、『古事記』に記述のある古社・石上神宮、崇神天皇陵をはじめとした古墳の数々を目当てに、多くの観光客が訪れます。
そんな天理市で、市民から絶大な人気を誇るご当地ヌードルが「天理ラーメン」です。地元で昔から親しまれているピリ辛ラーメンらしいのですが、どんな麺料理なのでしょう? 発祥の店を訪れ、その人気の秘密に迫ります!
■特製香辛料が生み出す辛みと塩味
やってきたのは、天理駅から少し離れた場所にある「彩華ラーメン 本店」。現在は奈良県内を中心に13店舗を展開する、彩華ラーメンの本丸です。
席についてメニューを開くと、普通のラーメンや飯モノも並ぶ中に……ありました! 早速店員さんに、天理ラーメンの元祖「サイカラーメン」を注文します。
スープを覆い尽くす具材は、白菜、豚肉、ニラ、にんじん。レンゲでかき分けると、唐辛子とにんにくの匂いが鼻腔をツンと刺激し、みるみる食欲をそそられます!
ひと口スープをすすると、思った通りでピリっと辛い! 鶏ガラベースのしょうゆ味のスープに、煮込まれた具材の汁が合わさり、塩味のある濃い口の味付けと心地よい辛みを楽しめます。
スープと麺の相性もバッチリ。縮れ麺は粘度低めのスープをしっかりと絡みとってくれますね。具材もかなりの量で、特にシャクっとした歯ごたえが楽しい白菜は、いくら食べてもなくなりません。食べすすめるうちにだんだんと身体が熱くなってきました。
そこでふと気がつきました。このラーメン、甘味がないのです。担々麺に代表されるピリ辛系のラーメンは、最近では甘辛に仕上げられることが多いもの。一方でこのラーメンから感じるのは甘みではなく、どちらかといえば塩味。その秘密を厨房に直撃すると……
実は具材の味付けに、特製のラージャンが使われていたのです。唐辛子を塩漬けにして粉砕したもので、本場四川省の工場に発注しているそう。試しにそのままなめてみると、辛みと塩味のタブルパンチ! このラージャンが醸し出す独特な風味、一度食べたらクセになりそうな味わいですね。市民に愛され続けているのも納得です!
■天理ラーメンの始まり
「彩華ラーメン」の創業は昭和43年。始まりは、1台の屋台でした。当時の話を、二代目社長の近藤勝昭さんに伺います。
近藤さん「創業者は父の近藤義人です。元は神奈川に住んでいましたが、天理に移り住み、父の兄の中華料理屋を手伝っていました。そのころは、労働者が活気にあふれていた時代。兄の中華料理屋は午後9時で閉店してしまうので、夜遅くでも『元気が出るもの』を食べてもらえるようにと、屋台を始めたのです」
屋台を開いた場所は、天理教教会本部の目の前の通り。昔から屋台が立ち並び、現在でもたこ焼き屋から靴屋まで、さまざまなものが売られています。
近藤さん「最初は普通のラーメンを出していましたが、すぐにサイカラーメンを作り始めたようで、一年もたたないうちだったと聞いています。唐辛子とにんにくの強い香りは、屋台に人を引き寄せてくれるんですよ」
こうして中華料理屋の屋台としてスタートした彩華ラーメンは、名物メニュー「サイカラーメン」とともに、市民の間に浸透していきました。それが天理ラーメンと呼ばれるようになったのは、いつ頃なのでしょうか?
近藤さん「30年くらい前には、もう呼ばれていたと思います。ちょうど彩華ラーメンが店舗をたくさん出店し始めたころでしょうか」
もともと、地元で働く人や天理大学の学生さんに絶大な人気を誇る一杯。今では県内外からのリピーターや観光客も本店を訪れるようになり、多いときは何と1日で1,500杯以上出る日もあるとか。驚くべき人気です……!
■初代の伝統を受け継いで
天理ラーメンとしてすっかり地元に定着したサイカラーメン。その味は基本的に昔のままですが、初代と協力してスープに改良を加えたことがあったそう。近藤さんは当時のエピソードを語ってくれました。
近藤さん「父が『もっと元気になるように』と、冬虫夏草(漢方)を入れてみたんですね。するとできたのは、漢方の匂いが漂う薬臭いスープ。確かに元気になることはなるのでしょうが、誰も食べないんじゃないかということで、結局ボツになりました」
こんな失敗談があるほど、初代は自分のこだわりをもって仕事をしていたそうです。例えば、本店の特徴である店の広さも、初代のこだわりが反映されたもの。店舗面積が大きく、テーブル席の間隔がかなり広く取られています。
近藤さん「初代はたくさんの人が集まって食べるのが好きでした。だからかつての店は、狭いながらも多くの人が座れるようになっていましたが、スープがこぼれてお客さんにかかるなどの事故も多かった。通路の狭い店では熟練の店員でないと、どうしてもミスが起こってしまいます。ですから、新しい本店は人がたくさん集まれる場所という店づくりのコンセプトはそのままに、広くすることで安全性を確保しています」
彩華ラーメンには、お持ち帰り用の「鍋」サービスもあります。店に鍋を持って行くと、スープは鍋に入れて、麺は生麺のまま渡してくれるので、家庭でもその味を楽しむことができるのです。これも初代が始めたそう。
近藤さん「昔は、屋台に鍋を持ってくる人が多かったんです。当時はラッピングが簡単にはできない時代でしたから、助かりました。その習慣が今も続いているというわけです」
さまざまなかたちで彩華ラーメンに受け継がれる初代のDNA。それを象徴しているのが、「彩華ラーメン 屋台」の存在です。
所在地は天理市内。本店もあるのに、どうしていまだに屋台を営業しているのでしょうか?
近藤さん「天理ラーメンの元祖として、屋台としてスタートした当時のことを忘れないためですね。“初心忘るべからず”で、これからも続けていきたいと思います」
天理市を訪れたなら、ぜひ天理ラーメンをご賞味あれ。一日の観光が終わった後、ふらりと屋台に立ち寄って、天理の夜に親しむ……なんて、ぜいたくだと思いませんか?
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店舗情報
●彩華ラーメン 本店
住所:天理市岩室町91番地
電話:0743-63-3165
営業時間:11:00~翌3:00
●彩華ラーメン 屋台
住所:天理市別所町223 プライスカット天理北店駐車場内
営業時間:17:30頃~翌1:00(土日祝は16:30頃~翌1:00頃)
※記事中の情報・価格は取材当時のものです。