日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は、富士山麓に位置する静岡県富士市で、最近話題のご当地グルメ「つけナポリタン」に迫ります!
実はこのつけナポリタンは、富士市の吉原商店街とテレビ番組がタッグを組んで、2008年に開発したメニュー。作り方は決められており、「トマトソースをベースにしたWスープ」、「麺とスープが別々のつけ麺スタイル」という定義を守らなければ、つけナポリタンとは認められません。逆にそうした定義さえ守れば、あとはアレンジ自由! 誕生から6年を経たいまでは、吉原商店街を中心に40店舗以上で提供され、観光客らの人気を博しています。その理由を探りに、つけナポリタン発祥の店「COFFEE SHOP アドニス」へやってきました。
■元祖の驚くべき完成度
吉原商店街の端にあるアドニスは、1947年創業の老舗。大衆食堂からスタートし、やがて軽食も提供する喫茶店になりました。入店し、さっそく注文してみます!
なぜ、つけナポリタンと呼ばれるのかは、ひと目見れば納得。ナポリタンを彷彿とさせるトマトソースがベースのスープに、別盛りの麺をつけて食べる、まさに名前の通りの料理なのです。麺はつけナポリタンのために開発した特注麺だそうで、ラーメンよりパスタに近い見た目。真っ赤なスープからは、酸っぱいトマトソースの匂いが漂ってきて、食欲をそそります。店長の市川和典さんにおすすめの食べ方を聞いてみたところ、「つけ富士リタン流儀」なるカードを渡されました。
市川さん「うちのつけナポリタンには食べ方があります。その一『よくつけて食すべし』、その二『チーズを絡めて食すべし』、その三『レモンは半分食べたら麺にかけるべし』というふうにね。スープが余ったら、シメにバケットかご飯をどうぞ」
流儀に則って、まずは普通にいただきます。ややちぢれた太麺に、どろっとしたスープをつけて食べると、トマトの爽やかな酸味が舌の上に広がります。そして、麺が喉元を通りすぎたころには、深いコクの余韻……。この想像以上に複雑な味わい、一体どこから?
市川さん「スープは、トマトソースと鶏ガラのWスープです。トマトソースは、アンチョビやオレガノを使ったイタリアンの王道。鶏ガラスープは、ラーメンと同じ手法で毎朝出汁を取っています。さらに、麺にはエキストラバージンオイルとえび油を絡めてあります」
スープだけではなく、麺にも工夫が凝らされているからこその味わい。麺にチーズを絡めればまろやかな風味に。レモンを搾ると、トマトの酸味とマッチしてさらにおいしく感じます! トッピングの蒸し鶏、マッシュルーム、チンゲン菜はどれも大きく、味玉は半熟の黄身までしっかり味が染みていて素晴らしい出来……。
そうしてあっという間に完食。シメにバケットを注文してみました。
軽く焼いてあるバゲットにスープの味がよく染み込み、これが想像以上のおいしさ!サクッ、ジュワ、という食感がたまらない!
市川さんの話だと、スープまで残さずに完食する人が多いよう。細部までこだわり抜かれたアドニスのつけナポリタン。人気があるのも、うなずける味です!
■つけナポリタン誕生秘話
つけナポリタンは、テレビ番組の企画でやってきた都内の有名つけ麺店「めん徳二代目つじ田」店主・辻田雄大さんと、アドニスが協力して作り上げたメニュー。その誕生には、意外なきっかけがありました。
市川さん「隣の富士宮市が地元のやきそばを、『富士宮やきそば』というご当地グルメとして売り出したんです。それがどんどん有名になっちゃって、悔しいから吉原商店街でもご当地グルメを作ろうという企画になったんですよ」
「富士宮やきそば」と言えば、第1回B-1グランプリ王者にも輝いたご当地グルメ。それに対抗するため、商店街の老舗であるアドニスのメニューをヒントにして開発されたそうです。
市川さん「辻田さんと私とで話し合いを重ねて、アドニスでよく注文されるナポリタンを、新しいご当地グルメにしようという発想にたどり着きました。そうして辻田さんが考案したのが、つけナポリタン。アドニスのナポリタンに使っているトマトソースを、そのままつけナポリタンのスープに活用したんです」
テレビ番組の放送当時、生まれて初めて店に行列ができているのを見て驚いたという市川さん。その後、地元のまちおこし団体の活躍もあり、つけナポリタンは知名度を高めていきました。
市川さん「商店街にも活気が戻ってきました。土日になるとカップルやファミリーが、つけナポリタンのマップを見ながら散策して、色んな店に行っているみたいですよ。でも、お客さんはうちが一番うまいと言ってくれます(笑)」
つけナポリタンを提供する各店は、独自の味を追及しています。スープのベースだけを見ても、牛や野菜、魚貝、コンソメなどさまざま。近ごろは県外への広がりも見せる、つけナポリタンの魅力とは何でしょう?
市川さん「可能性ですかね。基本さえ守っていれば、どんなアレンジもしていい。店舗の数だけ、バリエーションがある。新しいメニューなだけに、創意工夫次第で色んな味を生み出していけると思います」
元祖として、誕生当時の味を守り続けるアドニス。その一方で、つけナポリタンはまだまだ進化を続けています。今後も目が離せませんね!
- 店舗情報
●COFFEE SHOP アドニス
住所:静岡県富士市吉原2丁目3-16
電話:0545-52-0557
営業時間:10:00〜17:00(火曜休)
※つけナポリタンの提供は11:00〜
http://adonis.yoshiwara-shoutengai.com/
※記事中の情報・価格は取材当時のものです。