日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は、岩手県最北端に位置する九戸郡軽米町へ。かつて陸奥国南部藩の領地だった、青森県南部から岩手県北部の地域で食べられている「かっけ」を探しにいきます。
さて、このかっけという郷土食、その名前から見た目を想像することが、まったくできません。そばや麦から作られるらしいのですが、いったいどんな麺料理なのでしょう? 軽米町でかっけを製造する、明治42年創業の老舗製麺所「古館製麺所」で話を聞いてみました。
■かっけの正体に迫る!
製麺所に併設されている直売店舗にお邪魔すると、何種類もの麺がところ狭しと並んでいます。そのなかに、正方形の変わった食材を発見! 麺らしからぬ見た目ですが、どうやらこれが“かっけ”のようです。
古館さん「かっけは、青森県の三戸や岩手県の九戸あたりに伝わる、農家の家庭料理ですね。そばを作るとき、生地を棒で丸く引きのばすでしょう。切ると、どうしても端っこが余ってしまう。きちんと長細いそばになった部分はお客さん用にして、端っこの“かけら”の部分は自分のところで食べたんです。そのかけらが転じて、“かっけ”と呼ばれるようになったと言われています」
そう教えてくれたのは古館製麺所の二代目、古舘機智男さん。かっけには、そば粉でできた「そばかっけ」と、小麦粉でできた「むぎかっけ」の二種類があります。
古館さん「そばかっけも、むぎかっけも、材料や製造工程のほとんどは『そば』や『うどん』と変わりません。違いは生地を裁断する工程で、普通の麺のように細長くせず、正方形に切るところだけです」
その歴史ははっきりとしませんが、そばかっけは江戸末期にはすでに食べられていたようです。むぎかっけは30年ほど前に登場した比較的新しいものですが、どちらも軽米町では昔から親しまれているそう。
古館さん「お店で食べるというよりは、忙しくて料理を作る暇がないとき、『夕食は手軽に作れるかっけにしよう』という感じで家庭の食卓に出てくるものですね。うちの家内なんかは、昔はそば生地を餅くらいの大きさに丸めてからのばして、手作りしていたみたいですが、今では地元のスーパーで普通に買うことができます。冬になると、だいたい週に1回くらいはかっけが出ますね」
■そばやうどんとは一線を画する味わい
でも、このかっけ、一体どうやって食べればいいのでしょう? 材料がそばやうどんと同じだから、ゆで上げてめんつゆにつければいい……というわけではなさそうです。
古館さん「かっけは、鍋料理なんです。正方形のかっけの生地は、おおよそ三角形になるよう6等分くらいに切ります。昆布だしを取った鍋に入れて、ゆで上がったら熱々のままにんにくみそにつけていただきます。鍋には豆腐やねぎ、大根を入れることもあって、人によってはねぎみそで食べるみたいですね」
実際に食べてみると、そばやうどんとは完全に別モノであることがわかります。しっかりとした歯ごたえがありながら、ツルっとした食感で食べやすく、箸がどんどん進みます! さらに、舌の上で広がる甘辛いにんにくみそが、たまらなく後を引くのです。
古館さん「そばやうどんは昼に食べることが多いと思いますが、かっけは夜に食べるもの。にんにくみそがお酒に合うんですよね。ただし、食べるのは週末。口がにんにく臭くなっちゃいますから、人と会わないときにね(笑)」
もちろん、おなかが膨れる粉物料理なので、お酒を飲まない人でも満足できるはず。お酒のアテにぴったりでありながら、家族みんなで囲める親しみやすい家庭の味なのです。
近ごろは、かっけをピザの生地にしたり、揚げ物の皮にするなど、型にはまらない食べ方も登場しているようです。去年あたりから東京にある岩手県のアンテナショップなどでも、かっけの売れ行きが好調だとか。今は通販などで気軽に手に入れることができます。鍋が恋しくなるこれからの時季にぴったりですね!みなさんも、ぜひ一度食べてみてください!
- 店舗情報
●古館製麺所
住所:岩手県九戸郡軽米町大字軽米8-139
電話:0195-46-2301
営業時間:平日・土曜8:00〜19:00(冬期は〜18:30)、日曜8:30〜12:30 ※麺の販売のみ、食事の提供は行っていません。
http://www.hattouya.com/
※記事中の情報・価格は取材当時のものです。