日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は、俳人・種田山頭火が愛したという温泉街・山口県下関市の川棚温泉へ。
なんでも、この地の旅館や料亭などがこぞって提供している「瓦そば」なる料理があるとのこと。瓦って、民家の屋根にかけられているあの瓦のこと? その正体を突き止めるべく、瓦そば発祥の地・たかせさんを訪れました。
竹原さん「瓦そばは、瓦の上にそばを乗せた料理のことですよ。アツアツの瓦に茶そば、錦糸卵、牛肉を乗せて、海苔とレモン、もみじおろしを添えるんです。作っているところを見てみますか?」
案内してくれたのは、店長の竹原さん。後をついて調理場へお邪魔すると、目に飛び込んできたのは、いたって普通の瓦! まぎれもなくあの屋根の“瓦”です。今まさに、強烈な炎で熱せられています。その隣では、茶そばが炒められていました。
竹原さん「このパチパチっという音が印象的でしょう? 瓦は300℃くらいまで熱しています。遠赤外線効果といって、瓦にそばを乗せることでまんべんなく熱が通るんです」
なるほど、瓦にもちゃんと意味があるんですね! 瓦の上で奏でられる心地良い音に、いやがおうにも期待が高まります。さて、お待たせしました。こちらが瓦そばです!
茶そばの芳醇な香りが、瓦の熱に乗ってふわっと漂ってきます。 香りと音だけでこれだけ楽しませてくれるんだから、口に入れたらさぞおいしいはず。期待が高まります。
竹原さん「まずは麺だけをつゆにつけて食べてみてください」
さっそく口に入れてみると…。おっ、瓦に接してパリパリになった部分とやわらかい部分、ひと口で2つの食感が楽しめる! 堅焼きそばのようになった部分はつゆをほどよく吸っていて、噛めば噛むほどうま味が広がります。
竹原さん「そのままで味わったら、もみじおろしとレモンをお好みでつゆの中へ。レモンを加えたらサッパリ感が、もみじおろしを加えたら辛味がアップします」
言われたように入れてみると、また味が変わること! もみじおろしのツーンとした辛さがアクセントになって、麺を口に運ぶ手が止まりません。
麺だけにフィーチャーしていましたが、具材の牛肉と錦糸卵も脇でいい仕事をしているんです。塩だけで味付けして湯通しされた牛肉は、脂の味がとっても上品。一方の錦糸卵も、浸したつゆをたっぷりと吸っていて、つゆのおいしさを舌に伝えてくれます。まさに、計算し尽くされたうまさ!
竹原さん「瓦は冷めにくいから、ずっと温かいままで食べられるのもいいところなんです。『もっと熱くして!』というお客さんもいますよ」
■「瓦そば」の由来と「たかせ」の歴史
ところで、なぜ「瓦」なのでしょうか? 竹原さんにその由来を聞いてみました。
竹原さん「先々代の創業者が、『西南戦争(1877年)のとき、熊本城を囲む薩軍の兵士たちが、長い戦いの合間に瓦で肉や野草などを焼いて食べた』という話を聞いて、考案したと聞いています。瓦そばが誕生した半世紀ほど前は、実際に民家で使っていた瓦を使っていましたが、今は島根県の石州瓦で特注で作ってもらっていますね」
今では下関でポピュラーになって、一般家庭でも親しまれているという瓦そば。家庭では瓦は用意できないから、ホットプレートなどで作るところが多いといいます。
竹原さん「でも、瓦じゃないとあの味は出せないですからね。うちの味を求めて、何度も来てくれる人も多いですよ」
そんなたかせさん。冒頭の写真でも紹介しましたが、とっても風情にあふれた場所なんです。大正時代の趣きをそのまま残した建物に、錦鯉が悠々と泳ぐ庭園。胃も満足することながら、美しい景観に心まで満たされそうです。
竹原さん「この建物、元は芸者さんの置屋だったそうです。ここは温泉街ですから、昔は街中が芸者さんで賑わったそうですよ」
「瓦そばといったらたかせ」。今でこそ瓦そばを出すお店は増えましたが、それでもここが発祥の地として愛され続けるのは、ノスタルジーをそそるこの建物あってこそなのだと思いました。日常の疲れを癒してくれる温泉と、極上の瓦そば。一度この地を訪れたら、きっと忘れられない思い出になることでしょう。
- 店舗情報
●瓦そばたかせ 本館
住所:山口県下関市豊浦町大字川棚5437
電話:083-772-2680
営業時間:11:00~21:00[20:30L.O]
月曜日のみ11:00~15:00[14:30L.O]、17:00~21:00[20:30 L.O]/木曜休[祝日の場合は営業 ※新館・別館は営業中]
http://www.kawarasoba.jp/modules/navi/index.php?lid=8
※記事中の情報・価格は取材当時のものです。