日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡りレポートする「ご当地ヌードル探訪」。今回は、栃木県佐野市に郷土色として伝わる、世にも珍しい「耳うどん」をご紹介します。
さて今回の耳うどん、なぜこんな名前なのかというと、麺が文字通り耳のような形をしているから。実はこの形には、深い深い理由があるのだとか。そこで、創業明治40年の老舗、野村屋本店にお邪魔しました!
■耳を食べれば、その年は平穏無事になる?
案内をしてくれたのは、4代目の野村信行さん。さっそく話を聞いてみました。
野村さん「もともとは葛生町仙波(せんば)という地域、それも山手のあたりで食べられていた正月料理なんです。紀元は江戸時代の終わり頃にまでさかのぼるんですが、昭和の時代には廃れかけていたそうで。それを50年くらい前に、うちの先代が甦らせたと聞いています」
つまりは、一度は歴史の表舞台から消えた知る人ぞ知る料理。では、なぜこのような形になったのかというと……。
野村さん「耳うどんは厚めの生地をクルッと巻いて形作っているのですが、これは保存がきくから、年越し前に麺を作り置きして、正月の間、家族やお客さんを囲んで食べるおもてなしの料理だったそうです。で、なぜ耳の形なのかというと、耳を悪魔の耳になぞらえて、三が日に耳うどんを食べてしまえば、我が家の話を悪魔に聞かれないから、その年は平穏無事に過ごせるという言い伝えがあったからだといいます」
耳を食べて厄を払いのけるとは、なんという不思議な風習! ちなみにそれ以外にも、耳を食べてしまえば悪口が聞こえないから、近所との付き合いが円満にいくなど諸説あるといいます。
それでは耳うどん、実際にいただいてみましょう!
■食感はまるでアルデンテ!
上に乗っているのは、かまぼこや鶏肉の他、うどんの具には珍しいカニかま、伊達巻きも!!もともとが正月料理だからその名残に、ということなんだそう。顔を近づけると、柚子の爽やかな香りがふわっと鼻腔をくすぐります。
口に入れてみると、もっちりと心地よい歯ごたえ! まるでアルデンテのようなコシのある食感です。1つひとつがそれなりの大きさですが、ダシを十分に吸っているので、スルッと食べられます。
野村さん「蕎麦屋ですからね、ダシにもこだわっていますよ。3つのかつお節をブレンドしたダシはパンチがありますが、麺に纏わせるとちょうどいい味わいになります」
この麺、クセになるのが、端っこの部分と生地が折り重なった中心部分で厚みが違うから、2つの食感が味わえること! 端っこはツルリと、中心部分は噛みごたえがあって、食べていて楽しい! でもこれ、とても手間がかかるのでは?
野村さん「1杯に入っている麺が15個、土日の忙しいときで100杯くらい出ますから、かなりの数の“耳”を作っていることになりますね。この形は、やっぱり人の手じゃないと作れないなあ」
ちなみに、今回いただいたのは一番スタンダードなものですが、他にも下記のメニューがあります。
●田舎風耳うどん…けんちん汁の耳うどん
●味噌煮込耳うどん…みそ味の耳うどん
●カレー煮込耳うどん…もちとチーズが入ったカレー味の耳うどん
●モツ煮込耳うどん…モツが入った耳うどん
野村さん「特に人気があるのが、カレー味ですね。麺にドロッと濃厚なカレーが絡んで、とてもおいしいですよ!」
これだけ種類があるのも、「郷土料理が原点だけど、もっとカジュアルに味わってほしいから」と野村さんはいいます。確かに、どれもおいしそう。
その珍しい風習ゆえ、一度は歴史から消えた耳うどん。もっと多くの人に食べてもらいたいと、今も進化を続けているんですね。この極上食感、一度食べたら虜になること間違いなしです! 食べておいしい、厄払いもできて一石二鳥(?)の耳うどん、みなさんも召し上がれ。
- 店舗情報
●野村屋本店
住所:栃木県佐野市相生町2819
電話:0283-22-0396
営業時間:平日11:00〜19:15LO、
土・日・祝日11:00〜19:30LO、第4水曜11:00〜14:30LO(木曜休)
http://www.mimiudon.com/
※記事中の情報・価格は取材当時のものです。