暮らしのコト

麺は口ほどにものを言う~ご当地ヌードル探訪~

焼きそばとカレーのいいとこ取り! 京都府宮津市の「宮津カレー焼きそば」

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日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は京都府宮津市にやってきました。宮津市の観光地として、忘れてはならないのが「天橋立」。陸奥の松島、安芸の宮島とともに、日本三景に挙げられる名勝です。

天橋立

日本神話によれば、天と地を結ぶハシゴが倒れ、一本の長い陸地になったものが天橋立だそう。

知恩院

「日本三景」ならぬ「日本三文殊」の一つ、知恩寺の山門。青々とした松に囲まれています。

知恵の輪

三回くぐると賢くなるという、知恩院横の「知恵の輪」。奥に見える「廻旋橋」は、船が通るたびに90度回転する珍しい橋です。

美しい景色が立ち並び、通称「海の京都」と呼ばれる京都府北部に位置する宮津市。そこで親しまれているご当地グルメが「宮津カレー焼きそば」なんだとか。名前からは、焼きそばにカレーをかけたもののようなイメージがわきますが……。どのようなものなのでしょうか?

疑問を明らかにすべく、宮津カレー焼きそばのPR活動を行う「宮津カレー焼きそば会」の代表が店主を務める人気店、「カフェ・レスト絵梨奈」に伺いました!

天橋立駅から一駅、宮津駅で降り立ちます。心地よい潮風の中を歩くこと約15分、目的のお店が見えてきました。

外観

大通りから一本入った道沿いにある「カフェ・レスト絵梨奈」。瀟洒な洋風の外観です。

内装

店内にはカウンターとテーブル席が。奥には座敷(要予約)もあります。

今回案内してくれたのは、店主の家城(いえき)総明さんと、奥さまの真弓さんです。

ご夫婦

話上手で、とっても明るい家城さん夫妻。お店が愛される理由がわかります。

早速カレー焼きそばを注文すると……。

家城さんウェットにしますか? ドライにしますか?」

カウンター越しに、家城さんから謎の問いかけが。戸惑いながら、ひとまず“ウェット”を注文してみました。すると、家城さんが取り出したのは深さのある中華鍋。十分に熱した鍋に、野菜、ハムを入れ、麺を混ぜて、熟練の手つきで炒めていきます。

手順1

厨房のコンロはシンプルな二口。左のコンロに置いてある片手鍋が気になりますが……。

全体が混ざり合い、やがて焼きそばが出来上がりました。すると家城さんは、おもむろに白いスープを入れ始めたではありませんか!

手順2

隣のコンロにあった鍋の中身は、豚のパイタンスープでした。

続いて取り出したのは茶色の粉。先ほどのパイタンスープで溶いて液状にし、こちらも鍋に投入!

手順3

茶色のスープが入った途端に、スパイシーなカレーの匂いが漂います。

手順4

中華鍋を左右に振りながら炒めることで、スープをまんべんなく行き渡らせます。

完成

やがて出てきたのは、なみなみとしたカレースープに浸った焼きそばでした!

家城さん「宮津カレー焼きそばは、汁気のない“ドライ”タイプから、カレーベースのスープに浸った“つゆだく”まで、スープの量によってタイプが異なります。うちで提供しているのは“ドライ”と、“つゆだく”とはいかないまでも、ある程度スープが入った“ウェット”の二種類。店舗ごとに特徴がありますが、うちのカレー焼きそばは、“宮津一スパイシー” と言われています」

スープ

ウェットタイプのポイントであるスープは、少しトロみがついています。

見た目は焼きそば、ただしその香りは紛うことなきカレー。脳が処理できないまま、まずはスープを一口飲んでみると……口の中に豚の旨みがたっぷり溶け込んだ、カレーの味わいが広がります! 食べ始めはあまり辛みは感じませんが、少し経つと舌がピリピリとするスパイスの辛みがやってきます。若干のトロみはありますが、あくまでスープなので、喉ごしはサラサラ。

普通のカレーよりも豚のコクをたっぷり感じられますが、改めて見ると具にはハムしか入っていません。なぜこんなにも豊かな豚の味わいがするのでしょうか?

家城さん「鍋に敷く油代わりに、豚の背脂をカリカリになるまで炒めていますし、途中で自家製のラードも加えています。また、豚のパイタンスープをおたま二杯分使っているのもポイント。ちなみに先ほどパイタンスープで溶いていた茶色の粉は、数種類のカレー粉とスパイスを独自にブレンドしたものです」

麺

焼きそばは柔らかな細麺。麺と一緒に摘んでいるもやしに注目を!

それでは、麺を食べてみましょう。スープによく絡む細麺は、柔らかくてツルツルです。スープの味がよくなじむという理由から、ストレートの蒸し麺を使用しているそう。確かに、味がよく染み込んでいます。また、たっぷり入った色とりどりの野菜はシャキシャキとして歯ごたえがよく、素朴な甘みがスパイシーなスープを引き立てます。上に添えられた福神漬けも甘めで、刺激に痺れた舌を休めるには最適。

家城さん「自分が好きだから、野菜はたくさん入れているんです。すべて宮津で採れた野菜を使って、食感を活かすためにサッと炒めます。とりわけもやしには気を配っていて、口の中に残らないように豆とヒゲ根は必ず処理。毎日手作業でやるので大変なときもありますが、歯ざわりが良くなるので手を抜いたことはありません」

具とスープ、スパイシーさと甘さが調和して、絶妙なバランスになっています。さしずめ焼きそばとカレーのいいとこ取りをした、一皿で二度美味しいメニューといったところでしょうか。これだけでも満足できますが……。

家城さん「ウェットを注文されたお客さんの8割ぐらいは、残ったスープにごはんを入れて食べるんですよ」

ご飯

別メニューのご飯を追加注文し、お客さんが自分で浸して食べるスタイル。

なんとこの宮津カレー焼きそば、一皿で三度美味しいメニューだったのです!

実際に食べてみると……一見普通のカレーかと思いきや、スープに溶け出した豚や野菜の旨みが非常にまろやかな味わいを作り出しています。かつ、カレーよりも水分の多いスープがご飯によくなじみます。スープをまとったごはんがスルスルと口の中に入っていき、スプーンが止まりません。お茶漬け感覚で食べる人もいるそうですが、納得の食べやすさ。あっという間に完食してしまいました。

■定義がないからこそ面白い”ソウルヌードル”

この宮津カレー焼きそば、いつ頃から食べられるようになったのでしょうか?

家城さん「宮津カレー焼きそばは、昭和30年代に “平和軒”というお店から始まりました。ウェットタイプだったそうですが、約30年前に閉店してしまって以来、再現不可能な“幻の味”になってしまって……。だから、その味を追い求めて、各店舗がそれぞれオリジナリティあふれるカレー焼きそばを提供し始めたんです。お客さんの中にも、平和軒の味を再現しようとする熱心なファンがいるんですよ」

カフェ・レスト絵梨奈は、喫茶・スナックとして33年前に創業し、置いていたカラオケをやめるタイミングで現在のカフェ・レストに変えたそうです。カレー焼きそばはスナック時代から提供されていましたが、当時は地元客が多く、人気メニューもオムライスなどでした。しかし、7年ほど前にメディアで取り上げられてから話題になり、現在では、カレー焼きそば目当てにお店にくるお客さんがほとんどだという人気ぶり! ちなみにウェットとドライの人気は半々だそうです。

ドライ

こちらはドライタイプ。ドライとはいえ、おたま一杯分のパイタンスープを使っているので、しっとりしています。

家城さん「宮津カレー焼きそば会の中で、うちは2番目に古いお店なんです。そういった歴史もあって、現在では宮津カレー焼きそば会の代表を任されてしまって(笑)。でも、せっかく注目してもらったからには、いろんな方に宮津に来てほしいですし、何より宮津の人にもっと盛り上がってほしいですね」

宮津カレー焼きそば会では、パンフレット作成や、コンビニエンスストアの期間限定商品「宮津カレー焼きそばドッグ」の監修を務めるなど、多岐にわたったPR活動をしています。ある店舗がメディアに取り上げられるときは、他店舗のカレー焼きそばの紹介もするというように、会が一丸となってアピールしているそう。

パンフレット

天橋立を望む「天橋立ビューランド」で見つけたパンフレット。そこには「ソウルヌードル オブ 宮津」の文字が。

家城さん「昔から食べているものですから、もっといろんな方に知ってもらいたいという気持ちはあります。ご当地グルメの大会に出場するよう、言われることも多いんですよ。ただ、宮津カレー焼きそばには“カレーと焼きそばを一緒に炒める”以外の定義がなくて。各店舗でバラバラのものを出すわけにはいかないので参加しないんです(笑)。でも、僕はそれでいいと思っています。宮津カレー焼きそばは、単なる “ご当地グルメ”以上に、宮津の人の“ソウルヌードル”だから」

実際、宮津カレー焼きそばを扱っているお店はカフェから中華料理店までさまざま。ウェット、ドライタイプの違いはもちろん、使っている野菜や麺のタイプ、味付けまで異なっていて、だからこそ面白いと家城さんは言います。

宮津カレー焼きそば会では、今年もイベントの企画を予定しているそう。天橋立観光の際は、スープのように宮津に浸透したカレー焼きそばを堪能してみては?

  • 店舗情報
    ● カフェ・レスト絵梨奈
    住所:京都府宮津市字万年1015-1
    電話:0772-22-2727
    営業時間:10:00~23:00LO(第2・4日休)
    http://curryyakisoba.com

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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