暮らしのコト

麺は口ほどにものを言う~ご当地ヌードル探訪~

スープ一面を覆う”タマネギ”が主役! 東京都八王子市の「八王子ラーメン」

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日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は東京都八王子市にやってきました。八王子市といえば、古くから修験道の霊山とされ、現在でも観光客や登山者で賑わう高尾山が有名です。また、武田氏・徳川氏に仕えた大久保長安という武将によって市街の基礎が作られた、歴史ある土地でもあります。

高尾山

人気の観光スポット・高尾山は、平日も観光客や登山者で賑わっています。

天狗

高尾駅にある高さ2.4mの天狗像。鼻の長さは1.2m!

そんな八王子で、地元の人たちに長年愛されているのが「八王子ラーメン」です。しょうゆベースであること、スープの表面を油が覆っていること、そして何と言ってもトッピングに生の刻みタマネギが入っていることが特徴として挙げられるご当地ラーメンです。

1959年ごろに確立し、現在では数多くの専門店が生まれていますが、近年は“進化”した八王子ラーメンを出すお店が増えているようです。そこで、八王子ラーメン”第二世代”のパイオニアとも言える存在、「中華そば専門店 吾衛門」を訪れました!

創業22年目を迎える「中華そば専門店 吾衛門」。西八王子に店を構えてから徐々にリピーターを増やし、現在では雨が降っても雪が積もっても行列が絶えない人気店になったとか。

外観

歴史を感じさせる昔ながらの外観。西八王子駅から徒歩3分と、抜群の立地です。

内観

すみずみまで手入れされた店内には、カウンター席が10席のみ。

早速、一番人気の「中華そば」タマネギ多め、通称“タマネギマシ”を注文してみましょう!

タマネギマシ

こちらがタマネギマシをした「中華そば」。たっぷりのタマネギはインパクト大!

店主の石川征之さんが持ってきてくれたどんぶりの中には、麺や具が見えないほどのタマネギが! 透き通ったスープを、油をまとったタマネギがぎっしりと覆い尽くしています。

通常の中華そばではレンゲ1杯分のタマネギが、“マシ”になると4杯分が器に投入されます。中には、8杯分の“タマネギマシダブル”や、12杯分の “トリプル”を頼む地元客もいるとか。吾衛門では、毎日12kgものタマネギを使用しているそうです!

中華そば

一般的な八王子ラーメンである通常の「中華そば」と比べると、タマネギの圧倒的な量の差がわかります。

石川さん「僕が知る限りでは“タマネギマシ”をスタートしたのはうちが最初なんです。だからこそタマネギにはこだわっていて、産地にかかわらず時期に合わせて美味しいタマネギを選んでいます。タマネギマシをしたお客さんの9割は、次に来店したときもタマネギマシをリピートしてくれますね。中華そばはもちろん、チャーシューメンなど、どんなメニューにも合うんですよ」

そんなタマネギがたっぷり入ったスープを一口飲んでみると……生のタマネギを食べた時に感じる、あの独特の辛みはほとんどありません! この秘密はなんなのでしょうか?

石川さん「八王子ラーメンの特徴であるスープを覆う油、つまりたっぷりのラードがポイントです。ラードがタマネギとよく絡んで、辛みを抑え、うまみを引き出すんです。使っているのは特製のラード。使用するラードの多寡は店舗によって違いますが、どこもその店特製のラードを使っているんですよ」

タマネギとスープ

生タマネギと、それに絡むたっぷりの油。八王子ラーメンの二大特徴です。

なるほど、それで辛みが少ないんですね。よく見ると、タマネギの粒の大きさがバラバラのようですが……。

石川さん「タマネギはあえてランダムな大きさに刻んでいるんです。大きめに刻めば食感がよくなりますし、細かく刻めばスープにタマネギが溶けてうまみが出ます。タマネギが持つ、両方の魅力を味わってほしくて」

そんなタマネギは、中細麺やスープとの相性も抜群。モチモチで、少し固めのストレート麺は、吾衛門オリジナルなんだとか。水をあまり含ませずに作る、加水率が低めの麺なので、タマネギのうまみが染み込んだスープがよく絡みます。

タマネギと麺

タマネギと麺、スープが一体となって、独特のハーモニーを生み出しています。

スープは、八王子ラーメンのセオリーにのっとったしょうゆ味。濃い口しょうゆのキリッとした香りが食欲を刺激します。しかし、口当たりは柔らかく、味わいは非常にあっさり、それでいてコクがあります。ラードが光る見た目ですが、油っぽさは全くありません。この味の奥深さの秘密は豚のゲンコツや背ガラ、背骨といった豚骨と、かつお節、煮干し、サバ節、それから宗田節といった魚介を使っているからなんだとか。

トッピングは海苔、タマネギの下に隠れたメンマ、チャーシューのみとシンプル。特にチャーシューは、外国産や冷凍のものを一切使わず国産の生豚肩ロースにこだわっているので、繊維を感じさせない柔らかさです。どこから食べてもホロリと解け、うまみが弾ける極上の逸品!

スープ、麺、トッピングすべてとタマネギがマッチしていますが、とりわけモチモチの麺とシャキシャキのタマネギは、異なる食感なのに不思議と調和しています。そのハーモニーを楽しんだ後でスープを飲めば、口の中にまろやかなタマネギの風味が広がります。女性でも最後の一滴まで飲み干せてしまう、優しくて、バランスの良いラーメンでした。

■八王子に来た時はタマネギの食感とうまみを楽しんで

“タマネギマシ”の創始者である石川さんは、西八王子の出身で、幼い頃からラーメンが好きだったと言います。学生時代に「ラーメン屋になりたい」と思った時に、生まれ育った土地で“八王子ラーメン”のお店を開こうと考えたのはごく自然なことだったそうです。

石川さん

店主の石川さん。熱意のこもった話しぶりから、八王子ラーメンへの愛情と誠実さが伝わってきます。

石川さん「そもそも“八王子ラーメン”という呼び方は、10年ぐらい前にご当地ラーメンブームが起きた時、お客さんがつけたものなんです。でも、生まれた時から八王子ラーメンがあって、そのラーメンを食べて育った僕にとっては、どんな呼び方でも関係ありません。タマネギがのっていて油がたっぷりの、おいしいしょうゆラーメンが僕ら八王子市民のラーメンなんです。それがもっと多くの人々に伝わればいいなと」

石川さんが昔から食べていた “第一世代”とも呼べる八王子ラーメンは、油でスープが覆われ、あくまでトッピングとしての量のタマネギがのった、しょうゆベースのシンプルなもの。しかし石川さんはお店を開く時に、それらを超えるような“第二世代”の八王子ラーメンを目指したんだとか。そして生まれたのが、“タマネギマシ”なんです。

実は “タマネギマシ”は、創業当時から裏メニューとして無料で行われていたもの。しかし、口コミで評判が広がったことや、ブームによって“八王子ラーメン”にスポットが当たったことにより、この裏メニューを注文する人が相次いだそうです。その結果、石川さんは「きちんと提供方法や量を整えて、商品としてお出ししよう」と考え、10年ごろ前からメニューに入れたんだとか。定番人気となった現在では、地元の人はもちろん、遠方からもこの味を求めてお客さんが殺到しています。

石川さん「うちの自慢は、お客さんの層が非常に広いこと。地元の人でも市外の人でも、老若男女、誰にでもおいしく食べてもらえるラーメンなんです。現在八王子ラーメンの店舗は市内にたくさんありますから、八王子に来た時は、ぜひタマネギの食感やうまみを存分に味わってもらえれば」

駅や観光案内などに置いてある八王子のフリーペーパーのほとんどには、八王子ラーメンの記事や、おすすめ店舗のマップが載っています。また、「八麺会」という団体により、八王子ラーメンの食べ歩きマップの作成をはじめとしたPR活動も行われています。

あっさりとしたラーメンなので、いろんな店舗を食べ歩いたり、高尾山観光の疲れを癒す一杯にしたりしてみるのもおすすめです。その際は、各店のタマネギに込められたこだわりと愛情に注目してみてくださいね。

  • 店舗情報
    ●中華そば専門店 吾衛門
    住所:東京都八王子市千人町3-3-3
    電話:042-663-6861
    営業時間:月~金11:00~17:00、土11:00~18:30
    ※スープがなくなり次第終了(日・祝日休)
    http://www.hachimen.org

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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