(ライター:村上 健)
「ここでやりよっと? 探しとったんよ」「はい。また来てね」。これからご出勤のあでやかなお姉さまと屋台の店主が言葉を交わします。
ここは九州随一の歓楽街、中洲。水面にネオンきらめく川沿いに、以前別の場所で営業していた十数軒の屋台が集まり、どこも大賑わいです。
気軽に立ち寄れて地元客にも観光客にも人気の屋台の始まりは、戦後の食糧難の時代です。衛生面や道路使用の問題で一時は消滅の危機に瀕しましたが、公認された現在は中洲や繁華街の天神周辺で100軒以上が元気に営業中です。
メニューも、ラーメンやおでんから、焼き鳥、洋食、はてはジャズが流れるバーまで実に多彩。さすが全国に知られる屋台のまちです。
一軒の屋台に陣取ると、「学生時代は隣りに座ったオジサンからおごってもらったよ」と、今では立派なオジサン客が話しかけてきます。時代がどんなに変わっても、温かくて懐かしいこの空気は残しておいてほしいものですね。
村上 健 Ken Murakami
編集者の仕事の傍ら、各地の風景を描く。著書に『昭和に出合える鉄道スケッチ散歩』『怪しい駅 懐かしい駅』がある。

月刊不動産流通2017年1月号掲載