(ライター:村上 健)
仕事で関西へ出掛けると、つい立ち寄りたくなる場所が大阪ミナミの盛り場「新世界」にあります。全長180mほど、道幅3m足らずの「ジャンジャン横丁」です。
大正10年、大阪屈指の歓楽街だった通天閣界隈と飛田遊郭を結ぶ道筋として開通し、嬌声と脂粉の香り漂うバラック建ての店先からは、呼び込みの三味線がジャンジャンと鳴り響いていたことからその名が付けられたとか。平成の今となっては、林芙美子や開高健の小説にも活写されたという戦後の賑わいはありませんが、それでも大阪の下町特有の庶民的な空気に浸るには、うってつけのゾーンです。
狭い横丁の両側をのぞきながら歩いてみましょう。カウンターに陣取り、「二度漬け禁止」のタレに浸した大阪名物・串カツを次々と口へ運ぶ人。立ち飲みでコップ酒をあおる人。将棋盤とにらめっこする人……。軒を連ねた飲食店や将棋道場には、どこもこんなオジサンばかり。しかもこれが平日の朝10時過ぎの光景です。
電車の中でもスマホやタブレット端末でせわしなく仕事のやりとりをしなければならないご時世に、こんな浮世離れした人たちもいるんですねえ。いいなあ、新世界。

カラッと揚がった串カツ目当ての客が午前中から詰めかける串カツ専門店
村上 健 Ken Murakami
編集者の仕事の傍ら、各地の風景を描く。著書に『昭和に出合える鉄道スケッチ散歩』『怪しい駅 懐かしい駅』がある。

月刊不動産流通2015年4月号掲載