(ライター:村上 健)
昭和の時代、東京のあちこちの駅前には活気に溢れた商店街がありました。時は移り、郊外の大規模商業施設にお客を奪われてシャッター通りになった中心市街地が多いこのごろですが、どっこい、元気な商店街もあります。
火灯しごろ、総菜を品定めする主婦。焼き鳥の包み片手に家路を急ぐ勤め人。立ち飲みの店でコップ酒をチビリとやる老人……。まるで映画『三丁目の夕日』を地でいく風景が広がる「京成立石」駅は、「昭和駅前遺産」とでも呼びたくなる風情に溢れています。ならばスケッチも夕焼け時と、お腹が空くのを我慢して描いたのがこの一枚です。

居酒屋も兼ねる鶏肉の店
駅ができた大正末期は、ノンビリした葛飾の田園地帯だった駅周辺ですが、関東大震災で焼け出された人たちが都心から移り住んで、次第に人口が密集する下町へと変わっていきました。各駅停車しか停まらない割に今も乗降客が多く、前身が露天の闇市だった南口の「立石仲見世アーケード」には、戦後の香りがプンプンする商店が勢ぞろい。週末ともなれば、安くてうまいと評判の居酒屋や立ち食い寿司の店目当てに、遠方からもお客が押し掛けます。というわけで、私も焼き鳥を買っていざわが家へ。

繁華な商店街の裏手に木造アーケードも残る
村上 健 Ken Murakami
編集者の仕事の傍ら、古い商店や駅舎など心に染みる風景を描き続けている。 著書『昭和に出合える鉄道スケッチ散歩』『怪しい駅 懐かしい駅』 ほか

月刊不動産流通2014年9月号掲載