(ライター:村上 健)
さいたま市の中心街である大宮区は、JR「大宮」駅を挟んで対照的な風景が広がるまちです。再開発が進み、大型店が多い西口と比べて、東口は40年以上前にタイムスリップしたよう。古いアーケードや横丁も残っています。

「さくら小路」もその一つ。100m足らずの狭い通りで昭和のオジサンの目に止まったのは、大谷石の蔵造りが珍しい質屋さん。ちなみに宇都宮特産の大谷石は加工が容易で、かつて関東一円の蔵に多く使われました。日比谷にあった帝国ホテル旧館の外壁にも使われ、竣工直後に起きた関東大震災によく耐えたことが知られています。
さて、その質屋さん、1960年代まではどんなまちにもありました。家計のやりくりに窮した主婦やサラリーマンが、質草を抱えてはノレンをくぐったものです。多くは裏通りに立地したのも、人目をはばかる客の事情からでしょう。
しかし、手軽さで「サラ金」にお客を奪われ、ネットオークション全盛の今、質屋さんのノレンをくぐるのは誰だろう?
村上 健 Ken Murakami
編集者の仕事の傍ら、各地の風景を描く。著書に『昭和に出合える鉄道スケッチ散歩』『怪しい駅 懐かしい駅』がある。

月刊不動産流通2017年6月号掲載