
4月も下旬に入り、この春から新生活を始めた人たちは、そろそろ生活のペースがつかめた頃ではないでしょうか。新生活をスタートするにあたっては、引越しを友人に手伝ってもらったり、新天地のローカルルールに戸惑ったりと、いろいろと苦労した点もあるかと思います。
新生活と言えば、都会を離れて田舎で生活することに関心を寄せる人が増えているのをご存じでしょうか。都会から生まれ故郷に戻ることを「Uターン」、都会から出身地とは縁のない地方に引越すことを「Iターン」といいますが、このUターンとIターンを実践して田舎暮らしを始める人が、ここ4年で3倍近くに増えているのです。
田舎暮らしというと、リタイア世代が余生を悠々過ごすというイメージですよね。ところが最近では、働き盛りである30〜40代の人たちの方が、田舎暮らしを真剣に考えているというのです。
そこで今回at home VOXでは、田舎暮らしが若い世代から注目されていることについて認定NPO法人 ふるさと回帰支援センターの高橋公(ひろし)さんに話を聞きました。
高橋さん「きっかけとして考えられるのは、2008年のリーマン・ショックと2011年の東日本大震災ですね。リーマン・ショックによって経済の基盤が大きく揺らぎ、都会に依存する生活に疑問を持つ人が増えました。そして震災によるさまざまな不安も加わり、特に子育て世代の人は、地方に目を向けるようになったんです」
■田舎暮らしの移住先として人気なのは長野・山梨・岡山!
下の表は、ふるさと回帰支援センターが来場者を対象に調査した、移住希望地の人気ランキングの推移です。2011年から長野が3年連続で1位。しかし、2013年に山梨が一気に上位に躍り出て、2014年にはなんと1位に!また、岡山も2013年から安定した人気を保っていますね。
順位 | 2011年 | 2012年 | 2013年 | 2014年 |
---|---|---|---|---|
1位 | 長野県 | 長野県 | 長野県 | 山梨県 |
2位 | 福島県 | 岡山県 | 山梨県 | 長野県 |
3位 | 千葉県 | 福島県 | 岡山県 | 岡山県 |
4位 | 茨城県 | 香川県 | 福島県 | 福島県 |
5位 | 岩手県 | 千葉県 | 熊本県 | 新潟県 |
高橋さん「長野は自然が豊かで、風光明媚な場所。田舎暮らしがイメージしやすいということで、とても人気が高いんです。各自治体も移住者の受け入れに積極的で、特に飯山市などは、かなり早い時期から取り組みを強めていただけあり、移住に対するサポートも手厚いんですよ」
山梨の人気が急上昇した背景には、積極的なPR活動が要因だそうです。
高橋さん「山梨の人気は、移住セミナーなどを定期的に開くようになったからでしょうね。また山梨は自然が豊かで、かつ都市圏に近いというところも人気を得ている大きな理由です」
岡山が人気の理由は何なのでしょうか?
高橋さん「自然災害が少ないという安全性や、気候の温暖さなどから、子育て世代を中心に支持されています。また、岡山は中国・四国地方の要として歴史的に人の出入りが多く、外から来た人を受け入れやすいという土壌もあるようです。いわば、Iターン向きの街といえますね」
そのほか、東北地方でも地方自治体が受け皿としての取り組みを強めており、「上位は動かないまでも、ランキングに変化があるかも」と高橋さんは言います。中でも秋田は「Aターン」(A=秋田)と銘打ち、移住者の受け入れに力を入れているそうです。
■田舎暮らしのアドバイスは家探しと仕事探し
生まれ故郷ならまだしも、見知らぬ土地で生活を再設計するのは何かと苦労が多そうです。田舎暮らしをするにあたって、どのようなことを考えればいいのでしょうか?
そこで、ふるさと回帰支援センターがセミナーなどの来場者を対象に調べた、移住先に求める条件の人気ランキングを見てみましょう。
順位 | 移住先に求める条件 | 回答率 |
---|---|---|
1位 | 自然環境がよいこと | 22.8% |
2位 | 就労の場があること | 17.9% |
3位 | 気候がよいこと | 13.6% |
4位 | 住居があること | 13.4% |
5位 | 交通の便がよいこと | 10.0% |
6位 | 耕作農地があること | 5.7% |
7位 | 土地・建物などの価格が安いこと | 5.2% |
8位 | 首都圏に近いこと | 3.1% |
9位 | 歴史的・文化的環境がよいこと | 1.3% |
その他 | 7.1% |
※「ふるさと回帰支援センター『移住地選択の優先順位 2014』」より作成
やはり田舎暮らしをする以上、自然環境のよさは外せないようですね。実際には、どんなことを条件として重視すべきなのか、高橋さんに聞きました。
高橋さん「大切なのは、事前に生活のプランを綿密にシミュレーションすること。なかでも重視すべき条件は、住居と仕事です」
田舎での住まい探しは、都会とは事情が異なります。

高橋さん「いわゆる中山間地であれば、空き家が狙い目です。現在、全国で800万戸以上の空き家があるといわれていて、これを有効活用すべく、地方自治体が物件として紹介してくれることが多いんです。手入れは必要ですが、元の持ち主との仲介に入ってくれたりするので、頼りになりますよ」
仕事についても、都会の感覚から認識を切り替える必要があると、高橋さんは言います。
高橋さん「企業に就職して給料をもらうといった、都会では一般的な考えで仕事を見つけるのは、田舎では難しいのが実情です。田舎暮らしでは、生活できるだけの収入が確保できればいいと考えを切り換えましょう」
具体的には、どんな仕事の仕方があるのでしょうか?

高橋さん「半農半X(エックス)という言葉がありますが、半分農業をやって半分別の仕事をする、あるいは5個でも10個でも小さな仕事をかけ持ちするという考え方が大事です。思い切って起業をするのもいいでしょう。私たちが以前起業セミナーをした人たちは、7割以上の人が起業に成功しています」
■スキルの還元が充実した田舎暮らしの近道
田舎で仕事を見つける・起業するうえで大切なのは、それが「地域に還元すること」だと高橋さんはいいます。
高橋さん「例えば、エンジニアや介護の資格を持っている人は、田舎ではあまり多くありません。こうした田舎で不足しているスキルを持っていると、土地の人々が頼りにしてくれます。つまり、自分の能力を地元の人々に提供するという考え方です」
地方に活躍の場を求めて、高学歴の人がやって来る例も多いとか。
高橋さん「田舎には、都会にはない人々の温かさがまだまだ残っているんですよね。移住した人たちからも、『地元の人が仕事の心配をしてくれたり、食事をおすそ分けしてくれたり、手厚く歓迎してくれた』という声をよく聞きます。地元の和の中に入り、自分を受け入れてもらおうと努力をすることが、実は一番大切だと思います。『仕事で地方へ還元する』のは、そのための近道だといえますね」
■取材協力
認定NPO法人 ふるさと回帰支援センター
http://www.furusatokaiki.net/