暮らしのコト

満腹御礼 ご当地肉グルメの旅

タルタル抜きでは語れない「チキン南蛮」の「おぐら」

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全国各地のウマい肉料理をお腹いっぱい食べ尽くしていく連載「満腹御礼 ご当地肉グルメの旅」。
今回やってきたのは宮崎県宮崎市です。

宮崎県の南部に位置する県庁所在地の宮崎市。市内には県木であるカナリーヤシ(フェニックス)が主要道路沿いに植樹され、南国情緒をたっぷりと演出しています。また、年間の平均気温は18℃前後、日照時間も全国トップクラスという温暖な気候が好まれ、冬場はプロ野球やJリーグのキャンプ地として話題を集めます。

名産品としては、気候を生かして栽培された完熟マンゴー「太陽のタマゴ」が全国的な人気になっており、パパイヤ、ライチ、日向夏といったフルーツの生産が盛んな地域です。

そんな宮崎には、今や全国で愛される定番の肉グルメがあります、それが「チキン南蛮」です。衣をつけて揚げた鶏肉を南蛮酢にくぐらせ、タルタルソースを添える。この全国的にスタンダードなメニューに、「初めてタルタルソースをかけた」というお店が、宮崎市内にはあります。今回はその名店に、チキン南蛮のあれこれについてお話を聞いてみたいと思います。

お店の最寄り駅はJR宮崎駅。ここから徒歩12分ほどです。

お店の最寄り駅はJR宮崎駅。ここから徒歩12分ほどです。

そのお店は、タルタルソース掛けチキン南蛮発祥の店「ファミリーレストラン おぐら」の瀬頭(せがしら)店です! 入口には赤く大きな字で「チキン南蛮」とあります。

こちらが今回お邪魔した「ファミリーレストラン おぐら 瀬頭店」です。

こちらが今回お邪魔した「ファミリーレストラン おぐら 瀬頭店」です。

中へ入ると、「いらっしゃいませー!」という明るく元気な声をかけられました。迎えてくれたのは、社長の渡部寛さん。渡部さんは2009年に社長に就任してからも現場に立ち続け、ホール、調理補助、駐車場の車の整理まで自らが率先してやっているとのこと。まずは店の成り立ちに関して聞いてみます。

素敵な笑顔で迎えていただいた社長の渡部さん。今も現場に立ち続けています。

素敵な笑顔で迎えていただいた社長の渡部さん。今も現場に立ち続けています。

渡部さん「『おぐら』は1956年(昭和31)に開業し、今年で創業60年になります。当初はステーキ・とんかつ・カレーを売りにした洋食店としてオープンしました。その当時、地元では『1ヵ月に1回おぐらに行ければ幸せ』とも言われ、お客様がご褒美的に訪れる洋食店だったようです。2号店からは今のようなファミリーレストランのスタイルになっていきました」

そのころからチキン南蛮はあったのでしょうか?

渡部さん「チキン南蛮はオープンから3年後の1965年(昭和34)にメニューに登場しました。その当時から、おぐらでは今のタルタルソースがかかったスタイルでお出ししています。味は当時からほぼ変えずに、そのまま受け継がれています。創業者の甲斐義光、ぼくはオヤジと呼んでいますが(笑)、そのオヤジの修行先だった『ロンドン』という店の賄いがモデルだそうで。修行を終えて自分の店をもってしばらくたつと、当時1羽買いだった鶏のムネ肉があまってしまうことが多かったとか。これはもったいないということで昔食べた賄いを思い出し、チキン南蛮という形にしてメニューにしようと思い立ったそうです」

「僕も子どもの頃に親と食べに来てましたよ」と渡部さん。

「僕も子どもの頃に親と食べに来てましたよ」と渡部さん。

しかし、創業者の修行先で味わった料理には、タルタルソースはかかっていなかったそうです。どういった経緯で、今の形が確立されたのでしょうか。

渡部さん「オヤジはアイデアマンでした。タルタルソースの前にもハンバーグ用のデミグラスソースなど、料理に合うソースを色々試していたようです。タルタルソースを使うのが定着しても、オヤジは亡くなるまで研究していましたね。おいしいタルタルソースの噂を聞きつければ、その店までスタッフを食べに行かせていたりしました。その情熱の源は、オヤジの『一度食べたら忘れられない味を提供する』というこだわりなんです。薄い味や弱々しい味だとすぐに忘れられてしまい、リピーターになってもらえない。逆に強い味を押し出せば、ふとした瞬間に思い出して、無性に食べたくなりお店に来てもらえる。そもそも宮崎の料理は味が濃いものが多く、弱い味だと生き残れないというのもあったと思います。そんななかで、チキン南蛮を忘れられない味にするためにタルタルソースをかけたんでしょう。実際、おぐらのメニューは全体的に味付けを少し濃い目にしてあります。チキン南蛮には砂糖も多めに使っているので、甘めに感じることもあるかもしれません」

確かに、チキン南蛮は突然思い出したように食べたくなる時がありますね! お話を聞いているだけでも、本場の“味濃い目”のチキン南蛮にますます興味が出てきました。それでは、この店が誇る“元祖・チキン南蛮”を作っていただきましょう!

チキン南蛮(ライス付き)1010円。

チキン南蛮(ライス付き)1010円。

湯気とともに立ち上がる、甘酢の食欲を誘う香り。そして注目すべきは、やはりたっぷりとかけられたタルタルソースでしょう。思う存分タルタルソースを堪能できそうです!

衣は見るからにさっくりと揚げられています。

衣は見るからにさっくりと揚げられています。

タルタルソース好きの方も大満足の量です。

タルタルソース好きの方も大満足の量です。

渡部さん「おぐらでは、仕込んだタルタルソースはその日に使い切ります。キュウリ、ニンジン、タマネギなどの野菜が大量に入っているので、作り置きはできません。オープン前に一度仕込みをし、ランチタイムが過ぎて落ち着いた頃に、足りなくなるのでもう一度仕込みをします。そのため、いつでもできたてのおいしいタルタルソースをお客様にお届けできます」

皿にはドレッシングのかかったキャベツの千切りと、昭和の懐かしさを感じるケチャップスパゲッティ。付け合わせも含めるとかなりのボリュームですね。それでは早速いただいてみましょう。

ナイフを入れると、衣の触感のあとに柔らかな胸肉の感触が伝わってきます。火を通すと硬くなりがちなムネ肉ですがそういったことは一切なさそうです。特製のタルタルソースをたっぷりつけて食べてみます。

衣のサクッとした感触、簡単に切れる柔らかさにも驚きます。

衣のサクッとした感触、簡単に切れる柔らかさにも驚きます。

特製タルタルソースを存分に味わいましょう。

特製タルタルソースを存分に味わいましょう。

タルタルソースのまろやかな風味が広がり、ソースの中の野菜の食感もしっかりと感じます。もちろん、チキンを覆っている甘酢の酸味との相性も抜群です。味はお話にもあったように、甘酢もタルタルソースも「甘め」という印象。普段、食べ慣れているチキン南蛮とは少し違います。その甘味がクセになり、ドンドン食べたくなる味わいで、セットのライスも進みます。

お肉は約160gで、おぐらの甘酢とタルタルソースにちょうどよい、柔らかさと大きさを持った生後6ヶ月以内の鶏ムネ肉を使用しているとのこと。パサつきもなく、最高の仕上がりです。お店によってはモモ肉を使うこともあると思いますが、なぜおぐらは現在でもムネ肉にこだわるのでしょうか?

渡部さん「モモ肉を使えばよりジューシーに仕上がるかもしれません。しかし、チキン南蛮が生まれた理由や、オヤジが試行錯誤して生み出した味であることを考えると、わたしはそれを守ることの方が大事だと思っています。宮崎おぐらでは、これからもムネ肉を使用し続けていきますよ!」

宮崎おぐらのチキン南蛮は、ムネ肉で甘めでタルタルソース。これは今も昔も変わらず、宮崎の人々に愛され続けていくのですね。ほかにもおぐらには伝統があるそうです。

渡部さん「昔放送していたCMでは『学生さんから社長さんまで』というキャッチコピーを打ち出していました。創業60年ということもあり、おぐらには老若男女問わず様々な方がいらっしゃいます。中には親・子・孫・ひ孫など4世代でご利用いただいている常連の方もいるんです。そんな方々に向けて、テーブル席の他に座敷席も設け、どんな世代の方でも楽しんでお食事ができるようにしています。そして今となっては珍しい接客スタイルかもしれませんが、時間がある時などはお客様となるべく会話して、コミュニケーションを取ることを心がけています」

まるで自分の家に帰ってきたかのようにくつろげるお座敷席。

まるで自分の家に帰ってきたかのようにくつろげるお座敷席。

積極的に会話でコミュニケーションをしてくれるレストランとは、たしかに最近の飲食店では珍しいスタイルでしょう。

渡部さん「会話することでお客様の印象に残りますし、ご家族の近況なども伺えます。そうすると息子さんが大学いくために宮崎を出られて、連絡があるたびに『おぐらのチキン南蛮が食べたい』といっているという嬉しいお話を聞けたり、いつもご家族で来られている方が一人欠けていたりすると用事があって来られなかったのを悔しがっていたからお土産を買って帰るといったお話も聞けます。コミュニケーションによってお客様との間に壁がなくなり、誰でも気軽に入れる雰囲気のお店になっているんです。これもオヤジから教わったことで、今も大事に守っています」

お店を見渡すと、確かに様々な年齢の方が楽しそうに食事されています。今回お邪魔したのは平日ですが、11時のオープンからお客さんが途切れずやってきます。並んでいるお客様にお話を伺うと「土日のランチタイムはお店に入れたもんじゃない、店の前の道路にお店に入る車で渋滞ができるよ!」とおっしゃっていました。

渡部さん「最近は、県外からたくさんのお客様に来ていただけるようになり、みなさんチキン南蛮を注文していますね。地元の方はチキン南蛮はもちろん、カレーやチャンポンなどの他の人気メニューも注文されます」

チキン南蛮と並んでボリューム満点な「チャンポン」も人気です!

チキン南蛮と並んでボリューム満点な「チャンポン」も人気です!

チキン南蛮だけでなく、数々の人気メニューがあることで、店の魅力作りと相まってリピーターを掴んで離さないレストランになっているんですね。最後に、おぐらの今後についても聞いてみました。

渡部さん「時代はどんどん動き、食文化も変わっていくと思います。しかし、私たちはこれからもオヤジが生み出したこの味と伝統を守っていきたい。そして、この場所でお客様の心に残る味を提供し続けたいと思っています。宮崎にお越しの際は、ぜひご来店ください!」

当たり前だと思っていたタルタルソースのかかったチキン南蛮には、創業者の思いと受け継がれた伝統が詰まっていました。時代に合わせて味や接客を変えるのも一つの手段ですが、変わらないことを守り続けた結果、途切れることなく愛される続ける店になっていったのです。宮崎県民が、土地を離れても忘れられない味、あなたもぜひ味わってみては?

  • 施設情報
    ●ファミリーレストラン おぐら 瀬頭(せがしら)店
    住所:宮崎県宮崎市瀬頭2-2-23
    電話:0985-23-5301
    営業時間:11:00~22:00(L.O.21:20)、不定休

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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