小古井菓子店は昭和7年頃に創業した老舗菓子屋。創業以来、和菓子を中心に、洋菓子やパンの製造・販売も行っています。現在は初代の孫にあたる3代目の基浩さんと妻の藍さん、姉の市江さん、妹の孝江さんの家族で営むお店です。
なかでも、地域の名物として親しまれているのが「うずまきパン」。渋温泉の観光案内所のおじさんや、みやげ物屋のおばさんに渋温泉ならではの食べ物を尋ねると、「うずまきパンかねぇ。あれは小古井さんのオリジナルだからね」と、すぐに名前が挙がるほど地域に根付いている様子。さらに「うずまきパンを買うなら、すぐ食べるって言ってみたらいいわ」とアドバイスまでいただきました。どういうことなのか、早速、お店で確かめてみましょう。それでは、ご当地パンを拝見!
これがうずまきパンです! その名の通り、ぐるぐると黄色いクリームのうずまく丸いパンが透明のパッケージの中に見えています。
一見すると、うずまき以外はごく普通のパンのようですが、中身はどうでしょう。半分に割ってみると…。
中はぽっかりと空洞になっています! 味はどうでしょうか? すぐさま食べたいところですが、ここは先ほど地元の方にいただいたアドバイスを実行してみなくては…。お店の方に声をかけようすると、「今食べますか?」と、店の奥から出てきたのは店を営む3人兄妹の長女、小古井市江さんです。
小古井さん「すぐ食べるなら温めますね」
そう言って、新しいうずまきパンを電子レンジに入れて温めてくれました!
小古井さん「生地の中にはマーガリンを入れています。焼くときに周りの生地に染み込むことで空洞ができるんですが、温めるとマーガリンがとろけるんですよ」
20秒ほど温めたうずまきパンは、ふわふわでしっとり! 甘い香りがほのかに漂っています。たしかに、温めることで固まっていたマーガリンが溶けて、生地全体に染み込んでいるのがよくわかります。気をつけないとしたたりそうなほど。ひと口食べると、とろとろになった生地からマーガリンがじゅわりと染み出し、マーガリンの風味と塩気が口いっぱいに広がります。また、表面にあるうずまき状の黄色いクリームの甘味がマーガリンの塩気と絶妙にマッチしています。
小古井さん「マーガリンがたくさん入っているので、うずまきパンの製造ではマーガリンを包む過程に1番気を遣っています。しっかり包めていないと、焼いている最中にパンの中からあふれ出して、鉄板がマーガリンの海になってしまうこともあるんです。熟練の技を持った叔母さんと地域のおばちゃんたちが一つ一つ心を込めて包んでいるんですよ」
温めることでクリームの甘味とマーガリンの塩気が一段と増すようです。いつも温めて提供しているのでしょうか?
小古井さん「初めての方ですぐに食べる場合には、いつも温めて渡していますよ。そのままでももちろん食べられますが、温めた方がマーガリンが溶けて生地もふわふわになりますし、マーガリンやカスタードクリームの味わいが増しておいしいんです。うちではレンジを使っていますが、もう1つおすすめの食べ方もあるんです。さあ、食べてみて」
そう言って、今回特別に食べさせていただいたのはトースターで焼いたうずまきパン。レンジで温めた場合のふわふわのうずまきパンと比べて、生地の表面がパリっと焼き上がり、香ばしい風味とともにマーガリンが溶け出してきます。これはまた別のおいしさです!
小古井さん「おすすめしているのは電子レンジかトースターで温める食べ方ですが、地元の方はそのまま食べる方も多いですし、最終的には好みなんですけどね。中には、うずまきパンを半分に切って、チーズとハムを挟んでから焼いて食べるなんて方もいるんですよ」
おいしく食べてもらいたいという気持ちから、レンジで温めるサービスを始めたという市江さん。ほかほかのうずまきパンを頬張っていると、心まで温かくなってくるようでした。
■地域の日常に寄り添う、うずまきパン
地域の方に地元の名物として親しまれているうずまきパン。いつ頃から販売されているのでしょうか?
小古井さん「50年以上前になりますね。初代である祖父が生み出したパンなんです。経緯については臆測でしかありませんが、祖父は新しいものが好きな人で。そもそも当時はパン屋なんてほとんどなかったのに、菓子店でありながら、パンの製造を始めたんです。きっと、カスタードとマーガリンの新しい組み合わせのパンが純粋に食べてみたかったんだと思いますよ」
うずまきパンは地元ではどんな風に愛されているのでしょうか?
小古井さん「地域の方言でおやつのことを“こびれ”と言うのですが、『今日のこびれはうずまきパンにしよう』と購入してくださる方が多いですし、温泉街の旅館の仲居さんたちもよく来てくれますよ。“おてんま”という地域の掃除や草抜きをする奉仕作業の時には、作業終わりに飲み物と一緒にうずまきパンを配ってくださったり。以前は運動会のパン食い競争で、あんぱんの代わりにうずまきパンがぶら下がっていた時代もあるんです。今では地域の名物として『道の駅 北信州やまのうち』と湯田中駅裏にある日帰り温泉『楓の湯』でも販売しています」
なるほど、行事だったり、地域の作業だったり、あらゆる場面で日常的にうずまきパンを食べる機会があったからこそ、地域の名物パンとして認識されるようになったのですね。お客さんはどんな方が多いのでしょうか?
小古井さん「地域の方はもちろんですが、最近は観光客の方もとても増えました。渋温泉に来る度に寄ってくださる方もいますし、お土産に30個も40個も購入してくださることもあるんです。本当に嬉しいことですよね。うずまきパンを食べながら湯めぐりをされている姿を見かけることもありますよ」
温泉街と言えば、温泉まんじゅうや温泉玉子を片手に湯めぐりが定番ですが、ここ渋温泉では地域の名物うずまきパンをお供にするのもまた一興。湯船に浸かってぽかぽかに温まった後は、ほかほかのうずまきパンを頬張って、お腹の中も満たされてみては。
- 店舗情報 ● 小古井菓子店
住所:長野県下高井郡山ノ内町平隠2114
電話:0269-33-3288
営業時間:8:00~20:00(第3水・元旦)
※記事中の情報・価格は取材当時のものです。