暮らしのコト

地域密着 愛されご当地パン

郡山でだけ“みんな知ってるただのパン” 福島県郡山市の「クリームボックス」

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地元で愛されているパンを探して、全国各地をゆく「地域密着 愛されご当地パン」。今回は福島県郡山市の「大友パン店」にやってきました!
麦を抱えた女性のキャラクターが目印のレトロな佇まい。

麦を抱えた女性のキャラクター目印のレトロな佇まい。

パン以外に洋菓子も販売。店内奥では職人がパン作りに勤しんでいます。

パン以外に洋菓子も販売。店内奥では職人がパン作りに勤しんでいます。

酒種を使ったパンの製法をロシアで学んだ初代が、1924年に郡山市に開店した大友パン店。数多くのパン屋がある市内でも、戦前から営業している有数の老舗です。 今回ご紹介するのは、この店の棚にも並ぶ郡山市のご当地パン「クリームボックス」。あまりなじみのない名前ですが、地元ではどのパン屋にも置いてある定番中の定番だそうです。それでは、さっそくご当地パンを拝見してみましょう!

これが「クリームボックス」。縦横約9センチ、厚さ3センチとけっこう大きい!

これが「クリームボックス」。縦横約9センチ、厚さ3センチとけっこう大きい!

正方形のパンは、まさしく“箱”のようですね! 白く積もる雪のようにパンの上に塗ってあるのは、何の“クリーム”でしょうか? 三代目夫妻の吉田明弘さん大友和子さんに話を伺いました。

吉田さん「これはミルククリームです。クリームボックスは食パンにミルククリームをたっぷりのせて、クリームごと軽く焼いたものなんです」

大友さん「店によっては、焼いた後にクリームをのせるところもあるんですけどね」

クリームボックスは郡山市内の多くのパン屋で提供されていますが、製法は店ごとに少しずつ異なります。クリームの味が違ったり、食パンが円形だったり、生地がデニッシュだったりするようですが、老舗の大友パン店では昔ながらのスタンダードなクリームボックスを作り続けています。

食パンに盛られるように塗られたクリーム。半分に切るとその厚さがわかります。

食パンに盛られるように塗られたクリーム。半分に切ると厚さがわかります。

クリームは焼いてあるため、表面が少し固まってぷるぷるとした食感です。指が触れてもべとつかず、食べやすいのがうれしいですね。そんなクリームに覆われた食パンは、4枚切りの食パンの厚さ。もっちりとして、耳までふわふわです!

吉田さん「食パンには自信があります。うちではクリームボックス用にミルク食パンを焼いているんですよ。やわらかいので厚めに切っています」

大友さん「もともと店頭にミルク食パンという商品が置いてあるんですけど、それを小さくしたものなんです。味は普通の食パンと比べると、牛乳の風味や甘い香りが際立っているのが特徴です」

牛乳の味わいあふれるミルク食パンと相性ばっちりなクリームはどのように作られているのでしょうか。

吉田さん「クリームはパンに合うようにシンプルに作っています。材料は3分の2が生クリームで、3分の1が牛乳。そこに砂糖などを加えたもので、脂肪分を抑えたあっさりした味わいを目指しています。ほかの店はバターを入れたり、練乳を入れたり、いろいろな配合があるんですけどね」

確かに、すっきりしたクリームを厚い生地にたっぷり塗ることで絶妙な甘さ加減に仕上げられています。一口食べるとふんわりと甘さが広がり、食パンとクリームのミルキーな一体感が楽しめました!

■進化するクリームボックス

食パンやサンドイッチなど定番のパンから、チョコマーブルやカステラパンといった珍しい菓子パンまでを取りそろえ、平日でも客足が絶えない大友パン店。年配の常連客のなかには、なじみの味を求めて自宅からタクシーで買いにやってくる人もいるそうです。

人気のチョコマーブル。カステラを包んだ生地の層の間にたっぷりチョコレートが詰まっています。

人気のチョコマーブル。カステラを包んだ生地の層の間にたっぷりチョコレートが詰まっています。

午前中から窯はノンストップで稼働。次々とパンが焼き上がります。

午前中から窯はノンストップで稼働。次々とパンが焼き上がります。

クリームボックスも店頭に毎日並ぶ定番のパン。その発祥は郡山駅前にあった「ベーカリーロミオ」だと言われており、1976年から販売されているそうです。実に40年もの歴史があるパンですが、近年メディアに取り上げられるまで、市外ではほぼ知られていなかったとか。郡山市に隣接する田村市(旧船引町)出身の吉田さんも「知らなかった」と話します。

吉田さん「確かにクリームボックスは隣の市にはないですね。本当に数年前まで、郡山では“みんな知ってるただのパン”でした。うちは学校給食もやっているのでパン組合に入っています。昔はクリームボックスのような新しいパンが生まれると、組合内でパッとすぐに広まったものですが、郡山の外までは伝わらなかったのでしょうね」

三代目夫妻の吉田明弘さんと大友和子さん。

三代目夫妻の吉田明弘さんと大友和子さん。

大友パン店では外部から招いたパンの講師に作り方を教えてもらい、昭和50年代半ばからクリームボックスの取り扱いをスタート。その後、パン組合の各加盟店にクリームボックスは広まっていったそうです。

大友さん「クリームボックスは高校の購買でも売っています。うちも地元の県立高校5校に卸していますし、みんな子どものころから食べていると思いますよ」

吉田さん「そうなんです。だから高校生のときに食べた人が、帰省したときに食べたくなって買ったり、県外の友達へのお土産にされています」

そんなクリームボックスが、近年脚光を浴びるにともない進化を遂げつつあるのです。クリームボックスの隣にふと目を向けると、そこには「カフェオレボックス」なるパンが!

クリームボックスと仲良く並んだカフェオレボックス。コーヒー感満点の味わい!

クリームボックスと仲良く並んだカフェオレボックス。コーヒー感満点の味わい!

大友さん「クリームの材料の牛乳をカフェオレに変えたもので、酪王乳業さんが製造する『酪王カフェオレ』を使っています」

酪王カフェオレも1976年の発売以来、郡山市を中心に県内で長らく愛されるご当地商品。カフェオレボックスは3年ほど前に考案され、今では定番となりました。

酪王カフェオレも店内で販売されています。ミルクとコーヒーの甘く濃厚な味わいが特長。

酪王カフェオレも店内で販売されています。ミルクとコーヒーの甘く濃厚な味わいが特長。

クリームボックスを進化させたのは、大友パン店だけではありません。抹茶味やチョコレート味、紅茶味、もも味、みかん味……など、工夫を凝らしたさまざまな味が市内の各店舗で誕生しているのだそう。その店舗数は少なくとも20軒以上!! まさに郡山市はクリームボックス天国ですね! 作り手から見て、クリームボックスの魅力とはなんでしょう?

吉田さん「厚みがあって、やわらかくて、歯切れがいい食パンをたっぷりのクリームと一緒に食べたとき、クリームを内側に包む普通のクリームパンにはない味わいを楽しめるのがクリームボックスの魅力だと思います。あとは耳がおいしいと思うんですけど……いや、それは私の好みか(笑)」

大友さん「でもうちのクリームボックスは、厚い耳がアクセントになっていると思います(笑)」

昔ながらのクリームボックスを受け継ぐ大友パン店でも、季節限定でマンゴーボックスやあんボックスなどユニークな味を販売しているそう。おやつはもちろん、夜食としてもちょうどいい食べきりサイズがうれしいですね。進化していくクリームボックスですが、今も郡山市外ではほとんど見られません。食べてみたい人は、郡山へドライブがてら行ってみてはいかがでしょう!

  • 店舗情報 ● 大友パン店 住所:福島県郡山市虎丸町24-9 電話:024-923-6536 営業時間:平日7:30〜19:00、日・祝日7:30〜18:00(無休/正月・盆休みあり)

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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