全国各地のウマい肉料理をお腹いっぱい食べ尽くしていく連載「満腹御礼 ご当地肉グルメの旅」。今回は、絶品もつ煮を味わうべく、山梨県にやってきました。
なぜ山梨県でもつ煮なのか? と疑問に思う人もいるかもしれません。何を隠そう、山梨県はもつ煮の聖地なのです。
もつ煮がある店といえば、ほとんどの人が居酒屋を思い浮かべることでしょう。ところが山梨県では居酒屋にとどまらず、食堂の定番メニューにもつ煮定食があったり、ラーメン屋のメニューで餃子の隣にもつ煮の文字が並んでいたりと、ありとあらゆるところでもつ煮が食べられています。
そんな山梨県には、他の地域ではなかなかお目にかかれない、とっておきのもつ煮があるのです!
電車を乗り継ぎ向かったのは笛吹市の石和温泉駅。温泉の名所とあって、駅前の足湯が設置されています。
バスターミナルを横切って左手、線路沿いに歩くこと約3分。風にはためくのぼりが見えてきました。そのいくつかには、「馬もつ煮」と大きな文字が書かれています。「馬のもつ煮」って、馬肉のもつ煮っていうこと?
おや? 駐車場に立てられた看板に、小さく「温泉旅館」と書かれています。こちらのお店、飲食専門店ではないのでしょうか?
若尾さん「私の母親が女将を務めていたころ、ここは温泉旅館だったんです。現在のスタイルに変えたのは11年前のこと。今でも温泉付きの個室を提供しており、10名様までなら宿泊もできますよ」
そう教えてくれたのは店長の若尾和幸さん。温泉が堪能できる居酒屋なんて、なんとも贅沢ですね! さすがは温泉の名所の居酒屋。若尾さん曰く、ランチタイムは観光客の利用が多く、夜になると地元の常連客が集うのだとか。
■B-1グルメの帝王は意外にも優しい味!?
ではそろそろ、気になるもつ煮をいただいてみましょう。まず登場したのは、2010年にB-1グランプリで優勝して注目を集め、現在はご当地グルメとしてすっかり定着した「甲府鳥もつ煮」です。
甲府鳥もつ煮は、甘い醤油ダレで照り煮し、汁気がないのが特徴。しっかりと濃く色づいたツヤツヤの肉を口に運ぶと、見た目とは裏腹に、ふんわりと優しい甘みが広がります。
若尾さん「お酒をよく飲む人の中には、『酒に合わせるには甘みが強い』という人もいますが、しっかり砂糖を使うのがオーソドックスな甲府のスタイルです」
皿の中央で黄色く輝くのは、「キンカン」と呼ばれる部位。卵として生み出される前の卵黄です。口あたりはホクホクと、味も卵の黄身よりも濃厚です。
コリコリと歯ごたえのよい砂肝、プリプリで旨みたっぷりのハツ、口の中でほろほろと溶けるレバー。甘辛い味付けがされているものの、部位ごとに異なる食感と風味がじっくりと楽しめます。
薬味のネギだけでなくレタスも添えられているので、口の中をさっぱりさせられるのもうれしい気遣いです。
若尾さん「甲府鳥もつ煮は蕎麦屋で生まれた食べ物。そのせいか、七味はもちろんですが、山椒をかける人もいるんです。うなぎのタレのように甘辛い味付けなので、意外と合うんですよ」
と、オススメの食べ方を教えてくれた若尾さん。もつ煮に山椒とは、なんとも驚きの組み合わせです!
■山梨の隠れたソウルフード馬肉のもつを使用した「桜もつ煮」が登場!
鳥もつ煮に舌鼓を打っていると、厨房のほうから何やら濃厚な香りが漂ってきました。若尾さんが手に持った皿を見ると、一般的な豚もつ煮のようなビジュアルの料理が。しかし、香りはまったく違います。まさかこれが…。
そう、これこそ山梨県の隠れたソウルフード、「桜もつ煮」です。他県ではほとんど目にすることがない馬肉のもつ煮。なぜ、山梨県で誕生したのでしょうか?
若尾さん「長野県と山梨県は、古くから馬肉料理が豊富なんです。甲斐ゆかりの戦国武将・武田信玄は騎馬隊で有名ですが、馬肉も好きだったなんて説があるんですよ。食用の馬が普及しているこのあたりでは、昔から馬のもつを食べるのが当たり前。こちらは、当店が旅館だった時代から出しているメニューです」
さっそくプルプルのホルモンを口に放り込むと、塩味の利いたダシがジュワッとあふれ出しました。とろりととろける甘い脂に、味噌ベースのダシが混ざり合い、旨みとコクがたっぷり!
若尾さん「馬のもつは硬いので、柔らかくするためにさまざまな工夫をして調理しています。煮込む時間は最低でも4〜5時間。地元の甲州味噌を3種類合わせて味付けをしています」
こんなに柔らかいもつが硬かっただなんて、とても想像できません! 柔らかい食感も相まって、箸が進むこと進むこと。う〜ん、なんだかお酒が飲みたくなってきてしまいました。
若尾さん「もつ煮にピッタリのお酒があるので、ぜひお持ちしますよ。地元の酒造のお酒です」
若尾さんが持ってきてくれたのは、山梨県の蔵元・笹一酒造の日本酒「木火土金水(もっかとこんすい)」。なるほど、フルーティーな味わいが香り高い馬もつ煮と絶妙にマッチします!
つかぬことをお聞きしますが、鳥もつ煮と桜もつ煮はどちらが人気なのでしょう?
若尾さん「一緒に頼む人が多いですね。醤油と味噌で別の味わいが楽しめますし、食感も全く違いますから」
確かに、どちらも甲乙付けがたい! 甘辛く多様な食感が楽しめる「鳥もつ煮」と、ふわふわと柔らかく香り豊かな「桜もつ煮」。山梨県を訪れた際は、ぜひ両方頼んで食べ比べをしてみましょう。満腹御礼、今回もごちそうさまでした!
- 店舗情報
●月のうさぎ
住所:山梨県笛吹市石和町駅前7-4
電話:055-262-3730
営業時間:ランチ11:30〜14:00(LO)、ディナー17:00〜0:00(LO23:30)、火曜定休(翌日が祝日の場合は営業)
※記事中の情報・価格は取材当時のものです。