(ライター:村上 健)
急速な経済成長と近代化を成し遂げた戦後の日本。大方の都市は年を追うごとに様変わりし、中にはパ リやニューヨークの中心街のようにオシャレで魅力的な通りも登場しています。しかし、昔ながらのまち の風情に心引かれる人も少なくないでしょう。今号からは全国各地を巡って、そんなノスタルジックでホ ッとくつろげる路地や横丁をご紹介します。

刺身で良し、焼いて良し。八戸沖のホッキ貝は冬が旬
青森県八戸市に、奥行き40mほどしかない「たぬき小路」という名の通りがあります。狭い路地の両側 に小体な飲食店が軒を連ね、その先へ行けば怪しいムードのスナック街「五番街」が続きますが、健全な オジサンは踵を返して小料理店のノレンをくぐります。「はい、ホッキ貝」。
愛想のいい女将さんから、 5人も座れば満席のカウンター越しに受け取った刺身は、肉厚でほんのり甘くコリコリした食感。その土 地でしか味わえない旬の肴にありつけるのは、旅の至福です。
実はこの八戸、知る人ぞ知る「横丁のまち 」で、「たぬき小路」周辺には、昭和の香り漂う横丁が8つもあるのです。 時代から取り残されたように見える横丁ですが、その分、整然とした表通りにない風情と人情が捨て難いなあ。
村上 健 Ken Murakami
編集者の仕事の傍ら、各地の風景を描く。著書に『昭和に出合える鉄道スケッチ散歩』『怪しい駅 懐かしい駅』がある。