街のコト

北は東北、南は九州まで この春に注目したい日本の奇祭

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1月の記事で紹介した、地域独特の文化や風習が残るユニークなお祭り「奇祭」(きさい)。クスッと笑えるお祭りから背筋がゾッとしそうなお祭りまで、その奇妙な世界の数々に、興味を持っていただけたのでは? 今回も引き続き、奇祭を求めて全国を訪ね歩いているライターの杉岡幸徳さんにご協力いただき、5〜6月の奇祭にスポットを当てます!

■思わず首をかしげたくなるヘンな奇祭

●化け物祭り
山形県鶴岡市鶴岡天満宮/毎年5月25日開催
化け物祭り

杉岡さん布で顔を覆い隠し、目だけを出した『化け物』たちが、無言で「問答無用!」という感じで通行人に酒を勧めてくるお祭りです。化け物は決して口をききません。なぜなら、口をきかずに祭りに3年参加し続けると願いがかなうと言われているからだそうです」

学問の神様・菅原道真公を祀るこちらのお祭り。その昔、道真公が九州太宰府に配流された時、道真公をしのぶ民衆たちが顔を隠して密かに酒を酌み交わし、別れを惜しんだという言い伝えがもとになっています。老若男女が「化け物」に扮して街を練り歩き、鶴岡市内はさながらパレードのようになるということです。

●一人角力
愛媛県今治市大山祇神社/毎年旧暦5月5日(2015年は6月20日)、旧暦9月9日(2015年は7月27日)開催
ひとり相撲

「一人角力」と書いて「ひとりずもう」。その名の通り、1人だけで相撲を行う神事です。その由縁は?

杉岡さん田んぼの精霊と人間との死の相撲がとり行われ、精霊が勝てば豊作になる、というものです。私が見たときは見事に精霊が勝ち、その年の豊作は約束されました」

3番勝負で、毎年必ず2勝1敗で精霊が勝つようになっているのだとか。とはいえ、選ばれた力士の方も、目に見えない精霊相手に必死の戦いを挑んでいます。決してエア相撲というわけではないのであしからず。

●姶良市加治木くも合戦大会
鹿児島県姶良市加治木福祉センター/毎年6月第3日曜日開催(今年は6月21日開催)

写真提供:姶良市役所加治木総合支所 加治木地域振興課

写真提供:姶良市役所加治木総合支所 加治木地域振興課

杉岡さん島津義弘公が文禄・慶長の役(1592年)のときに、兵士を励ますために始めたという行事です。こがねぐものメスを戦わせて勝敗を競うもので、蜘蛛を見つめる人たちの目が真剣だったのが印象的でした」

「くも合戦」は古くから各地で行われた子どもの遊びだったようですが、多くが廃れてしまいました。姶良市加治木町では勝ち抜き戦やトーナメント戦にするなどで大変にぎわい、そのおかげで廃れることなく現在に残っているようです。参加者たちは自慢の蜘蛛を持ち寄り、「相手に噛み付く」「糸をかける」「相手を棒から落とす」などの技で勝負を決めます。なんと、子どもの部と大人の部に分かれており、勝負に熱中する大人も毎年多いそう。

■男女関係を表現した奇祭

●つぶろさし
新潟県佐渡市菅原神社/毎年6月15日開催
つぶろさし

羽茂祭りの一環として行われる、県の重要無形文化財でもあるお祭り。五穀豊穣を願って奉納される、佐渡島の伝統芸能です。写真では、ひょっとこを被った人が、股間に棒を掲げていますが…。

杉岡さんひょっとこを『つぶろさし』、おかめを『ササラスリ』、布で顔を隠している人を『銭太鼓』といいます。『ササラスリ』は美人の女性で、『銭太鼓』も女性なんですが、顔がきれいではないから布を被っているという設定だそうです」

つまり、2人の女性が「つぶろさし」(男性)を奪い合う、というお祭り。「つぶろさし」は棒を振り、『ササラスリ』は体を妖艶にクネクネさせ、「銭太鼓」は小銭をひもでつないだものをジャラジャラさせながら、笛や太鼓の音色にあわせて踊り狂います。一説によると、この地を治める地頭に、ある茶坊主がいて、彼が修業に出た京都から持ち帰ってきたものが「つぶろさし」として伝承されているということです。

●しねり弁天たたき地蔵
新潟県魚沼市弁天堂・観音堂周辺/毎年6月30日開催
しねり弁天

日本有数の米処・新潟県魚沼市で、江戸時代中期頃から伝わるお祭り。安産を祈願する行事で、ご神体にまたがった女性が揺さぶられながら、街を渡脚していきます。ところで、「しねり」ってどういう意味なのでしょうか?

杉岡さん「『しねり』とはこの地方の言葉で『つねる』ということ。『しねり弁天!』といえば男性は女性をつねってよく、『たたき地蔵!』と叫べば、女性は男性を叩いてもいいんです

ご神体の周りでは、男女が互いを派手につねり、たたき合う異様な光景が。ですが、男性が女性をつねるのは安産を願って、女性が男性をたたくのはそのお礼ということで、本来は若者たちの楽しいお祭りなのだとか。ちなみに、開催日は飛び入り参加OK。

■クスッと笑えるおかしな奇祭

●オホホ祭り
愛知県名古屋市熱田神宮/毎年5月4日開催

舞台は境内の灯りがすべて消された真っ暗闇の熱田神宮。どこからともなく神官たちが集まり、ひらすら「オホホ、オホホ」と笑い続けます。

杉岡さん「神官たちが暗闇の中で輪を作り、一人がしゃがみこみ、お面を叩きながら笑うんです。するとまた別の神官が笛を吹き、それに合わせて他の神官たちが一斉に笑い始めます。笑い声が熱田神宮の森の奥深くまで響き、ほとんどシュールな演劇を見ているような感じ。この笑いを、場所を変えながら3回繰り返します」

一説によると、天智天皇(626〜672年)の時代、熱田神宮にあった神剣が天皇によって持ち去られてしまい、神官たちが「返して欲しい」と懇願したところ、後年になって天武天皇(不明〜686年)の勅命で戻ってきたという出来事がありました。神官たちは神剣が返ってきたことを盛大に喜びたい気持ちでいっぱいでしたが、「そんなことをしたら天皇家に失礼」ということで、暗闇のなかで大笑いするようになったのだとか。「オホホ祭り」は、この出来事を今に伝える行事であるとされています。

奇祭に歴史あり。シュールな行事もありますが、お祭りは参加して楽しむもの。興味を持ったら、気軽に体験してみてはいかがでしょうか?

■取材協力/写真提供
杉岡幸徳
http://www.sugikoto.com/

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