「コレステロール」

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「高コレステロール食品はさまざまな病気を引き起こす」は間違いだった?

「高コレステロール食品はさまざまな病気を引き起こす」は間違いだった?

 健康的な生活を送るうえで欠かせないのが食生活。多くの人は、油物やカロリーが高い食品はコレステロールが多く含まれているので避けたいと思っているのでは? しかし、このコレステロールについて、現在、世界的にその存在自体が見直されてきている。 卵やバター、貝類やベーコン、レバーといった高コレステロール食品は1970年代から、心臓病や心臓発作といった死に至る動脈硬化の原因とされ、人間の健康に危険を及ぼすものだと一般的には考えられてきた。 しかし現在、アメリカ政府は「食品に含まれる栄養素」リストからコレステロールの項目自体を外そうとしている。多くの専門家が、食品に含まれる高コレステロールと血中脂質の危険レベルには関係がないと主張しており、そのアドバイスを受け入れる方向に向かっているという。5年ごとにガイドラインを見直すことが義務付けられているアメリカ農業省の顧問委員会は、今後、卵や貝類、その他の高コレステロール食品は避けるべきであるとは警告しないとしている。委員会のこの方向転換は、「コレステロールを含む食品を食べることは健康を害する」という一般的な警告が当たり前だった、この40年間の健康意識を大幅に変えることになると話題になっている。 また、イギリスのタブロイド紙「デイリーメール」のジェネラル・プロデューサーMartin Scurr氏は、この変化はアメリカだけでなくイギリスでも同様に見られるだろうと予測している。彼は「今、コレステロールを考える上での臨界点にきていると思います。実際、動脈硬化には他のリスク要因が含まれているものの、私たちはどういうわけかコレステロールという存在に憑りつかれてきました」と記事で語っている。さらにイギリスの科学ジャーナリストであるMatt Ridley氏は、こうした動きを受けて「いかに医療や科学のプロがこのような歴史的な間違いをしてきたのかを調査する必要がある」と語った。彼はアメリカでの変化を「大きな方向転換」とする一方、コレステロールについて誤った認識が蔓延していた事実については「スキャンダル性に帯びていた」とも話した。 こうした世界的な動きを受け、日本動脈硬化学会は5月1日、「コレステロール摂取量に関する声明」として、その見解を発表した。声明によると、「我が国の『2015年日本人の食事摂取基準』では、健常者において食事中コレステロールの摂取量と血中コレステロール値の間の相関を示すエビデンスが十分ではないことから、コレステロール制限は推奨されておらず、日本動脈硬化学会も健常者の脂質摂取に関わるこの記載に賛同している」として、現段階ではガイドラインの見直しはしない方針を示した。 さらに「動脈硬化を防ぐには、高LDLコレステロール血症だけでなく、血圧や血糖値のコントロール、禁煙や運動など包括的な生活習慣の改善を介した予防が大切である」として、包括的な生活習慣の改善を呼びかけている。また、コレステロール摂取のみを制限しても他の栄養バランスが崩れていればさまざまな病気のリスクがある。「伝統的な日本食は抗動脈硬化的であることが我が国の研究で多数示されているため、減塩に留意したうえでの日本食を勧める」として、日本食を食べることを推進している。 日本動脈硬化学会「コレステロール摂取量に関する声明」

日本初のチョコレート摂取による大規模研究 最終報告で「認知機能との関連性」を示唆

日本初のチョコレート摂取による大規模研究 最終報告で「認知機能との関連性」を示唆

 チョコレートやココアに含まれるカカオポリフェノールには活性酸素を抑える働きがあり、高血圧や高コレステロールなどの生活習慣病に有効だという話はどこかでお聞きになったことがあるかもしれない。だが、それに加え、うつ病やアルツハイマー型認知症の改善、記憶・学習などの認知機能向上にもカカオポリフェノールが役立つ可能性が高いとしたら? 極めて興味深いその内容は、愛知県蒲郡市、愛知学院大学、明治、が、産官学共同で平成26年3月から行ってきた「チョコレート摂取による健康効果に関する実証研究」の最終報告のまとめとして、5月19日に東京国際フォーラムで発表された。 この実証研究は、「蒲郡市ヘルスケア計画」に基づく取り組みとして行われ、蒲郡市内外の45〜69歳までの347人(男性123人、女性224人)に、カカオポリフェノールを多く含むチョコレートを、4週間毎日、一定量(25g)摂取してもらい、摂取前後の血圧や血液成分など体の状態の変化を検証するというもの。 平成26年11月の中間報告では、チョコレートが血圧高めの人の血圧を低下させることや、HDL(善玉)コレステロールを上昇させることが報告された。精神的にも肉体的にも活動的になるという効果も確認されているが、体重やBMI値には変化がないことなども発表されて話題を呼んだ。そして最終報告では、さらに注目すべき事項が確認された。 研究を監修した愛知学院大学心身科学部の大澤俊彦教授によると、カギとなったのは被験者のBDNF(Brain-derived neurotrophic factor:脳由来神経栄養因子)が、チョコレートの摂取前後で有意に上昇したという検査結果。BDNFはタンパク質の一種で、脳内で記憶を司る海馬に多く含まれる物質だが、加齢とともに減少する。うつ病や認知症の診断では負の相関(病状が重い患者ほどBDNF濃度が低い)が見られたり、マウス実験ではBDNFが少ないと記憶や学習能力が低下したりすることから、認知機能に重要な関連性があると考えられている。記憶や学習などの認知機能を促進させる物質がチョコレートを食べると増えるということは、認知症を予防する可能性があるということ。さらに、カカオポリフェノールには脳血流量を上昇させる効果があることがわかっているが、脳血流量の上昇でもBDNFが増加するという報告もある。抗酸化佐藤と血流量増加の両面からBDNFが増加し、認知機能が上昇することで、認知症予防が期待されるというわけだ。 最終報告で発表されたもうひとつの大きなトピックは、チョコレートの摂取前後で、動脈硬化などの検査などで使われる炎症指標(Hs-CRP)と酸化ストレス指標(8-OHdG)が、第3四分位以上の人で低下したということ。つまり被験者のうち、動脈硬化を引き起こす要因となる血管内皮機能低下リスクが高いと思われる順に(2つの指標の値が大きい順に)上から四分の一までの人が、チョコレートを摂取することで数字を改善したという。すなわち、ポリフェノールの抗酸化作用が裏付けられ、チョコレートには動脈硬化のリスクを低減させる効果があることが示唆されたわけだ。ちなみに数値の悪くない人も含めた被験者全員では、有意差は確認されていない。 アジア系人種としては初となるこの大規模なチョコレート摂取調査が明らかにした結果は、重要なものが多い。血圧に関しては、正常血圧の人は変化が小さく、高血圧の人ほどチョコレートで血圧が下がるという理想的な結果が出たし、蒲郡市での調査は欧米の実験と違って高カカオポリフェノールのチョコレートを少量摂取する方法をとったので、肥満などの悪影響が出なかったという。さらに、カカオポリフェノールは善玉コレステロールを増やすだけでなく、抗酸化作用で動脈硬化の発症を遅延させると考えられることや、「脳の栄養」ともいわれるBDNF量を上昇させ、高ストレス社会や高齢化社会に対抗する可能性を見出したことなどの意義は大きい。日本人のチョコレート消費量は年間約2kgで、欧米に比べると五分の一程度だという。さまざまな効用が明らかになったいま、われわれはカカオポリフェノールをもっと活用してもいいのかもしれない。