「きみといきる」

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老犬という穏やかな伴侶 その3・ヤッちゃん【きみといきる】

老犬という穏やかな伴侶 その3・ヤッちゃん【きみといきる】

 ヤッちゃんは、本当はヤスコっていいます。ふくしまプロジェクトに来たことがある人でも、ヤッちゃんに会ったことのある人は少ないかもしれません。 ヤッちゃんは普段はわたしたちの施設にいません。預かりボランティアをしてくれているお宅で、4頭の犬と一緒に生活しています。 ヤッちゃんは私たちが最初に保護した犬です。今から2年前、ふくしまプロジェクトが生まれた年の秋に、近所の方が相談をしに訪れました。動物をたくさん飼っていた人がいたのだけれど亡くなってしまい、取り残されてしまった犬が今もあたりをフラフラと歩いていて、ときどき餌をやっているけれども、可哀想なので保護してもらえないだろうか、という相談です。 できるならすぐに保護したいと思いました。しかし当時の私たちには、まだ保護シェルターはありません。保護しようにもその場所がありませんでした。もうすぐ寒くなります。放っておくとこの冬は越せないかもしれません。どうやらそんなに若くない犬のようです。そこで保健所の協力のもと、保健所に保護をしてもらい、それを私たちが引き受け、さらにその方が預かりボランティアをしてくれることになりました。 それ以来、ヤッちゃんは近所のお宅に住んでいます。時々私たちのところにやってきます。泊まっていくこともあります。ヤッちゃんは老犬です。歩くスピードはゆっくりです。最近、ずいぶん年をとったなと思います。ときおりふらついていますし、ご飯の食べ方もだいぶゆっくりになってきました。夜に事務室のとなりの部屋で休ませていると、あまりにも静かなので、ヤッちゃんがいることを忘れてしまいます。ときおり寝息が聞こえてきて、ヤッちゃんのことを思い出して様子を見に行ったりします。 譲渡会に行くとヤッちゃんは人気者です。いつもだれかが引き取ろうかと考えてくれます。でもなかなか新しい家族は見つかりません。見つかればいいなと思いますが、難しいかもしれません。 これまでどんなふうに育ってきたのか、そして何歳なのかもわからないヤッちゃん。私たちがこの地でいちばん最初に巡りあったこの犬は、実は私たちのことを見守ってくれているのかもしれません。 筆者:藤谷玉郎(ふじやたまお)一般社団法人ふくしまプロジェクト理事東北大学大学院卒業。福島県庁・秋田県庁を経て2014年4月より現職。東日本大震災後に被災地派遣で福島県庁に出向し動物保護行政に携わる。その当時の日々をブログ「福島日記」に記録。web:http://fukushimaproject.org/ブログ「福島日記」:http://fujkushimanikki.blogspot.jp/ 写真:ケニア・ドイ芸能人のグラビアなどを数多く手がけ、人物撮影を得意とするスチールカメラマンが、2011年猫カメラマンになることを宣言。ブログで猫写真を発表し続ける。ファースト写真集『ぽちゃ猫ワンダー』(河出書房新社)が2014年12月に発売され話題に。好評発売中。ケニア・ドイのネコブログ:http://ameblo.jp/nekokenya/Facebookページ:https://www.facebook.com/pochanekowonder

老犬という穏やかな伴侶 その2・ボタン 【きみといきる】

老犬という穏やかな伴侶 その2・ボタン 【きみといきる】

 ボタンを引き取るとき、保護していた保健所の担当者からは「おそらく痴呆が始まっていると思う」と言われていました。ボタンが私たちのところにくるまでには少し悲しい、しかし珍しくはない理由があります。 おそらく洋犬の血が混じっているのでしょう。ボタンはふさふさとした毛でおおわれた少し小さめの中型犬です。年齢は12歳くらい。おばあちゃん犬といっていい年です。可愛がられていたのだろうと思いますが、少し怯える仕草も見せるので、なにか怖い目に遭ったことがあるかもしれません。ボタンが原因で飼い主が近所の方とうまくいかなかったようだ、と聞いています。鳴いたり吠えたりした声がトラブルの原因のようです。家族の中で体調を崩してしまった人もいるようです。家族の精神的な負担を考えると、もうこれ以上飼うことは難しい。しかし知り合いに引き取ってくれる人はいない。そうやって保健所に保護されました。 ボタンを引き取るかどうか、私たちは議論をしました。痴呆が始まっているとしたら新しい家族を探すことは難しくなる。しかし、残りの時間がそれほど長くないのなら、その時間をせめて少しでも快適なところですごさせてやりたい。そう話しあってボタンを引き受けることにしました。 迎え入れてみると、嬉しいことに私たちの予想は外れました。ボタンは元気な犬でした。いつまでも吠えたり同じ所をぐるぐる回ったりする行動は痴呆の症状でよく見られるものですが、ストレスにさらされたときにも出る場合があります。もしかしたらボタンはボタンなりに、ストレスのある環境で頑張っていたのかもしれません。私たちのところにきてからはそんな行動は見られず、穏やかに過ごしています。 白内障がだいぶ進んでいるようですので、景色はあまり見えないかもしれません。耳も少し遠いようです。でも食欲はあるし内臓も丈夫です。散歩のリズムも軽快です。スタッフが定期的にシャンプーしてあげているので、いつもふさふさと柔らかい毛を風になびかせています。 この、ケニア・ドイさんの撮ってくれた写真を見ると、生きる力にあふれた犬なんだなと思います。 ボタンがやってきたのは10月8日。この日の誕生花はノボタン。だからボタンと付けました。ノボタンの花言葉は「謙虚な輝き」です。   著者:藤谷玉郎(ふじやたまお)一般社団法人ふくしまプロジェクト理事東北大学大学院卒業。福島県庁・秋田県庁を経て2014年4月より現職。東日本大震災後に被災地派遣で福島県庁に出向し動物保護行政に携わる。その当時の日々をブログ「福島日記」に記録。きみといきる。ふくしまプロジェクト WEBブログ「福島日記」 写真:ケニア・ドイ芸能人のグラビアなどを数多く手がけ、人物撮影を得意とするスチールカメラマンが、2011年猫カメラマンになることを宣言。ブログで猫写真を発表し続ける。ファースト写真集『ぽちゃ猫ワンダー』(河出書房新社)が2014年12月に発売され話題に。好評発売中。ケニア・ドイのネコブログFacebookページ

老犬という穏やかな伴侶 その1・メグ【きみといきる】

老犬という穏やかな伴侶 その1・メグ【きみといきる】

 メグは、私たちのシェルターから山を一つ越えた町で老夫婦と一緒に生活していました。お父さんが体をこわしたときにリハビリの手伝いをしてくれたのがメグでした。メグに助けられたんだ、とお父さんは言います。メグが毎日一緒に散歩してくれたから自分の体は良くなったんだ、と。そんなメグを引き取ってくれないかと私たちに相談があったのは、去年の秋でした。ご夫婦はそれまで勤めていた仕事をやめ、故郷に帰ることになったけれども、新しい住まいでは犬を飼うことはできないし、身内にはメグを引き取れる人がいない。保健所に引き取ってもらうことも考えたが、できれば信頼できる人にメグを託したい。だからメグの面倒をみてくれないか。 こうしてメグは私たちのところにやってきました。いつからかなにかの原因で体毛が抜け落ちてしまったメグの皮膚は、私たちが最初に会った時は甲羅のように固くなっていました。かかりつけの獣医師に相談し、主にホルモンバランスに気をつけて薬を処方し、皮膚を清潔にし、規則正しい食事と適度な運動を続けています。慣れないところで最初はおとなしかったメグも、少しずつリラックスしてきました。最近ではたまにわがままな素振りも見せたりします。 そして、皮膚は本来の柔らかさを取り戻しつつあるようです。少しずつですが体毛も生えてきました。勝手に濃い色の体毛だと思っていたのですが、実は明るい色だったようです。ちょっとした驚きです。 メグを引き取る時、もしかしたらずっと新しい飼い主が見つからないかもしれないと思いました。できるならどこか暖かい家庭に引き取ってもらいたい。でも難しいかもしれないからずっと私たちのところにいるかもしれない。それでもいい。そんな覚悟で引き取りました。保護した犬を新しい家庭に引き取ってもらい、空いた部屋に次の犬を迎え入れることでたくさんの命のリレーをするのが動物保護団体です。しかしまずは目の前の一つの命を大事にしたいとも思うのです。 メグは、多くの老犬がそうであるように穏やかで人が好きな犬です。のんびりと散歩をし、たまに立ち止まってなにかを思い出すように首を振る、ある程度の小心さと少しの強情さをもった愛すべき犬です。メグと散歩をしていると、ここでのんびり過ごすのも悪くないんじゃないかと思います。少しでも心地よければと思います。 春になり夏も近づいて来ました。メグの元の飼い主さんからは時々手紙がとどきます。私たちも折々にメグの様子を知らせています。私たちとメグの日々は続きます。 著者:藤谷玉郎(ふじやたまお)一般社団法人ふくしまプロジェクト理事東北大学大学院卒業。福島県庁・秋田県庁を経て2014年4月より現職。東日本大震災後に被災地派遣で福島県庁に出向し動物保護行政に携わる。その当時の日々をブログ「福島日記」に記録。きみといきる。ふくしまプロジェクト WEBブログ「福島日記」 写真:ケニア・ドイ芸能人のグラビアなどを数多く手がけ、人物撮影を得意とするスチールカメラマンが、2011年猫カメラマンになることを宣言。ブログで猫写真を発表し続ける。ファースト写真集『ぽちゃ猫ワンダー』(河出書房新社)が2014年12月に発売され話題に。好評発売中。ケニア・ドイのネコブログFacebookページ

「老いた犬の看病が大変」老犬ホームはいくらかかる?【きみといきる】

「老いた犬の看病が大変」老犬ホームはいくらかかる?【きみといきる】

 人間と同様に、ペットでも進む高齢化。大好きなペットが長生きしてくれるのはもちろんうれしいことです。でも動物だって老いると体力がなくなってくるし、病気にもかかりやすくなります。長い期間病に伏せるということもあります。そしてその面倒をみるのはやはり飼い主。なかにはペットの晩年の長い期間、ずっと看病にかかりきりということも。 最近、全国各地に「老犬ホーム」と呼ばれる施設ができています。体力がなくなったり病気になったために介護が必要になった犬を引き取り、日常のお世話と必要な看病をしてくれる施設です。「犬を飼うのが大変になったからといって、人にまかせるなんて無責任!」という声はあります。最後まで責任を持って飼ってあげるのはもちろん飼い主の責任です。でも老犬・老猫介護は精神的にも体力的にも、そして経済的にも負担です。新しいペットを迎え入れたいけれど、大変だった老犬の介護のことを思い出すと飼うのを躊躇してしまう・・・そんな残念な声もよく聞きます。それに、飼い主が仕事や家庭のことに追われながら、細切れに看病するよりも、専門の知識と経験をもったスタッフが常時お世話をしてくれるほうが、犬にとっては良いことかもしれません。最後まで大事に飼ってあげたいのであれば、老犬ホームはやはり検討の余地はあるでしょう。 そんな老犬ホームですが、最低でも犬1頭につき月額4〜6万円程度から。それ以外に入所の際に数十万円〜数百万円の入所料が必要になることも多いようです。さらに医療費は実費を負担するのが一般的です。やはり安くはありません。  病気治療のための医療費や高齢犬用のフード代、それに老犬ホームの費用。ペットが高齢になるとお金もかかるようになってきます。自分のペットがこれからどんな風に老いていくのか、そしてその負担をどうするか。長い目で将来を見据えて、愛犬や愛猫にとって一番幸せな生活を考えてあげるのが、ペットの飼い主の本当の責任かもしれません。 藤谷玉郎(ふじやたまお)一般社団法人ふくしまプロジェクト理事東北大学大学院卒業。福島県庁・秋田県庁を経て2014年4月より現職。東日本大震災後に被災地派遣で福島県庁に出向し動物保護行政に携わる。その当時の日々をブログ「福島日記」に記録。web:http://fukushimaproject.org/ブログ「福島日記」:http://fujkushimanikki.blogspot.jp/

「猫カフェ」+「保護猫」=「保護猫カフェ」 動物を助ける新しい取り組み 【きみといきる】

「猫カフェ」+「保護猫」=「保護猫カフェ」 動物を助ける新しい取り組み 【きみといきる】

 動物、とくに猫好きな人ならもう知っているかもしれません。今、「保護猫カフェ」と呼ばれるお店が少しずつ増えています。たいていは以前からある猫カフェと同じようなスタイルになっています。お客さんは飲食代を支払ってお茶を飲みながら、店内にいる猫を眺めたり触ったり一緒に遊んだりできます。お店によっては1時間あたりいくら、といった入場料金制の場合もあります。お茶をする、というよりは猫と遊ぶことが目的で利用している方が多いでしょうか。そして保護猫カフェは、そこにいる猫が保護猫、つまり保健所や動物保護団体が保護した猫のカフェです。簡単に言ってしまえばそれだけなのですが、保護猫カフェの背景には、動物の保護に取り組んでいるみなさんの、いのちを助けたいという思いがあります。 我が国の行政による動物の処分数は年々減ってきていますが、それでも年間約12万8千頭。そしてそのうちおよそ8割にあたる10万頭が猫です。この数を減らしてあげたくても、どこの動物保護団体もたくさんの猫を保護していて、収容能力には限界があります。そんななか、少しでも猫を保護して少しでも多くあたらしい飼い主が見つかるような仕組みとして、さらに自分たちで運営資金をまかない、持続的に活動が行えるようにと考えられたのが保護猫カフェです。 これまでの猫カフェといえば、どちらかというと一部の猫愛好家が集っている印象が強く、多くの人にとっては入るのがためらわれる雰囲気のことが多かったようです。しかし保護猫カフェは単に猫愛好家が集まるのではなく、もっと社会に開かれたさまざまな役割が期待されます。猫を飼いたいけれどもさまざまな事情で飼えない人や小さなお子さんが猫と触れ合うことができる、動物の処分という社会的な難問について考えるきっかけになる、さらに保護猫カフェによっては地域にいる野良猫の避妊・去勢を進めて過度な繁殖を防ぐ「TNR活動=野良猫を捕獲(Trap)して不妊手術(Neuter)を行い元の場所に戻す(Return)活動」をしているので、そういったことを多くの人が知り支援する窓口にもなっています。 捨てられたり飼い主が飼えなくなってしまった、そんな辛い思いをした保護猫を大事に飼育する。そしてそこに遊びに行く私たちは温かい気持ちと安心を伝えてあげる。猫を見に行くというよりは、猫の気持ちにそっと寄り添う。保護猫カフェとお客さんにはそんな気持ちのいい役割があります。 去年2月の営業開始以来、すでに100頭以上の猫に新しい飼い主を見つけている岐阜市のネコリパブリック(http://www.neco-republic.jp)など、地域の動物保護の要になっている保護猫カフェもあります。 動物の処分の問題はほかの多くの社会問題と同様、一朝一夕には解決できない問題です。しかし難しい問題だからと遠ざかるのではなく、気軽なアプローチで、少しずつ関心を深めていくことができればいいと思いますし、保護猫カフェはその中でも有効で楽しいアプローチの一つかもしれません。 そういえば写真に写っているふくしまプロジェクトの飼い猫2頭も保護猫です。私たちの事務所は、保護猫カフェならぬ保護猫オフィス、といったところでしょうか。 藤谷玉郎(ふじやたまお)一般社団法人ふくしまプロジェクト理事東北大学大学院卒業。福島県庁・秋田県庁を経て2014年4月より現職。東日本大震災後に被災地派遣で福島県庁に出向し動物保護行政に携わる。その当時の日々をブログ「福島日記」に記録。web:http://fukushimaproject.org/ブログ「福島日記」:http://fujkushimanikki.blogspot.jp/