今年も近付いてきたバレンタインデー。昨年あたりからチョコレートのトレンドのキーワードになっているのが、「ビーントゥバー(Bean To Bar)」。カカオ豆から製造販売まで一貫して行うチョコレートの製法のことだ。ビーントゥバーのクラフトチョコレート専門店も増え、製造工程を客が見ることのできる「工場見学」を行っている店も出てきている。 東京・台東区の「ダンデライオン・チョコレート ファクトリー&カフェ蔵前」。米・サンフランシスコ発祥のビーントゥバーチョコレート専門店の、日本第1号店だ。そこで1月下旬に開催された工場見学にOVO編集部も参加してきた。工場を案内してくれたのは、チョコレートメーカーの古野真理子さん。仕入れたカカオ豆を選別・保管する「プレッピングルーム」からスタートし、「ロースティング」(焙煎)、「ウィノウイング」(カカオ豆の外皮と内側のカカオニブを分離)、「メランジング」(カカオニブと砂糖を合わせて約3日間かけて挽く)、「ブロッキング」(ブロック状にする)、「テンパリング」(温度調整)の工程を見学。この工程は手作業で7〜10日間かかり、1日の生産量は約300枚という。完成品を味見すると、ワインのような渋みと初めて味わうコクの深さに、「こんなチョコレートもあるんだ!」と感動。見学後は、この工程で作られたチョコレートを使った「ハウスホットチョコレート」(580円・税別)もいただいた。店内は2階がカフェになっており、他にもビーントゥバーを使ったスイーツが楽しめる。工場見学のほか、ビーントゥバーチョコについて学べるワークショップも開催している。 ■増える専門店、店同士の交流も活発に カカオ豆の卸販売を行う「立花商店」(大阪市)。創業約70年年の老舗食品卸売り企業だが、2013年から、ガーナやベトナムなど、世界十数カ国からカカオ豆を輸入し、ビーントゥバーチョコレート専門店に販売している。東京支店・マネージャーの鶴田絹さんによると、現在取引しているチョコブランドは約100ブランド。2013年当初6社だった取引先は、2017年には50社と、4年間で8倍に増えたという。鶴田さんはカカオの輸入販売を始めた背景について、「日本でも5年前ぐらいから家庭で少量のチョコを作るという人が出てきて、いろいろな豆をそろえた方が小規模で作る人がさらに増えると思いました。思っていたよりも、ビーントゥバーチョコレートをやりたいという人がいました」と話す。同社ではカカオからチョコートが作れる「卓上チョコレートリファイナー」も販売している。「最初は輸入代行のお手伝いから始めましたが、安価なリファイナーがあれば飲食店やカフェ業を始められるという人たちのニーズが予想以上に高まり、リファイナーの輸入業務に本腰を入れるようになりました」(鶴田さん)。 鶴田さんは専門店の増加傾向について、「ブーム的に増えたのは2年前、その後は堅調に増えているという印象があります」。専門店の苦労については「新規参入や小規模小人数でやっており、初めから手作りチョコレートの製造ノウハウを持っている人は少ない。機械のそろえ方、良いカカオ豆の見分け方を始め、業者同士で情報交換したり、勉強したりしています。情報のシェア、困っている人へのアドバイスなど、ネットワークを大事にされていますね」と話す。■大企業ならではのビーントゥバーへの取り組みも ここにきて脚光を浴びているビーントゥバーチョコレートだが、「チョコレートはカカオ豆から作るというのは当然だという感覚です」と話すのは、大手菓子メーカーの「明治」の菓子開発研究部長・宇都宮洋之さん。明治ミルクチョコレートは、製造開始から91年を迎える。ビーントゥバー製法のチョコレートを作り続けてきたもののなかなかヒットしなかったが、2014年に発売した「明治 ザ・チョコレート」は、2016年のパッケージリニューアル後1年で累計販売個数3000万個を達成したという。 宇都宮さんは、「海外で、『明治 ザ・チョコレート』について『インダストリアル・ビーントゥバー』、つまり『大規模に工業化されたビーントゥバー』と表現し、自分たちの取り組む『クラフト・ビーントゥバー』と区別する方もいます」と話す。大量生産して売り出していく形と、特定の人々がこだわって少量作るものとは少しスタイルが違うという指摘ととらえているという。その上で、宇都宮さんは、「『明治 ザ・チョコレート』のパッケージにこだわり“クラフト”の要素を入れ込みました。『インダストリアル』『クラフト』の両面で負けない自信があります」と、ビーントゥバーチョコレートのブームを作ってきた企業として胸を張る。 明治独自の取り組みが、品質の良いカカオを安定して供給し続けることを目的にした農家支援活動「メイジ・カカオ・サポート(MCS)」。宇都宮さんが「究極のフェアトレード」と表現するこの取り組みは、農園主との間に仲介人が入らずに、明治がカカオ生産農家を直接支援する形を取っている。具体的には、カカオの栽培方法についての勉強会や発酵技術の伝達などの生産面での支援だけでなく、井戸の整備や学校備品の寄贈などの生活支援も実施しているのだ。 生産面の支援の1つが、メキシコでの絶滅恐れのある希少種「ホワイトカカオ」の復活支援。苦み、渋みがないホワイトカカオで作った「明治 ザ・チョコレート メキシコホワイトカカオ」。現地の国旗や国花などをモチーフにしたパッケージも人気を呼び、2017年のチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ東京」では4時間で売り切れたというが、今年のバレンタインシーズンは販売の幅をデパートなどにも拡大。「カカオを本格的に収穫できる時期は木を植えてから3〜5年くらい。あと2,3年すれば量も比較的多く採れるようになり、価格も下げられると思う」という。 宇都宮さんは、「(ビーントゥバーが)好きな人たちが集まれば、今まで以上に市場が大きくなるし、世の中の理解も深まり大きな流れになってくる。『新しいチョコレートの文化を創造していきたい』という思いは、専門店も大手も一緒。“砂糖がたっぷり入った甘いお菓子”というチョコレートのイメージから、“大人が味わう嗜好(しこう)品”へと、チョコレートのステージを上げ、チョコレートへの価値観を変えていきたい」と語ってくれた。
「豆から作るチョコレート」専門店増え、工場見学も ビーントゥバーブームに沸くチョコレート業界 【OVOバレンタイン2018】
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