「多様性」

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宇宙はなぜ物質でできているのか 城西大でノーベル物理学賞受賞の小林誠先生が講演

宇宙はなぜ物質でできているのか 城西大でノーベル物理学賞受賞の小林誠先生が講演

 城西大学(埼玉県坂戸市)で9日、2008年にノーベル物理学賞を受賞した小林誠先生の講演会「反物質−素粒子から宇宙まで−」が行われた。同大学創立50周年記念事業で、各界の権威に話をきく水田三喜男記念「グローバル・レクチャー」シリーズの第3回として開かれ、多くの市民や学生が詰めかけた。 講演では、素粒子物理学の流れをひも解きながら、ノーベル賞授賞対象となった小林・益川理論を解説。その理論が、宇宙が物質からできている理由、すなわち存在していてもおかしくない反物質が消えた(見つからない)理由を解き明かすうえで重要な役目を果たすことを説明した。 我々の身のまわりの物質を構成する原子は、陽子や中性子、電子などの粒子で構成されている。そしてそれらには、対となる反陽子、反中性子、陽電子といった反粒子(粒子と質量が同じで電荷が反対)が存在しうる。陽子や中性子を構成するクオークにも反クオークが存在しうる。だが、自然界には反粒子は存在せず、実験で作り出すことで確認できる。宇宙が誕生した直後には同数であったと考えられる粒子と反粒子は、高温高密度の世界で対消滅と対生成を繰り返しながら共存していたが、宇宙が膨張して冷えるにしたがって対消滅が増えてゆき、粒子が少しだけ多く残ったことから物質が構成され、我々の物質世界が存在している。では、なぜ反粒子が残って反物質の世界が出来ずに、粒子から成る物質世界になったのか。それを解き明かす手がかりとして「CP対称性」(自然法則が粒子と反粒子に対して本質的に同じ)に対する反証、すなわち「CP対称性の破れ」のメカニズムを構築しなければならない。それを理論的に説明するのに使われたのが、「クオークは6種類3世代以上あるはず」という予言が注目された小林・益川理論だった。これは粒子と反粒子には違いがあり得るということを証明するための理論で、後に6種類のクオークが実際に確認され、ノーベル賞につながった。現状では、実験室レベルの標準模型では成り立つメカニズムではあるものの、宇宙が物質優位である理由を完全に説明するまでには至っていないため、「未知のCPの破れのメカニズム」の発見などさらなる課題が残されていることも最後に語られた。 また、講演の後には城西大の小野元之理事との対談があり、小林先生は「理論を発表したのは20代だったが、自分は変革の時期にたまたま居合わせただけ。若いほうが変化に対して柔軟に対応できるという側面はあるかもしれない」「若い人はそれぞれ目の前のことを頑張ってほしい。多様性の中から結果が生まれる」「学術・学問はイノベーションの道具ではない」などと語った。 さらには学生たちとの質疑応答が行われ、難解な講演にもかかわらず、医学部・薬学部といった理数系の学生を中心に「反物質はエネルギーとして利用可能か」「4〜5個のクオークから成り立つ粒子はあるのか」「電荷がマイナスの原子核の周りをプラスの陽電子が飛んでいる世界はあり得るか」「粒子と反粒子が同数であり続けたら対消滅で何も残らなかったのか」など熱心な質問が相次いだ。 「物理学に苦手意識を持っている学生にアドバイスを」との問いかけには、小林先生は「物理は対象が目に見えるはっきりしたものではなく、背後にある法則を明らかにしようという学問。とっつきにくいと思うが、小学校・中学校の理科の段階から、実験ばかりでなく抽象的思考のトレーニングが必要かもしれない」と答えた。