全国各地のウマい肉料理をお腹いっぱい食べ尽くしていく連載「満腹御礼 ご当地肉グルメの旅」。
今回は三重県四日市市にやってきました。
先日行われた伊勢志摩サミットの影響で、世界から注目されている三重県。その北部に位置する四日市市は国内有数の工業地帯のひとつとして栄えてきました。その中心となる四日市港は1950年代に日本初の大規模な石油化学コンビナートが建設されて以降、いまもなお石油取引の重要拠点となっています。また昨今の工場夜景ブームに乗り、全国からその幻想的な夜景を見に観光客が訪れています。
三重県といえば、全国的に有名な最高級牛肉の「松坂牛」が有名です。しかし、ここ四日市市にも全国から注目を集める豚肉のグルメがあります。その名も「四日市とんてき」。今回は、その元祖と呼ばれている「まつもとの來來憲(らいらいけん)」さんにお邪魔してきました。
お店は、近鉄線伊勢松本駅から徒歩3分の場所にあります。
店内は広々としていて、テーブル席と座敷席があります。週末ともなれば満席は当たり前で、外に行列もできるほどの人気だそうです。壁に貼られたお品書きを見るとラーメン、焼飯、餃子などの中華のメニューも並ぶ中に、萊萊憲名物「大とんてき」はありました。
四日市とんてきの元祖と言われるメニューを早速注文させていただきました。店主の橋本さんのご好意で、特別に作っているところも見せていただきました。使うのは大きな中華鍋。これを使って、最大7人前の大とんてきが焼けるのだそう。
焼き上がりまでは7〜8分ほど。味付けをすると一気に色がつき、香ばしい匂いが立ち上ります。そしてしばらく味をなじませたら「大とんてき」の完成です! 単品でも注文できますが、今回は定食(1,725円)をお願いしました。
お肉は250gと、ボリュームたっぷり!!湯気とともにニンニクとソースの香りが混ざった匂いが立ち上り食欲をそそります。特に注目したいのはこの「形」です。食べやすいように深く入った切れ目によって手のように見えませんか?
この形と茶色い色から、地元の方や昔からの常連客は古くから「グローブ」「グローブ焼き」と呼んでいるそうです。
では早速いただいてみましょう。パッと見で歯ごたえがありそうなとんてきですが、切れ目を箸でつまむだけでカンタンに切ることができました。
口に入れると、まず香ばしいソースの香りが口に広がります。そして噛むごとに豚肉の甘い脂が染み出てきて、旨味が溢れ出します。味付けに使っているソースの味だけでなく、ラードの甘みと、豚肉から出た肉汁、ニンニクの香味がバランス良く、深い味わいを出しています。
たった一切れでご飯が何杯も食べられそうな味です。しかも定食のご飯、さらに豚汁とキャベツ、漬物もすべて「おかわり自由」なので、お腹いっぱいになるまでとんてきを愉しむことができますね。地元の人々に古くから愛されている理由がわかります!
先ほど調理風景を拝見させていただいた橋本さんに、四日市とんてきの歩みについてお話を伺いました。
橋本さん「四日市とんてきは、戦後すぐの70年ほど前に私の師匠に当たる人が小さなお店で出したのが始まりです。そのときは立ち食いの7〜8名も入ればいっぱいの小さなお店でした。当時は戦後すぐということもあり、肉体労働者の方が多くいました。その方々のためにスタミナがつくメニューをと考え、酒のつまみとして出したのが最初と聞いています」
最初は立ち食いのお店で、しかもご飯のおかずではなく、お酒のつまみとして生まれたとは…。予想以上の長い歴史に驚きです。
橋本さん「その後店は大きくなり、40人ほどが入れる店になりました。そこに私が修行に入ったんです。いまは多くのメニューがありますが、その当時はとんてき(グローブ)、こま切れ焼き(小口に切ったとんてき)、きも焼き(豚レバー)、ラーメン、あんかけ焼きそばの5種類しかメニューはなく、そこで10年ほど修行しました。そして38年前に今の場所に移ってきたんです」
10年間もの長い時間修行されての独立、たちまち話題になったのでは?
橋本さん「移ってきた当初、この周りは本当に何もなく田んぼと山しかありませんでした。師匠に言われこの地に来たものの本当に大丈夫かと悩みました。売り上げも1〜2年は悪く、名物の大とんてきも1日2人前がでればいい方で、他の中華メニューの方が多く出ていました。また、最初の頃は自分が焼いたものではなく師匠が焼いたやつをくれとも言われ、悔しい思いもしました」
今の人気店の姿からは想像ができない、苦労があったのですね。
橋本さん「しかしその後、町が発展するに従ってお客さんもどんどん増え、今では多い日でミニとんてきも合わせて360人前も出るようになりました。開店当初とは逆で、今はお客さんの9割が大とんてきを注文します。またお客さんも地元だけではなく、北海道から沖縄まで全国からたくさんいらっしゃいます。この地に移れと言った師匠の先見の明には、今は本当に感謝しています」
長年の苦労のかいあって、いまでは三重県を代表する店にまでなった「まつもとの萊萊憲」。長くお店を続けていく中で、とんてきへのこだわりに変化などはあったのでしょうか?
橋本さん「一番のこだわりが、材料を昔から変えていないということなんです。肉は三重県産の豚肉をずっと使用していますし、ラードも昔から変えていません。どれか一つでも変わると今の味は出せなくなってしまうからです。ただソースだけは、ベースは同じなのですが少しずつ改良をしていてより美味しいものを作る努力をしています。大とんてきの肉は肩ロースのブロックから4切れしかとれない柔らかい部分を使うというのも昔から変わりません。これ以上はどうしても肉が硬い部分が出てしまうからです」
味を受け継ぎ、保つ。そして、より美味しいものを作る思い。それがここまでの人気店になった秘訣なんですね。
地元四日市、そして最近では全国の人に愛されるようになった四日市とんてき。
まつもとの萊萊憲さんでは、遠方のため気軽に食べにこれないお客様のために最近通販も始めたとのこと。より一層この美味しさを全国の方に知ってもらえますね。
今の店主の師匠を初代と数えれば、今は2代目。そして3代目もいまは店で鍋を振っています。これからもこの味のバトンは続いていくでしょう。四日市とんてきの元祖、まつもとの萊萊憲さんは、長年変わらぬ味で人々を幸せにし続けてきた地元の自慢のお店でした。
それでは満腹御礼、今回もごちそうさまでした!
- 店舗情報
●まつもとの萊萊憲
住所:三重県四日市市松本2丁目7-24
電話:059-353-0748
営業時間:11:00~14:00/17:00~20:00、月曜・火曜定休(祝日の場合は営業)
http://matumoto-rairaiken.com/
※記事中の情報・価格は取材当時のものです。