家のコト

World Life Style~わたしの国の住まい事情~

ニュージーランドでジワジワ人気の『コハウジング』。 環境サステイナビリティに優れた家

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海外の家や暮らしをリポートする「World Life Style」。第16回目はニュージーランド最大の都市オークランドから。今回ご紹介するのは英語のほかに日本語、スペイン語、ポルトガル語、中国語、ドイツ語等を話すマルチリンガルなシングルマザーのアニータと2人の子供たち。環境サステイナビリティに優れたエコビレッジに住み、ロハスな暮らしを営む彼らのコミュニティを訪ねた。

土壁と天然木を使った自然の温もり溢れる家

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アニータが暮らすのは、オークランド市内から車で約20分の郊外にあるコハウジング・コミュニティ「アースソング」。コハウジングとは1960年代に北欧で生まれた住宅スタイルで、居住者たちは既成の家族概念、住宅概念にとらわれず、人と人との新しいかかわり方をつくりながら、より自由に、楽しく、安心安全に住み続けることができる。各自が独立した専用住居で暮らしつつ、大食堂、ランドリールーム、キッズルーム、ゲストルーム、作業場、農園などを共用している。コミュニティ内では住民が相互に交流、シェアし、支え合う共同生活を送っている。
アニータはこのコハウジングの分譲を2013年に購入。住居は約20平米のリビング兼ダイニングスペースに2つのベッドルーム、キッチン、ロフトで構成されている。室内の壁はラムドアース(版築構法)の土壁、天井やドアなどの美しい木壁は西洋ヒノキの無垢材と、環境に負荷をかけない天然素材が用いられている。素朴で簡素だが、とても居心地の良いリビングは天井が高く開放感があり、明け放した窓からはやわらかな陽光が降り注ぎ爽やかな風が入ってくる。

アニータのお気に入りの土壁。ラムドアースは古くは紀元前5000年の中国で用いられた構法と言われており、その恒久性と高い断熱性・蓄熱性で再び注目を集めている。

アニータのお気に入りの土壁。ラムドアースは古くは紀元前5000年の中国で用いられた構法と言われており、その恒久性と高い断熱性・蓄熱性で再び注目を集めている。

天然木で統一された温もりのあるキッチン

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キッチンは木をふんだんに使ったナチュラルであたたかみのあるデザイン。
ニュージーランドの家庭では電気コンロを使うのが一般的だが、「アースソング」の各住居にはガスコンロが設置されている。コンロ下にはオーブンがあり、アニータはこのオーブンを使ってケーキやマフィンなどのお菓子を作るのが趣味だ。
窓からは食事を作りながら、外で遊ぶ子供たちを見ることができる。アニータがコハウジングの住宅で最も気に入っている点は“安心して子育てが出来る”こと。コミュニティ内で暮らしている人たちは顔見知りで、住人みんなが子育てにかかわってくれるのでとても心強いのだそう。ニュージーランドも日本と同様、女性一人で子供を育てるのは大変だが、ここではシングルマザーも孤立することなく、多くの大人たちと共に子育てが出来るというメリットがある。

敷地内で遊ぶ子供たち。「アースソング」の敷地内ではいつも子供たちのはしゃぎ声が響いている。外でも家でも裸足なのがキウイスタイルだ。

敷地内で遊ぶ子供たち。「アースソング」の敷地内ではいつも子供たちのはしゃぎ声が響いている。外でも家でも裸足なのがキウイスタイルだ。

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リビングの上の屋根裏スペースはフローリングのロフトスペースになっている。ロフトは屋根裏とは思えないほど明るく開放感があり、アニータはここを書斎兼オーディオルームとして使っている。世界各地で手に入れたレアなレコードを聴きながら、読書を楽しむのはアニータにとって至福のひと時だ。

住民たちの意思決定により運営されるコハウジング

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このコハウジング・コミュニティ「アースソング」は1995年に建築家の女性が発起人となり賛同者を集め、元々果樹園だった1.3ヘクタールの土地を購入して開発。緑あふれる広い敷地内には32世帯、約70人が暮らしており、その住人は多様な人種、生い立ち、年齢層の人たちで構成されている。
コハウジングはその開発計画から住居の設計、インテリアデザインに至るまでメンバーが何度も討議を重ねて決定していくのが特徴だ。こうしたミーティングは毎週のように開かれており、1回の会議に平均2時間以上費やす。アニータは「会議が苦手な人はここで暮らすのは大変かも。でもコミュニティの皆が快適に暮らしていく上で、納得するまで議論を尽くすことは時間がかかるけど、とても大切なプロセスなの」と話す。

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各住居は太陽エネルギーを効率的に取り入れるパッシブソーラーデザインを採用している。
開口部からは積極的に室内へ日差しを取り込み、ラムドアースの土壁で蓄熱。屋根に取り付けた太陽熱温水器から温水を供給している。電気代やガス代は一般的な家庭に比べ格段に安い。

コミュニティの中核となるコモンハウスは居住者の交流の場

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340㎡の広い建物がコミュニティの中核を成し、大きな食堂、キッチン、ホール、ランドリールーム、キッズルーム、ゲストルームがあり、居住者の交流の場となっている。
アニータと子供たちは毎週木曜と土曜に行われるコモンミールをとても楽しみにしている。
コモンミールとは、参加者が交代で食事当番をして、みんなで一緒に夕食をすることで、強制ではないので住民の中には参加しない人もいるが、それでも大体平均50人~60人くらい参加者がいるので、みんなで食べる姿は壮観だ。
コモンミールの食費は1家族で1ヶ月分の食事代がNZ$40(約3,200円)。1回の食事当たりNZ$5(約400円)で3人家族が1ヶ月に8回食事が出来るのはとてもリーズナブルだし、居住者同士の絆を深める良い機会となっている。
「食事当番の時を除いて、1ヶ月のうち、7回は食事を作ったり、後片付けしなくていいって素敵じゃない?子供たちは子供たちだけのテーブルで食事するからとても賑やかなのよ」とアニータは話す。

全住人が一緒に食事を取ることが出来る広い大食堂。食堂の中二階にあるロフトスペースでは定期的にヨガなどのワークショップが開かれている。

全住人が一緒に食事を取ることが出来る広い大食堂。食堂の中二階にあるロフトスペースでは定期的にヨガなどのワークショップが開かれている。

広いキッチンには何十人分もの食事を一度に作れるよう、業務用の大きな調理設備が揃っている。

広いキッチンには何十人分もの食事を一度に作れるよう、業務用の大きな調理設備が揃っている。

コミュニティ内で自宅にも洗濯機を置いている世帯は1割程度で、他の住人は全てこの共用ランドリーを利用している。

コミュニティ内で自宅にも洗濯機を置いている世帯は1割程度で、他の住人は全てこの共用ランドリーを利用している。

コモンハウスには微生物の生分解(分解酵素)を利用したコンポスティングトイレが設置されている。排泄物を微生物の生分解で処理するため水を使わず環境に優しい。

コモンハウスには微生物の生分解(分解酵素)を利用したコンポスティングトイレが設置されている。排泄物を微生物の生分解で処理するため水を使わず環境に優しい。

雨水を積極的に利用するため、敷地内には6つの32t貯水タンクが設置されている。貯水した水は飲料水以外のシャワーやトイレ用水、菜園への散水などの用途に使われており、水道代の大幅な節約に貢献している。

雨水を積極的に利用するため、敷地内には6つの32t貯水タンクが設置されている。貯水した水は飲料水以外のシャワーやトイレ用水、菜園への散水などの用途に使われており、水道代の大幅な節約に貢献している。

菜園の一角では地鶏が放し飼いされている。自然の野草や虫などを食べてのびのび育った地鶏が産む卵は絶品だ。

菜園の一角では地鶏が放し飼いされている。自然の野草や虫などを食べてのびのび育った地鶏が産む卵は絶品だ。

緑に囲まれたパラソルの下でティータイムやBBQを楽しむ

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天気の良い日はパラソルの下に住民たちが集まり、持ち寄りパーティーやBBQを楽しんでいる。この日は新しくコハウジングに引っ越してきた仲間のためにウェルカムパーティーが開かれていた。30代の夫婦から70代の高齢者まで、世代を超え、様々な社会的背景を持つ住人との会話は話題が尽きない。菜園で採れたばかりのオーガニック野菜や季節の果物を囲んでのんびりおしゃべりを楽しむ。
現在、アニータは大学院でアダルトリテラシー(非識字者への教育)を研究している。
アニータ曰く「オークランドで暮らす4割以上の人は海外から移り住んで来た人たちで、その人たちの中には、十分な教育を受けられず読み書きがうまく出来ないため、仕事に就けない人が少なくありません。彼らの識字能力を向上させることで彼らの生活を改善したいんです」
これまで中国、メキシコ、東ティモールなど、主に発展途上国の開発に携わってきたアニータ。彼女の次の目標は、教育によってニュージーランド国内に広がる格差を是正すること。アニータが熱心に勉学を続けられるのも、自然豊かなコハウジングの環境と、のびのび暮らす子供たちの笑顔があってこそなのだ。

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■プロフィール■
アニータ・ライトさん(40歳)大学院にてアダルトリテラシー(非識字者への教育)を研究。フィリックス(7歳)とジェーン(4歳)の2人の子供を育てるシングルマザー。高校時代と大学時代に日本に留学した経験を持つ。大学卒業後に日本の経済産業省で通訳などの仕事をする。ニュージーランドに帰国後、大学院で国際開発研究の修士を取得。ニュージーランド外務省の元で、中国、メキシコ、東ティモールなどで現地の開発事業にかかわる。
英語以外にスペイン語、ポルトガル語、日本語、東ティモール語、ドイツ語、中国語などを話すマルチリンガル。彼女曰く「語学は異文化への窓」であり、語学学習が一番の趣味とのこと。
~住まいについて~
築13年になるコハウジングの分譲を購入NZ$460,000で購入(2013年)(=現在のレートで約3,680万円)

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■オークランドの不動産事情■
オークランドはニュージーランド最大の都市で人口は約150万人。ニュージーランドの人口の約3分の1がこの都市に集中している。世界生活環境調査(Quality of Living Survey) によると、オークランドはウィーン、チューリッヒに続き、世界で3番目に生活環境水準が高い都市にランクインしており、世界で最も移住したい都市の一つになっている。ニュージーランドの不動産価格の急騰は社会問題となっており、メディアでは連日のようにその話題が取り上げられている。オークランドの平均住宅価格は76万4,000ドル(約6,100万円)で、1年前と比較して8万7,000ドル(約700万円)も高くなっている。2012年と比べ住宅価格は20万ドルも上昇しており、たった3年間で35%も住宅価格が上がっている。
不動産アナリストによると、オークランドの人口の増加が住宅の在庫を上回っているため、この高騰は今後も続くとみられている。ニュージーランドの賃貸は1週間ごとに家賃を払うのが一般的だ。オークランドの場合、平均家賃は、週490ドルで、国内の平均家賃、週420ドルに比べかなり高くなっている。オークランドに住む人々は、年間平均2万5,480ドルの家賃を払っていることになり、家計の中で大きな負担を占めている。家を借りる時は現地の新聞や不動産総合情報サイトで探し、管理している不動産業者にコンタクトを取る場合が多い。

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