家のコト

World Life Style~わたしの国の住まい事情~

街全体がユネスコ世界遺産、築200年を超える 重厚な石造りの集合住宅に愛犬と暮らすご夫婦

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海外の家や暮らしをリポートする「World Life Style」。第11回目はハンガリーの首都ブダペストから。ドナウ川の真珠とも呼ばれるほど美しい古都ブダペスト、今回ご紹介するご夫婦、マットとエメシェが住むのは世界中から観光客が訪れるブダ王宮地区。戦災の影響などもあり、何度か改築や修復はあったが、建物の基礎ができたのは1700年後半。築200年以上の歴史的建造物だ。分厚い石の壁の向こう側には脈々と引き継がれてきたブダペストの人々の生活があり、観光地とは思えないほど穏やかなところだ。

観光地に住んで得をする事もある

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玄関を入って右がキッチン、左がダイニングとして使っているホール、そしてリビングに続いている。ダイニングテーブルの上にはエメシェが近所のお菓子屋さんから買ってきたケーキが。このお菓子屋さん、ガイドブックに必ず載っている老舗の名店で、日中は観光客でかなり混雑している。そんな店でも城内の住民には、うれしい割引制度がある。城内はブダペストきっての観光地、物価が高めな事もあり住民に10%ほどの割引を出す店が多いのだ。これは、ふたりにとってびっくりした習慣のひとつ。城内から街に出る市バスも観光客の利用が多いので頻繁に出ており、中心へのアクセスはよい。平日の昼間は数本のバスが終点の地下鉄駅から一駅先にある市場まで走っている。これも城内住民が受けられる恩恵。

天井のアーチが美しい部屋

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広々としたリビングの天井はフラットではなく緩やかにアーチを描いていて、四方の壁に出来る曲線が美しい。物件を探していた2年前、この部屋を見て即決した。城内は歴史の古い建造物の並ぶ保存地区、ユネスコ世界遺産にも登録されているので、壁を壊したり窓を作ったり、改築は基本的に認められていない。飾りたい絵が多くあったので、家具の高さはすべて低めに統一した。

夏は涼しく冬は暖かい石作りの家

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リビングの窓からの眺め。王宮地区の裏通りに面しているので散歩をする人は多いが、観光客の団体が押し寄せる事はあまりない。窓の下に座れるくらいのスペースがあり、これがこの建物の石造りの壁の厚さだ。これだけの壁に囲まれた部屋なので、夏は屋外の熱気を遮断して涼しく、冬はセントラルヒーティングの暖気を逃さずあたたかい。そして防音効果も高く、観光地に住んでいるとは思えないほど静かだ。窓の外の通りには桜の木が植わっていて、春には通りがピンク色に染まると言う、これも住んでみて知ったうれしい発見。

愛犬と一緒にくつろげる空間

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長年、ふたりで犬と一緒に散歩をしていた王宮地区だが、お金持ちが住んでいると思っていたそう。ところが区の所有する住居がほとんどで、手に届かない物件ではない事を知り、運良くこのアパートにめぐりあえた。住んでみて一年半、城内は観光客でにぎわうが、夜には静寂が訪れる、そして日中でも家の中ではほとんど外の音は気にならない。驚くほど静かでのんびりとした生活、愛犬と一緒にピースフルな日々を過ごしている。

ベッドルームにはウォークインクローゼットが……

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ハンガリー人は大の犬好きで街中は犬の散歩をする人々の姿が一日中見られる。アパートで犬を飼う事も一般的、賃貸を探す場合でもペットお断りの物件はあまり無い。ベッドルームにはベッドの後ろのスペースにウォークインクローゼットを作ったが、歴史的保存物件は内装の変更にも申請が必要なので、壁の増設も簡単には出来ない。そのため、天井から壁紙を貼った薄い板をパーテーション代わりに吊るしている。

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壁のアーチのくぼみを見事に利用したウォークインクローゼット、これだけのスペースがあれば整理整頓しやすいし、多少ごちゃごちゃしても壁に隠れているのでストレスは感じない。

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リビング、ベッドルームの窓は南西に面していて美しい夕日が望める。ベッドルームの窓は内側に作り付けの木製の扉があり、遮光もばっちり。壁のアーチの下に窓のアーチが重なる美しい内装だ。

もう一部屋は仕事部屋兼お客様用

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もうひとつのベッドルームは仕事部屋に。両親や友人が訪ねてきた時はソファがベッドになる。水色のキャビネットは古い家具をエメシェさんがリメイクしたもの、扉をペイントして大理石の天板を乗せた。

コンパクトなキッチン

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中庭に面した窓のあるキッチン、コンパクトにまとまっていて使いやすい。ここにもアーティストである友人の絵が飾られている。

ゲートをくぐると中世の住宅

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一般的なブダペストの集合住宅の中心には、ハンガリー語で「ウドヴァル」と呼ばれる中庭がある。上階には中庭を囲むように回廊が作られ、各住居の玄関が配置されている。この建物には中庭から地下に続く階段があって、階下はブダ王宮地区の地下に張り巡らされた古い地下坑道に繋がっている。興味を引かれたが、現在は立ち入りが禁止されていて入れないという。

玄関先にほっと一息のつける空間

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この集合住宅には12戸の住居がある。戸数の多い集合住宅では共有スペースをめぐって住人同士のトラブル話をよく聞くのだが、マットとエメシェはご近所にも恵まれていて、ミルクやお菓子、秋にはキノコのお裾分けもあるのだとか。ふたりの住居は一階にあり、共有スペースの中庭も自宅前なら、テラスのように使える。

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■プロフィール■
マット・ヒギンソン(43歳)とエメシェ・ゲッレールト(43歳)
マットはイギリス出身、ブダペスト在住歴は20年を超え、現在はコンサルタント業をしている。エメシェはブダペスト生まれ、広告業界で活躍するフリーランスのライターだ。マットはブダペストに来てすぐにエメシェに出会い、ふたりでの生活も20年を迎える、街中に長い事住んでいたが、やっと念願のスイートホームを見つけた。愛犬はラサ・アプソと呼ばれる種類のチベット犬、名前はヴィンツェント、2009年に生まれてからずっと一緒に暮らしている。
~住まいについて~
面積:約100平米。リース権:30,000,000フォリント。家賃:50,000フォリント。

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■ブダペストの不動産事情■
共産主義が終焉を迎え民主化されて25年。不動産に個人の所有が正式に認められるようになったのも民主化されてからだ。不動産の価格は年々上昇したが、2000年代に入っても西欧に比べるとまだまだ安く、EU加盟後の2004年以降は多くの物件が投資目的で西欧の人々にも購入された。現在では不動産バブルも一応の安定を見せ始めているが、この25年の間に物件を購入したハンガリー人の多くが為替で変動する外貨建ての住宅ローンを組み、予想以上の返済価格に悩まされている。それでも20才後半から30代にかけて、そろそろ家を買おうと親の援助と銀行ローンで小さなアパートを購入。結婚や家族が増えるに従って、手狭になったアパートを売り、郊外に家を買うのが一般的だ。
マットとエメシェの住む王宮地区は歴史的保存地区という事もあり、ほとんどの物件が区の所有。リース権(賃貸権利)は区を通さず個人の間で売買できるので、一般住宅を購入するのと同等の資産価値がつく。それに比べて区に払う家賃はかなりリーズナブルだ。区は中庭や外壁など外回りのメンテナンスをしてくれるので、家賃は共益費のようなものといっていい。

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