家のコト

World Life Style~わたしの国の住まい事情~

シンガポールの華麗なるプラナカンの暮らしを 築90年のショップハウスに再現し、シングルライフを満喫

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海外の家や暮らしをリポートする「World Life Style」。第10回目はシンガポールの古いショップハウスに一人で暮らすケルビンさんのお宅をご紹介。東南アジアに広く見られる建築物であるショップハウスを、伝統的な様式を残しながらもモダンにリノベーション。アンティーク家具で彩られたレトロ・モダンなその空間は、かつてのマレー半島のセレブ、プラナカンたちの贅沢な暮らしを彷彿とさせる。

長年の夢を叶えた!プラナカンスタイルの家に住む

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今年、建国50周年を迎えたシンガポール。国自体はまだまだ若いが、かつての欧米統治下の時代に繁栄したプラナカンの文化も今に受け継がれている。プラナカンとは、15世紀後半からマレー半島に移住して財をなした中華系移民たちとその子孫のこと。彼らは中国やマレー、ヨーロッパの文化をミックスした華麗な文化をマレー半島各地に築き上げた、いわば当時のセレブ。その生活スタイルに幼少の頃から魅せられてきたというケルビンさんは、3年前に東南アジアの伝統的な建築物であるショップハウスを購入。1928年に建てられたその古い建物にリノベーションを施し、自慢のアンティーク家具のコレクションで飾ってプラナカンスタイルの空間を再現した。

伝統を重んじながらもモダンな空間にまとめられた2つの応接室

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ショップハウスとは、中国系の貿易商などが集まるマレー半島各地で1800年代から建設され、街づくりの基礎となった伝統的な建築様式。通りに沿って長屋式に建ち並び、一大商業都市を形成した。1階が商用、2階が住居として使われていたため、入ってすぐにビジネス来客用の応接室がある。この空間は今の住宅の間取りとしては使い勝手が悪いが、彼はリノベーションの際、多少不便でも忠実に残すことを選んだ。風化した床や梁、階段の手すりも取り払わず、修復をして可能な限り、保存することにこだわった。それは、幼い頃から親しんだプラナカン文化への憧憬もあるが、この素晴らしい古い文化を若い世代にも知ってほしいと考えているから。通りに面した1階の窓を開けていると、偶然家の前を通った若いシンガポーリアンや外国人がこの家をギャラリーか何かだと思って覗きこんでいることも。そういう時、時間があればケルビンさんは家の中を案内してあげる。

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ビジネス来客用の応接室でひときわ目を引くのが、プラナカンの家に必ず見られる先祖崇拝のスペース。壁にはケルビンさんの祖父と祖母の写真が飾られている。また、この部屋にあるベンチやテーブルは祖父から譲り受けた150年以上前のアンティークで、数あるコレクションの中でも特に思い入れのあるものだそう。

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さらに奥に進むと2番目の応接室が現れる。この部屋はキッチンと続き間で、友達や親戚が集まる時に使われる。おもてなし好きのケルビンさんは友達を数十人招く大規模なパーティもよく開く。

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2番目の応接室にはアンティークコレクションを陳列。これを含め、1階、2階あわせて約242平米もの空間に美しく配されたアンティーク家具や骨董は、ケルビンさんが20年ほどかけて収集した大切なコレクション。おじいさんから譲り受けた家具も多い。歴史を感じる正統派のアンティーク家具がほとんどだが、中には“どろぼう市”の名で知られるSungeiロードのマーケットや旅先の骨董市などで買った骨董品も。その遊び心あふれる独自のミックス感覚が楽しい。

建物の中で一番手を加えたキッチンスペース

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キッチンやバスルームなどの水回りは現代的にリノベーションされ、明るく清潔な印象。ショップハウスのように左右に窓のない細長い家は中央部分が薄暗くなりがちだが、キッチン上部の壁をガラス張りに変えて自然光がなるべく家の中にまで差し込むよう工夫されている。

明るく緑あふれ、開放感たっぷりの2階でくつろぐ

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2階には緑あふれるテラス付きのリビングルームと2つのベッドルームが。マスターベッドルームとリビングは続き間になっていて、ケルビンさんはプライベートな時間のほとんどをここで過ごす。1階の応接室とはうって変わってくつろげる雰囲気だ。

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ケルビンさんの家系はプラナカンではないが、祖父の代にシンガポールに移住してプラナカンが多く住むカトン地区のショップハウスに居を構えたそう。ケルビンさんは近隣のプラナカンたちの華やかな文化に親しみながら育ち、その家々を彩るアンティーク家具を愛すようになったという。

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2階にある3部屋は、間取りを変えずに窓だけを増やした。普段は光と風を取り込めるよう窓は開け放たれているが、来客時などには各部屋をガラス窓とロールスクリーンで完全に区切ることもできる。ケルビンさんが仕事部屋として使っている2つめのベッドルームは、来客用としても活躍。

近年シンガポールは不動産バブル。ショップハウスがある地区も高騰

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ショップハウスと道路の間には、ファイブ フット ウェイと呼ばれる約1.5メートル幅の通路を設けるのが一般的。建物の2階部分が通路の屋根となり、日除けや雨除けの役割を果たす伝統的な様式だ。
不動産バブルにわくシンガポールでは、残念なことに数年前から保存地区以外に建つショップハウスは次々とコンドミニアムやショッピングセンターに建て替えられている。
ケルビンさんが購入したショップハウスがあるのはゲイラン地区で元娼婦街だが、ここ1、2年で整備され、彼が購入した家の価値も今や急騰。これは幸運な変化なはずだが、ケルビンさんは憂いている。なぜなら景観だけでなく昔ながらのコミュニティをもこわしてしまうから……。彼の思いは複雑だ。

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■プロフィール■
ケルビン ポウさん(48歳)
有名企業のヘルスケア部門のマネージャー。20年ほど前にアンティーク家具や骨董の収集に目覚める。増え続ける家具コレクションに以前住んでいたアパートを圧迫され、3年前にショップハウスを購入。空間の束縛から解き放たれ、すべての家具や骨董を思うようにディスプレイした今の家は彼の中でほぼ完璧に近いものだという。心から満足できる空間で一人、優雅に暮らしている。
~住まいについて~
面積:242平米 購入物件:現在の価格で約2,400,000シンガポールドル(約2億1千万)

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■シンガポールの不動産事情■
東京23区ほどの小さな国土のシンガポールは、国民の8割が暮らすHDB(公団住宅)と、主に富裕層と外国人が暮らすコンドミニアム(高級マンション)が不動産の主流。ケルビンさんのようにショップハウスやテラスハウス、バンガローなどの一軒家で暮らす人はほんの一握りだ。シンガポールの賃貸が高額なのは世界的に有名で、そのため大多数の若いシンガポーリアンは一人暮らしをせず、結婚などを機に自分で家を購入するまで生家で親と同居をする。政府が「国民持ち家制度」を奨励しているため、国民が初めてHDBを購入する際には政府から補助金が出る。購入物件は自分たちの好みに合わせてリノベーションする人が多い。
単身の外国人は駐在員なら1ユニットごと会社が借りてくれるが、そうでない場合はHDBかコンドミニアムの1部屋を間借りするのが一般的。ほとんどの賃貸物件にはオーナーが用意した家具や電化製品がついている。賃貸物件の相場はコンドミニアムの1ユニットで3,000〜7,000シンガポールドル、1部屋間借りで1,000前後。高級住宅地で知られるオーチャード周辺では1ユニット10,000シンガポールドル以上の物件もめずらしくない。

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