(ライター:柳沢 有紀夫)
なっ、なんなんだ、これは!
「家というのは地上にあるもの」という固定概念を見事にひっくり返してくれる「超高床式住宅」とでも呼べる物件が、オーストラリア・クイーンズランド州の州都ブリスベンにはたくさんある。オーナーが「木の上の秘密基地みたいな家に住みたい」という子どものころからの夢を叶えたわけでも、宮崎アニメの名作『天空の城ラピュタ』の大ファンであるわけでもない。
このあたりはそもそも「高床式」の家が多かった。その理由は日本史の時間に習った弥生時代の高床式倉庫と同様、「高温多湿の気候」だ。南緯27度。半球は違うが沖縄と同じような緯度に位置するブリスベンは亜熱帯に属しており、蒸し暑い時期が日本の本州よりもさらに長い。そのため理にかなったこの建築形態は「クイーンズランド州風」という意味で「クイーンズランダー」と呼ばれていた。とはいえ、床下は1メートル程度のものだった。
ところが最近では明らかに常識を超える高さのものが出現。見た目から推測するに、床は地上5~6mといったところか。そりゃあ、床下1mよりも5~6mのほうが湿気も少なく風通しも良くて涼しいだろうが、毎日数回の昇り降りだけでくたくたになりそうだ。
なんでこんなものを建てているのか。実は、この「超高床式住宅」には納得できる理由がある。それは「洪水対策」。2011年1月、激しい豪雨により川の水位が通常より約7メートル上昇し、あふれた水により百万都市ブリスベンの1万戸以上が浸水した。同じ轍を踏まないようにと編み出された解決策が、この「超高床式」というわけだ。
まあ、地震なんてまったくといっていいほど起きない街ならではの建築方法だと言える。
柳沢 有紀夫(やなぎさわ・ゆきお)
ブリスベン在住の国際比較文化ジャーナリスト。『世界ニホン誤博覧会 』(新潮文庫)など著書多数。世界80カ国の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」のお世話係としても活動。