(ライター:村上 健)
「ボッ、ボォーッ」。遠くで懐かしい汽笛の音が響きます。ここは会津盆地。福島県と新潟県を結ぶJR磐越西線「山都」駅に近い河原です。目の前にそびえる「一ノ戸川橋梁」は、全長445m、橋脚は高さ25mもあり、明治41年の完成当時は東洋一だったとか。しかし、この「東洋一」っていうのも今や懐かしい表現です。若い世代は「ヒガシヨウイチ」って読むんじゃないか、なんて思いつつ、スケッチブックを開いてお目当ての蒸気機関車を待ちます。

会津名物の絵ロウソクと起き上がり小法師

そういえば、汽車の旅をしていたのはいつごろまでだったろう。煙のススを気にしながら車窓から頬に風を受け、大きな駅では身を乗り出して駅弁売りを呼ぶ……。そんな遠い記憶に浸るうち、やって来ました「SLばんえつ物語号」。一世紀近い風雪に耐えた鉄橋を、敗戦翌年に製造されたC57が駆け抜ける姿に、オジサンはグッときます。ちなみに、沿線には喜多方や会津若松など、歴史情緒たっぷりのまちもあります。喜多方ラーメンを試しつつ、蔵巡りも良し。会津若松で城下町の風情を味わい、七日町通りに残る昭和の建築を見て回るも良し。歩くほどに旅情を深める景色と出合えます。「ボーッ」。もう一声鳴らして、列車はトンネルの中へ。やっぱりかっこいいなあ、蒸気機関車って。

酒蔵、店蔵、座敷蔵。蔵造りが並ぶ喜多方
村上 健 Ken Murakami
編集者の仕事の傍ら、古い商店や駅舎など心に染みる風景を描き続けている。 著書に『昭和に出合える鉄道スケッチ散歩』(JTBパブリッシング)がある。
