(ライター:村上 健)


城下町の風情を残す建物が多い「大多喜」駅周辺
「リニア中央新幹線」の開業が現実味を帯びてきました。順調に工事が進めば、13年後の東京─名古屋開業を経て、2045年には大阪まで1時間強で走るとか。ちょうど50年前に開業した東海道新幹線が「ひかり」で4時間かかったのに比べると、大変な進歩です。
しかし、物事いいことばかりじゃないのは世の常。スピーディーな分、旅情を感じにくくなるのも事実でしょう。やっぱり列車はのんびりと旅の情緒を楽しみたい……。そんな向きには、房総を走る「いすみ鉄道」がおすすめ。秋の気配が深まり始めたころに描いたのは、「大多喜」駅に停車する気動車「キハ52」。同型で唯一の現役車両です。
モケット張りのボックス席に伝わるエンジン音と振動が懐かしい車両の窓に広がるのは、雑木林と田んぼが織りなす里山の風景。外房の漁港「大原」から山間のまちまで約50分、リニアでは味わえないであろう旅情がたっぷり楽しめます。
また、途中駅の「大多喜」周辺は、ノスタルジックなまち散歩にもってこい。深い渓谷の夷隅川に囲まれた小さな城下町には、天守閣が復元された大多喜城や、国の重要文化財に指定された町家、江戸時代から続く造り酒屋などが点在しています。いかがですか。里山と小江戸を楽しむ小さな旅をあなたも。

「大原」駅近くでは「なめろう」などの漁師料理も
村上 健 Ken Murakami
編集者の仕事の傍ら、古い商店や駅舎など心に染みる風景を描き続けている。 著書『昭和に出合える鉄道スケッチ散歩』『怪しい駅 懐かしい駅』 ほか

月刊不動産流通2014年11月号掲載