暮らしのコト

小谷 あゆみさん「日本じゅうのベランダで野菜を作ったら」

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ゴーヤー、ミニトマト、ししとう、唐辛子、モロヘイヤ、ツルムラサキ、バジル。これ全部、今、私がベランダで育てている野菜たちです。幅4m×奥行き1mほどの小さなベランダですが、物件探しのときから南向きを第一条件に決めました。夏場はゴーヤーとツルムラサキのツルが網戸を覆って日除けとなり、食べられるグリーンカーテンとなって涼しさと実りを提供してくれています。

フリーアナウンサーをしていますが、野菜を作っていることから「ベジアナ」と名乗ってブログに野菜作りを綴りはじめて十数年。今では、家庭菜園だけでなく、全国の農業・農村をテーマに取材や講演活動をさせていただいています。
私にとって野菜作りの楽しみは、収穫だけではありません。もちろん採れたて野菜は格別ですが、蒔いた種から小さな芽が出たり、苗が成長する過程にこそ、菜園家ならではの感動と作る喜びがあるのです。ゴーヤーの黄色い花をよく観察すると、雌花と雄花では形が違います。シシトウや唐辛子の白く可憐な花は、葉の裏に隠れるように咲いています。
ある日、実り始めた小さなシシトウの赤ちゃんを写真に撮ろうとして、私は感動して泣きたい気持ちになりました。つややかなシシトウに、茶色く枯れた花びらがまとわりついていたのです。白く可憐な花だったお母さんはガクの下に子供を宿し、子シシトウが成長する中でしおれて、最後は子シシトウを抱きかかえるようにして枯れていたのです。これぞ命の誕生と世代交代、ダイナミックな生命の循環です。かつて茶人は、茶室空間をひとつの宇宙に見立てましたが、まさにベランダは多様な生命体の集まる小さな宇宙です。ガラス戸を開ければ、部屋の軒下で自然の息吹きが体感できるのです。

こうして野菜の成り立ちを知れば、 スーパーで買う野菜に対しても見方が変わります。1パック198円とか298円だとしか見ていなかったきゅうり、ナス、トマトすべての野菜は生命の結晶です。自分で作ると失敗も多く、傷のない、鮮やかな野菜を作ることがどれほど大変か。当たり前の野菜たちが、実は選ばれし精鋭ぞろいだということに気付いたのです。
日本の2015年度の食料自給率(カロリーベース/農水省)は39%ですが、これを都道府県別に見ますと、東京都の食料自給率は1%。神奈川県、大阪府は2%。また上位は、北海道221%、秋田県196%、山形県142%と続きます。都市に住む私たちは、ほとんどの食べものを地方の農林水産業に依存しています。その産地や生産者に、どれほど敬意が払われているでしょうか。

そこで私が提唱したいのは、「1億総農家」です。都会に住む人も、ベランダ菜園や庭で野菜を作るなど「農」的な暮らしを取り入れれば、産地に思いを馳せることができます。都会で〝消費〟するだけでなく、ときどきは〝生産〟する喜びも味わってみませんか?土いじりはリフレッシュと癒やしになり、ストレス発散には最適です。イライラにはハーブの香りでリラックス。子供たちには食育に、お年寄りには生きがいや居場所づくりに。まちじゅうのベランダや屋上で野菜を育てたら、世界から見ても緑あふれる魅力的な都市になると思いませんか。
それにしても、そろそろプランターが増えて手狭になってきました。もし、菜園向きの広いベランダや屋上、庭付きマンションがありましたなら、どうぞ教えてくださいね。

フリーアナウンサー/農業ジャーナリスト
小谷 あゆみ
兵庫県生まれ・高知県育ち。石川テレビアナ ウンサーを経て2003年からフリー。アナウンサー時代の農業取材がきっかけで農村の魅力に感動し、農業・農村を取材テーマに。野菜を作るアナウンサー「ベジアナ」としてベランダ菜園から「農」をリスペクトする「1億総農家」を提唱。農の多様な価値を掲げ、全国を取材、講演活動を展開。NHKEテレ「ハートネットTV介護百人一首」出演中。日本農業新聞ほかにコラムを連載。農林水産省食料農業農村政策審議会・臨時委員ほか ●ブログ「ベジアナあゆの野菜畑チャンネル」

月刊不動産流通2017年11月号掲載ƒ

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