家のコト

World Life Style~わたしの国の住まい事情~

旧東ベルリンに残る、築100年以上のアンティークな“アルトバウ”を 魅力的に『リノベーション』して住まう。

この「記事」が気に入ったらみんなにシェアしよう!

みんなにシェアしよう!

海外の家や暮らしをリポートする「World Life Style」。第5回目はドイツベルリンの一等地ミッテ地区に住むデザイナー、ヴィプケさんのアパートを紹介。 セレクトショップが軒を並べるトーア通りに自分のブランドのショップとアパートを持つヴィプケさん。どちらの建物も人気の「アルトバウ」、新築に比べて、窓の大きさと天井の高さが魅力の築100年以上の石造りの建物だ。

高い天井、大きな窓、広々とした間取りが魅力

world_05_01 「アルトバウ」とはドイツ語で「古い建築」のこと。ベルリンの不動産サイトなどでは19世紀後半から20世紀初頭に建てられた石造りのアパートを指すことが多い。天井が高く、光をたっぷりと取り入れる大きな窓と広々とした間取りが、新築アパートにはない魅力だ。 ヴィプケさんのお宅も天井の高さは3.8m。 2007年に、友人を介して入居した彼女だが「それまでは石炭暖房ばかりだったので、セントラルヒーティングがあることが一番の決め手になりました」と笑う。 実は、ヴィプケさんの引越歴は1998年から2007年までの9年間でなんと10軒!これには、ベルリンという街の歴史が大きく関わっている

新首都ベルリンに残る、掘り出しもの物件

world_05_02 1989年のベルリンの壁崩壊、翌年の東西ドイツ統一をへて、統一ドイツの首都に返り咲いたベルリン。90年代の旧東ベルリン地区には所有者のわからない建物も多く、街全体がカオス状態で、2000年代初頭までは「家賃天国」と呼ばれていた。住宅水準の低さもあり、1平米辺りが約3〜5ユーロ前後の格安物件がごろごろあり、「何はなくても引っ越す」というスタイルが一般的だった。その評判が世界各国に広まり、現在家賃高騰と住宅バブルに悩まされているベルリン。 しかし、いまでもたまに不動産市場に興味がないオーナーの格安物件が見つかることもある。ヴィプケさんの家は、まさにこんな掘り出しもの。入居してから、壁を塗ったり、白く塗装されていたフローリングの床を削ったりと徐々にリノベーションを進めていった。

壁紙をはがし、ざらりとした質感を生かした壁

world_05_03 白いペンキの下から現れた、使い込まれた松材のフローリング。ざらりとした質感の壁が、その柔らかい飴色に映えている。壁に近よって見ると、表面にはミントグリーンやオリーブ色のペンキや接着剤が重なり、古い修復の跡や穴も見える。このアルトバウの建物が過ごした歴史の跡。ヴィプケさんは廊下やキッチン、天井に近いリビングの壁は白く塗ってしまったが、一部だけ古い部分を剥き出しに残した。ベルリンでは人気のリノベーション方法だという。

異なる質感や強い色が、ラフさを引き締める

world_05_04 ペンキや修復の跡が剥き出しになった壁は、ともすればボロボロでラフな雰囲気だが、壁にかけられた鮮やかな色使いのベトナムの民族衣装などが、鈍い壁のトーンを引き締めてくれている。壁の絵は友だちが描いたもの。「この壁の質感にそっくり!」と2年前に購入した。 world_05_05 ピンク色の棚の下や一部の壁はオンラインショップ用の写真撮影のために、ニュートラルなグレーに塗っている。古い部分をうまく残し新しい部分を適度に加えるのが、アルトバウをリノベーションする時のコツ

最も多く時間を過ごす、朝日が射すキッチン

world_05_06 美味しいものを食べるのが好き、料理好きのヴィプケさんが最も多くの時間を過ごすのがキッチンだ。小さいけれど、大きな窓から朝日が差し込み、居心地がいい。蚤の市で購入したアンティークの器や棚、おばあちゃんからもらったという古い時計。壁には一番好きな野菜のマンゴールド(フダンソウ)を描いた古いポスターが。スパイスやハーブ、乾物類は全て容器に詰め替えているからか、ものが多いわりにすっきりして見える

部屋のそこここに残る「跡」

world_05_07ドアや廊下には、鉛筆の落書きがある。これはヴィプケさんのボーイフレンドが残していく落書きだそう。

年月を経て、美しくなっていくもの

world_05_08 12時少し前になると、このアパートを出て隣のビルへ。ここが彼女のブランド「A.D. Deertz」のショップ。何かが置かれていた跡が残るフローリング、使い込まれた木の器や椅子……。自然素材を使い、シンプルで流行に左右されないデザインが魅力の「A.D. Deertz」の洋服は、着ていくほどに肌に馴染み、皺や色褪せが魅力になっていく。そんなヴィプケさんのセンスは、彼女の住まいにも現れている。 world_05_09

■プロフィール■ ヴィプケ・デールツ(39歳) ファッションデザイナー 北部ドイツ、シュレスヴィヒ出身。アメリカのワシントンD.C.とオランダのユトレヒトのアカデミーでアートを学ぶ。1998年からベルリン在住。2000年からADD、2009年からメンズファッションブランド「A.D. Deertz」立ち上げ。www.addeertz.com
~住まいについて~
 面積:約60〜65平米。家賃:300ユーロ。

world_05_10

■ベルリンの不動産事情■壁によって東と西が分断されていたベルリンの街は、1990年に統一ドイツの首都となった。ヨーロッパでも最も生活費が安い大都市として話題を呼び、ドイツの他都市からだけでなく世界中から人々が集まり、現在家賃が高騰している。壁崩壊後すぐは廃墟が数多く立ち並び、若いアーティストが集まるアヴァンギャルドな地区として人気を呼んだ旧東ベルリンの中心地、ミッテ地区も現在は一等地。相場はミッテ地区で改装済みの「アルトバウ」1平米辺りが、10ユーロ前後。場所によっては家賃が1年に15%〜増と住宅バブルまっただ中だ。 クロイツベルク地区、ノイケルン地区、と次々と以前は生活費や家賃が安かった地区が人気となっては家賃が高騰するという現象が続いている。

この「記事」が気に入ったら
みんなにシェアしよう!

MATOME