家のコト

World Life Style~わたしの国の住まい事情~

ネパールの石壁の茅葺き農家をリフォーム。 シンプル&温もりのある夫婦の暮らし

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海外の家や暮らしをレポートする「World Life Style」。第29回目は、ヒマラヤの麓、ネパールのポカラから、リフォームした農家におしゃれに暮らすパラジュリ夫妻をご紹介。自然と、ネパールの伝統文化と、アンティーク家具をこよなく愛する彼らの生き方が感じられる石壁の茅葺き屋根の家だ。

ナチュラルハウスが縁で運命的に出逢ったふたり

パラジュリ夫妻の暮らす家は、ヒマラヤ山脈の麓の観光地であるポカラの郊外に位置している。ネパール人であるご主人のブッディサガールさんと、ネイティブインディアンの血をひくカナダ人のウェンディさんと犬のプリューデンスの2人と1匹暮らしだ。二人が知り合うきっかけは、実はこの家であるという。ウェンディさんが、初めてネパールを訪れたのは、2010年のこと。

アジア放浪の旅の途中、ポカラが気に入り、郊外の村にあるこの家を1ヶ月ほど借りたのだ。広い庭に、石壁と茅葺き屋根の小さな農家にウェンディさんはひとめぼれ。元々このあたりの村では、石壁とかやぶき屋根の家がほとんどだったが、近年では、鉄筋コンクリートの家が増えている。伝統的な農家を好むツーリストとは対照的に、村人は近代化をよしとし、年々伝統的な農家は減りつつある。

そして、ここで、彼女は大家さんの弟であるブッディサガールさんとも出会うことになる。お互いにひとめぼれだったというお二人、2011年には電撃結婚を果たした。結婚を機に、独立したブッディサガールさんは、お兄さんからこの家を譲り受け、夫婦で暮らし始めることになったという、なんとも素敵なエピソードである。

居間が中心、コミュニケーションを大事にした暮らし

夫婦揃って、自然の中のシンプルライフが好きというパラジュリ家。“石壁に茅葺き屋根”と、平屋の農家自体はほとんど手が加えられていない。ただ、ちょっとしたデコレーションや、ネパールのアンティーク家具が、この素朴な家に絶妙にマッチして、おしゃれな空間を作り出している。玄関を入ると、そこは、ダイニングも兼ねたリビングルーム。大きなテーブルは、かつて、ネパールの農家ではベッドとして使われていたものだとか。友人を招いてのホームパーティーでは、この大きなテーブルが活躍する。リビングルームにはテレビは置かれておらず、夫婦のコミュニケーションを大事にしたいから、家にはあえてテレビは置いてないのだという。居間は、この家の中心であり、夫妻が最も多くの時間を過ごす場所でもあり、また友人たちとの交流を楽しむ場所なのである。

キッチンはリビングの奥に対面式に設置してオープンなつくりに。住み始めた時に、水タンクを外に設置して、流し台の水道から水が出るようにリフォームしている。ネパールの農家では、まだまだ家の中に水が引かれておらず、家の外で皿洗いする家も多い

この居間を中心に左右に一つずつ寝室がある。ひとつは夫婦の寝室。対角線上におかれたベッドと素朴なネパールの家具を中心に、シンプルにまとめられている。

居間をはさんで反対側にはゲストルームがある。ネパールの家具を中心に、手漉き紙のランプシェードや掛け軸などをつかったエスニックな雰囲気の部屋にコーディネイトをしたのは、もちろんウェンディさんだ。2LDKの広さは、シンプルライフを好む二人には、十分だという。

まるで林のような400坪以上の広い庭

地面をいつも感じて暮らしていたいというパラジュリ夫妻の家は、緑に囲まれた広い庭を持つ。竹で作られた簡素なゲートをくぐると、庭というよりも、まるで、林の中を歩いているように感じられる。

ゲートから30mほど木の間の小道を歩いて行くと、急に開けて、茅葺き屋根が見えてくる。ゆったりとした400坪以上ある庭は、自然が大好きなパラジュリ夫妻の自慢。ネイティブインディアンの血を引くウェンディさんにとって、大きな木々や野の花のない生活など考えられないという。

「鳥やカエル、ご近所さんの犬とか、庭にはたくさんの訪問者が来る」と楽しそうに笑うが、時々ヒョウもやってくるというから、自然に近い暮らしは、なかなかあなどれない。でも、それすらもひっくるめて、地面を足の裏で感じる暮らしは捨てがたいというのが、二人の意見の一致するところ。

自然の中で暮らすというと素敵な響きであるが、実際に生活していくには、様々な苦労もある。水道管はこの村まで来てないので、生活水は、600m以上標高の高い場所にある湧き水をわざわざ引いている。庭におかれた、古いバスタブに注がれる水はその湧き水である。暑い夏には、プール代わりに使うこともあるとか。

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二人の子供のような存在であるプリューデンスは、広い庭がお気に入り。小さいけれど、番犬としてもかなり優秀。

少しずつ集めたネパールの素朴なアンティーク家具たち

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急速に近代化が進むネパールでは、新しいもの、モダンなものをよしとする風潮が急速に広がっている。「ネパールの伝統文化や手作りの家具は素晴らしいのにもったいない」とブッディサガールさんは言う。古い伝統的な家具が大好きな二人は、村の農家から、捨てられる寸前の家具を買い集めてきた。
新しいアルミ製品の長持ちに取って代わられつつある、ムドゥースと呼ばれる木の収納家具もその一つ。使いこまれたツヤと手彫りの感じがなんとも愛おしく、味のある逸品。このムドゥースが部屋にセンスとぬくもりを与えてくれている。

電気のない時代のネパールで、活躍したのはオイルランプ。写真は、素焼きのものにペイントを施した装飾性の高いオイルランプ入れ。伝統的なデザインが二人のお気に入り。

ポーチにおかれているのは、ボートを改装したソファ。ピクニックに出かけた郊外の湖で、薪にされる寸前の古いボートを安く譲ってもらったものだ。「燃やしてしまうなんてもったいない! ボートとしては使えなくても、まだまだ活かせるでしょ」とウェンディさん。あるものを十分に生かしてシンプルに生きる。家の至るところにお二人のライフスタイルが感じられる素敵な家だ。

ウェンディさんは家から徒歩5分のところに、「THE BEE CHARMER」というカフェを経営している。内装はもちろん、インテリアコーディネーターのウェンディさん自身によるもの。食事のメニューは少ないが、日替わりで、お手製のスイーツやオーブン料理が堪能できる。毎週金曜日の午後は、ネパール人の旦那を持つ外国人妻の溜まり場になっているとか。

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■プロフィール■
ご主人のブッディサガールさん(37歳)は、ネパール人でパラグライダーのインストラクターをしている。ヒマラヤを見ながら飛ぶ時間を何より愛しているという。
奥さんのウェンディさんはネイティブインディアンの血をひくカナダ人で、インテリアコーディネーター兼カフェ経営。自然と伝統文化をこよなく愛している。
犬のプリューデンスは二人がここに住み始めた時から一緒に暮らしていて、いまや家族も同然の存在。
〜住まいについて〜
家は約24坪。敷地はだいたい450坪。お兄さんから受け継いだ持ち家である。リフォームしたのは水まわり、電気関係、ペンキ塗りで、10万ルピー程度(約10万円)

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■ネパール・ポカラの不動産事情■
ポカラは、首都であるカトマンズに次いで観光客が多いツーリズムの町。ヒマラヤと湖のある保養地である。ツーリズムエリアと一般の住宅地では土地の値段、家賃ともに大きく違う。ここ20年以上、ネパール全体で、土地の値段は年々上昇する傾向にあり、20年前に比べて、10~20倍になっている。さらに、ポカラでは、最近、国際線空港の建設が始まり、土地の値段は急騰。ツーリズムエリアでは、一坪20万ルピー(約22万円)を超える土地もざらである。しかし、学校の先生の月給が1万〜2万ルピー(1〜2万円)であるネパールでは、ポカラ市内で土地を買うことすら、庶民にとっては困難な状況である。一方、地主は土地を担保にして銀行ローンを組み、2階〜4階建ての家を建て、フロアごとに賃貸して、ローンを返済するパターンが多い。庶民向けのバストイレ共同の部屋は、一部屋の家賃が4,000ルピー程度(約4000円)。フロア貸しの物件は、2LDK〜3LDKの家具付きで家賃は3万ルピ〜(約3万円〜)。一戸建て住宅を土地から購入して建てる場合、2階建てのごく普通の家で1,000万〜2,500万ルピー(1000〜2500万円)は必要。賃貸仲介業はポカラにはないので、部屋を借りたい場合は、貸出中の看板や口コミを頼りに足で探すのが基本。敷金礼金のシステムは特にはない。家賃は毎年10%上がっていくことが多い。

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