全国各地のウマい肉料理をお腹いっぱい食べ尽くしていく連載「満腹御礼 ご当地肉グルメの旅」。
今回やってきたのは茨城県久慈郡大子町です。
大子町は茨城県北部に位置し、北は福島県、西は栃木県に接した県境の町。山々に囲まれ、雄大な自然が広がります。
この地域で最も有名なのは、日本三名瀑の一つ「袋田の滝」。滝といえば夏のイメージですが、冬の時期には凍結した“氷瀑(ひょうばく)”が見られるのも魅力です。
また町内を流れる久慈川は鮎の産地としても知られ、夏には川に設置された「やな」と呼ばれる仕掛けでつかみどり体験ができます。
そんな自然豊かな大子町で生まれ育ち、いまや町を代表する名産となっているのが「奥久慈しゃも」です。奥久慈しゃもを味わうために、全国からわざわざ足を運ぶ観光客も増えているとのこと。早速その真相を確かめるため、大子町の中でも人気のしゃも料理店の「弥満喜(やまき)」を訪れました。週末には行列もできる、奥久慈しゃも料理の名店です。
店は、JR水郡線常陸大子駅から徒歩5分、駅前中央通り沿いにあります。
ご主人の黒崎昇さんに、奥久慈しゃもがどんな鶏肉なのかを聞いてみました。
黒崎さん「奥久慈しゃもは自然豊かな大子町で、ストレスをかけずのびのびと育てられます。一般的に食べられているブロイラーは50日ほどで出荷されますが、奥久慈しゃもは出荷までにオスで120日前後、メスで150日前後かかります。長い時間をかけ、十分な運動をさせつつ育てることで、脂肪分の少ないしっかりとした肉質になります」
育てるのがとても大変な鶏だということがわかります。さらにこちらの弥満喜さんでは、奥久慈しゃもの中でも選びぬいたものを使用しているのだとか。
黒崎さん「弥満喜では、奥久慈しゃものメスのみを使用しています。オスとメスでも肉質は大きく異なるんです。オスは、奥久慈しゃもの特徴のひとつである歯ごたえが、一層しっかりとしています。それに比べメスは、もっちりとした適度な弾力が魅力です。試行錯誤した結果、弥満喜の料理にはメスの肉の方が合うとわかり、いまはメスのみを使用しています。また肉は生の新鮮なものにこだわり、冷凍ものは使用しません」
それでは、こだわりの奥久慈しゃもを使って、人気の料理を作っていただきましょう。まず調理していただくのは、「奥久慈しゃも丼『極』」。奥久慈しゃもの肉と卵を余すことなく使用したぜいたくなどんぶりです。
「奥久慈しゃも丼『極』」に使われている肉の部位は、むね、もも、ささみ、手羽元、レバー、砂肝、ハツと、奥久慈しゃもが一羽まるごと入っています。こだわりの朝どれ卵はぜいたくに3個も使用。しゃもの魅力が、この一杯の丼にぎゅっと凝縮されています。
ひと口食べてみると、これは見た目から想像する「親子丼」とは全くの別物だとわかります。歯を押し返す心地よい弾力をもった奥久慈しゃもの肉は、かめばかむほど旨味があふれだします。玉ねぎなどの鶏以外のものが入っていないため、奥久慈しゃもの味がダイレクトに伝わる気がしますね。
半熟で甘く、濃厚な卵が、肉の旨味を受け止め、口の中で一体になるのがたまりません! ご飯も「お米日本一コンテスト」で日本一にも輝いたこともある地元の大子産米を使っているので、肉や卵に負けないおいしさです!
そして、一番のポイントは、さまざまな部位が入っているということ。もも肉の張りのある歯ごたえ、ささみのしっとりとした食感、レバーのねっとりとした舌触り。ひと口ごとに食感と味が変わるので、この味はどの部位だろう? どんな味なのだろう? と、新しい楽しみが詰まったどんぶりとも言えます。
付け合わせのスープも、奥久慈しゃもの手羽でだしをとったものだそうで、透明なのに旨味が凝縮され絶品です。最初から最後までたっぷり奥久慈しゃもの味わいを堪能できました。
そしてさらに、この店が奥久慈しゃもを味わうためにオススメしているのが、オリジナルメニューの「奥久慈しゃもすき鍋」です。使う肉は、むね、もも、ささみ、手羽中、レバー、砂肝、ハツとこちらも奥久慈しゃもを丸ごと味わえます。
新鮮な肉を陶板鍋で焼き、タレで煮込んで味わう「すき焼き」風の料理です。最初に肉を焼くときは、牛脂などではなく特製のガーリックバターを鍋に溶かします。肉の皮目が焼ける匂いと、ニンニクの香りが混ざり合い、今すぐにでも味わいたいほどです!
焼き色がついたら、奥久慈しゃもでとっただしをベースに、地元の味噌を隠し味にした特製の割り下を注ぎ入れます。
グツグツと煮込んでいても、他の肉とは違いほとんどアクが出てきません。これも、弾力ある肉で旨味を閉じ込めている奥久慈しゃもならではだとか。さらに肉、野菜などを足せば完成です。
グツグツと煮える鍋の中に、艶やかに輝くしゃも肉。ますます食欲がそそります。では、さっそくしゃも丼にも使われたこだわりの卵につけていただきます。
濃厚な甘い卵と割り下の甘じょっぱさのあと、かみごたえのあるステーキのような肉からジュワっとしゃもの旨味があふれだしてきます。しゃも丼の肉よりもカットが大きく、しっかりと焼いているので、肉汁はこちらのほうが多く感じます。
すき焼きではなかなか味わうことのない、貴重なレバーもオススメです。火を通しすぎずいただけば、表面はふわっと、中はねっとりとした食感です。もちろん新鮮なので、嫌な臭みはほとんどなく、濃厚な肝の味わいを楽しめます。
また、途中でお店特製の辛味噌をつけていただくと、ピリッとした唐辛子の刺激で、ひと味違うすき鍋に変わります。
そして締めは、ご飯かうどんから選んで、鍋に残ったしゃもの旨味を味わい尽くします。お肉のボリュームもしっかりあるので、男性でも十分満足できる内容です。
弥満喜では、他にもしゃもを使った料理を多数出しています。しゃもすき鍋と並んで人気の「しゃも鍋」は、内臓肉は入らず正肉だけのさっぱりとした味で、肉本来の味を楽しむのに最適。シンプルにしゃもを味わう「塩焼き」、サクッとした衣の食感も楽しい「天ぷら」、季節限定の「朴葉焼き」もオススメです。
ここまで奥久慈しゃもを生かした料理を提供するようになったのは、どんな経緯があったのでしょうか?
黒崎さん「先代の父が戦後に始めた店ですが、元々最初はしゃものメニューはなく、17〜18年前からしゃもメニューを出し始めました。そのころはまだ、奥久慈しゃもの知名度が低く、全く注目されていませんでした。しかし、地元で生まれたしゃものおいしさをを広めたいという思いから、試行錯誤を重ね、今のしゃもすき鍋やしゃも丼に行き着きました。いまでは専門家や地元の飲食店との協力もあって、町の名物になりました」
いまでは大子町の名物となった奥久慈しゃも。お店ごとに特徴を出したメニューを提供しているそうです。弥満喜でも、まだまだ新メニューの提供を続けています。
黒崎さん「最近、町ぐるみで開発したメニューでしゃもをつかった参鶏湯(サムゲタン)、『シャモゲタン』を要予約で提供し始めました。奥久慈しゃもをはじめ、大子漆、大子産米、奥久慈干しりんご、凍みこんにゃく、ニンニクなど大子町のさまざまな名産を使っています。これからも奥久慈しゃもを広められるように、新しいメニューを開発していきます!」
参鶏湯ならぬシャモゲタンとは驚きです! 奥久慈しゃもだけではなく、大子町の名産品が詰まった料理とあってはぜひ味わってみたいですね。
黒崎さん「大子町は袋田の滝をはじめ、季節ごとに美しい風景を見せてくれるすてきな町です。奥久慈しゃもは季節に左右されないので一年中いつ来ても味わうことができます。いつでも最高のしゃも料理を準備してお待ちしています」
自然あふれる大子町で、のびのびと育った奥久慈しゃもは、その育った環境を表すような、とても健康的な旨味が詰まった鶏でした。そして、その味を最大限に引き出す弥満喜独自の料理。本当に感服です。
大子町では、2月26日に町内の十二所神社の百段階段にて約1000体の雛人形が並べられる壮大な「ひなまつり」が開催されたこともあり、3月5日まで約150カ所で雛人形が飾られ、華やかです。今の時期しか見ることのできない氷爆や雛人形を目当てに、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。もちろんその際は、奥久慈しゃもを味わうこともお忘れなく!
-
施設情報
●弥満喜(やまき)
住所:茨城県久慈郡大子町大子741-1
電話:0295-72-0208
営業時間:ランチ11:00~15:00、ディナー17:00~20:00、水曜定休
※記事中の情報・価格は取材当時のものです。