規制に挑むマッチングビジネス タクシー、ホテル業界に反発も

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(OVO オーヴォより)

ITを駆使した新しい「マッチングビジネス」がタクシー、ホテル・旅館業の岩盤規制に風穴を開けようとしている。法律解釈のグレーゾーンに攻め込み、関係業界からは反発の声も上がる。所管する中央官庁は、「初顔」ビジネスへの対応に苦慮しており、新サービスが市民権を得られるかどうかは、利用者サイドの支持がどこまで広がるかに懸かってきそうだ。

国交省が「待った」

米国のITベンチャー、ウーバー・テクノロジーズは2月、一般ドライバーによる送迎サービス「ライドシェア(相乗り)」の実験を福岡市などで始めた。

利用者がスマートフォンのアプリを使って配車を依頼すると、ウーバーに登録した一般ドライバーが迎えにきて、自家用車で目的地まで運んでくれる。いわばスマホを使った「ヒッチハイク」の事業化だ。乗客となる利用者は無料。営業許可を受けていない自家用車の運転手は、データ提供料という名目でウーバーから報酬を受け取る仕組みだった。

これに「待った」を掛けたのが国土交通省だ。許可なく不特定多数の利用者を運び、運転手が報酬を受け取る行為は、道路運送法に違反する「白タク」営業の疑いがあるとして中止を求めた。自動車局旅客課の寺田吉道課長は「道路運送法に抵触すると判断して、利用者の安全確保のため中止を求めた」と説明する。ウーバーが運転手にデータ提供料を支払ったことが、業法が定める「有償運送」になるとの判断だ。

だがウーバー側には「法律に違反した」という認識はない。利用者は何も支払っていないので「有償」には当たらないと判断しているようだ。ここに道路運送法の解釈をめぐる相違がある。「実験は同乗者の方に無料で参加してもらい、運転者として参加した方にはデータ提供料を支払った。日本では少子高齢化が進み、移動手段の共有化が必須となる時代が到来する。ライドシェアという支え合いの精神に基づいた解決策は、その時の手段になる。これを検証することは意義があり、新しい時代に向けて取り組むべきチャレンジだ」(ウーバー広報)

これまでウーバーは、スマホのアプリを使ったハイヤー配車事業を東京の都心部で展開し、順調に乗客数を伸ばしてきた。運転手も車も持たず、法人ハイヤーなどを一定期間借り上げて、利用者にサービスを提供する。ウーバー自体は道路運送法上のハイヤー業者ではなく、東京都に観光業者として登録している。前出の寺田課長も「スマホの配車アプリは問題ない」と認めている。

現在は50カ国290以上の都市でサービスを提供し、急速に利用者数を伸ばしている。日本では昨年3月から東京で本格的に事業を始めた。そのウーバー・ジャパン(東京)を率いるのはソニーから転身した高橋正巳社長。「日本の交通手段にインパクトのあることをやりたい」と意気込んでいる。

少子高齢化に対応した地域交通機関の確保は深刻な問題だ。だが「ライドシェア」が広がれば、既存のタクシー業界は利用客を奪われ、大きな打撃を受ける。簡単には認められそうにないビジネス形態だ。

ウーバーは韓国やスペインでも、「白タク」を疑われる行為をしたとして営業停止になるなど、世界各地で規制の「逆風」にさらされている。背景には、顧客の争奪をめぐるタクシー業界の反発がある。このビジネスモデルが各国の法規制をかいくぐって認知されるかどうかは、不透明な状況だ。

旅館業法違反で摘発

中国、韓国、台湾などから多くの観光客が日本へ押し寄せ、一部の地域では外国人向けの宿泊施設が不足する中で、旅館業法をめぐる混乱も起きている。

旅館業法は戦後間もない1948年に制定された。法律に基づく宿泊施設として自治体の許可を得るには、消防法などが定める消火設備が必要になり、費用と手間がかかる。

東京や大阪では13年頃から、一戸建て住宅やマンションの部屋を改造し、無許可の宿泊施設として外国人に提供したとして、旅館業法違反で摘発されるケースが相次いでいる。一戸建て住宅やマンションの所有者が、手軽に現金収入を得ようとして、無許可・低料金で宿泊させるケースが急増しているという。

提供する側からは「旅館でなくシェアハウス」との反論もあるが、問題は、どのような要件を満たすと「宿泊施設」になるかだ。原則として?反復して宿泊させる?寝具などの交換をオーナーが行う?宿泊場所を生活の本拠地としない―が常態化しているかどうかで判断される。摘発された事例には、この要件に合致するものが多い。

こうした状況で、不動産オーナーと旅行者を仲介し、空き部屋を提供する「Airbnb(エアー・ビー・アンド・ビー)」が日本で急速に事業を拡大している。米国サンフランシスコに本社があり、既に世界190カ国、3万4千以上の街で宿泊施設を提供し、累計の利用者数は3千万人を超えた。

Airbnbのマッチングビジネスは空いている部屋を宿泊施設として仲介するだけで、自らは施設を所有しないため、旅館業法の対象とならない。Airbnbジャパン(東京)の田辺泰之代表は「2015年と14年を比較すると、宿泊物件は3〜4倍、利用者数は3倍伸びている。今後は東京、大阪、京都での仲介を加速させる」と一層の拡大を狙っている。

これに対し、ホテル・旅館業界は「Airbnbが提供している宿が旅館業法に基づいているのであれば構わないが、ほとんどの物件はそうではない」(清澤正人・全国旅館ホテル生活衛生組合連合会専務)と警戒心を強める。

一方で日本を訪れる外国人旅行者は14年に1300万人を超えた。政府は東京五輪・パラリンピックが開催される20年に、2千万人とする目標を掲げる。国内にホテル・旅館の客室数は160万近くあるが、五輪期間に多くの外国人旅行者が集中し、あわせて日本観光を楽しんでもらうには、一定数の宿泊施設を用意する必要がある。

看板倒れの「戦略特区」

そのため政府が14年5月に発表した東京圏、関西圏など六つの国家戦略特区では、外国人向け宿泊施設の規制緩和も盛り込んだ。旅館業法の特例として、外国人が宿泊するために部屋を貸す場合は、賃貸契約によりサービスを提供できるとし、細かい要件は自治体の条例で定めるとした。

特区に指定された大阪府と大阪市は、自治体のトップを切って空き部屋を外国人の宿泊施設として利用できる条例の制定を目指した。だが昨年9月の大阪市議会では、市提出の条例案が自民党など野党の反対で否決された。住宅地に外国人観光客が滞在することで騒音などの問題が懸念されており、大阪市の足立幸彦・観光課長は「(宿泊契約をした部屋の)近隣住民への対策などを国と調整している。それができたら条例を再提出したい」としているが、日程は固まっていない。

内閣府の担当者は「国家戦略特区のワーキンググループで調整をしている」と説明するが、条例の成立に向けた動きは見えない。宿泊施設の規制緩和を具体化する条例はまだ一つも成立しておらず、鳴り物入りで発表された国家戦略特区も、この分野では看板倒れとなっている。

ホテル・旅館業を所管する厚生労働省健康局の稲川武宣・生活衛生課長は「自宅の建物を宿泊施設としたことで旅館業法の罰則が適用される事例が相次ぎ、昨年7月に全国の自治体に旅館業法の順守を求める通達を出した。特区でどうするかは、内閣府と調整している」と話す。

利用者、世論を味方に

ベンチャーに詳しい、みずほ中央法律事務所の三平聡史・代表弁護士は「業法の対象にならないマッチングビジネスが登場したことで、法解釈も定まらなくなってきている。グレーゾーンはベンチャーの『聖域』ともいわれ、規制緩和の突破口になるかもしれない」と指摘する。同時に「解釈をめぐって行政当局との裁判になるのは時間と経費がかかり、得策ではない。規制緩和を勝ち取る早道は、利用者、世論を味方につけることかもしれない」と話す。

規制緩和を訴えてきた中西健治参院議員は「外国人旅行者が増えて宿泊施設が圧倒的に足りなくなり、ホテル料金が上がっている。このままでは1泊5万円になり、外国人客は日本に来られなくなる。特区で例外的に規制緩和するのではなく、火災保険への加入など最低限のルールを決めて、全国どこでも空き家を宿泊者用に賃貸できるようにするべきだ。各地で増えている空き家の有効利用にもつながる」と主張する。

外国人旅行者向けビジネスは、地方の観光地も含めて、大きな伸びが期待できる一大産業に成長しつつある。だが関連業界が規制に守られて安住していては、マッチングビジネスを得意とする外資系に市場を奪われてしまうかもしれない。外資系と対等に競争できる法的環境を早急に整備すべきだろう。

(経済ジャーナリスト 中西 享)

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