暮らしのコト

地域密着 愛されご当地パン

60年以上変わらぬ味と美しさ! 島根県出雲市の「バラパン」

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地元で愛されているパンを探して、全国各地をゆく「地域密着 愛されご当地パン」。今回は美しいバラの花がモチーフの「バラパン」を求めて、島根県出雲市の「なんぽうパン」にやってきました。
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なんぽうパンの事務所と工場はJR西出雲駅から徒歩10分ほどの場所にあります。

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工場では熟練の職人たちが次々にパンを製造しています。

昭和24年創業のなんぽうパンでは、菓子パンや食パン、惣菜パンをはじめ、学校給食用のパンなどさまざまなパンを製造・販売しています。なかでもバラの花をモチーフにした「バラパン」は、今年で発売62年目という超ロングセラー。出雲市内のスーパーではどこにでもある、おなじみのパンなのだとか。バラのようなパンとはどんな姿なのか、早速、ご当地パンを拝見してみましょう!

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これがバラパン。発売当初から変わらないパッケージはピンクのバラのイラストがかわいらしい。

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袋から取り出すと、花びらのような生地が渦状に巻かれてます。

まるで大輪のバラが咲き誇っているかのような美しい見た目! くるくると巻かれた生地の間には白いクリームが挟んであります。生地の上部が花びらのように山型になっており、それを何層にも巻くことで、バラの花を表現しています。変わった生地の形ですが、生地の作り方には実は秘密があるのだとか。その秘密を聞いてみましょう。

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案内してくれたのは、なんぽうパン営業部長の森山英一さんです。

森山さん「バラパンは、均等に細長く伸ばした生地を鉄板に約20本並べて焼き、1つの大きな生地にしています。それを切ると、花びらのような山型になるんですよ」

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約20本の生地がそれぞれ膨らみ、きれいなひだのように焼き上がったところ。

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焼き上がった生地を機械に通し、ひだに対して垂直に切ります。

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バラパン20個分の生地の完成です。

型に生地を流し込んでただ焼くだけでは、バラの花びらにはならないのですね。花びらの秘密がわかったところで、早速ひと口食べてみたいのですが、このままかぶりつくと少し食べづらそうです…。上手に食べるコツなどはあるのでしょうか?

森山さん「バラパンは、花びらの部分を1枚ずつちぎり、クリームをつけて食べるのがおすすめです。地元の方もこの食べ方をする人が多いですよ」

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1つの山が1枚の花びら。クリームは多くもなく少なくもなく、生地とのバランスが抜群。

なるほど、バラの花にふさわしい上品な食べ方ですね! 生地を口に入れると、かまなくてもなくなってしまいそうなほど、しっとりふわふわシンプルな味わいで、ほんのり甘いクリームが引き立ちます。クリームはバタークリームのようですが、油っぽさがなく、あっさりミルクのような風味もほのかに感じられ、滑らかな舌触りです。中心部分にはクリームが集まり、最後に残った生地とたっぷりのクリームを頰張れば、幸せな気持ちに。見た目に劣らぬ素晴らしい味わいです!

森山さんクリームはバラパンの肝なので、特にこだわっています。バタークリームですが、ただのバタークリームではありません甘さはかなり控えめになるように調整していますし、滑らかさをだすために配合にもこだわっています。材料と配合について企業秘密です…!」

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発売当初から変わらないレシピで製造するバタークリーム。

こだわりのクリームを挟んだ美しいバラパンは、なんと1日に約2000個製造。製造工程は機械で流れ作業かと思いきや、実はそのほとんどの工程を4〜5人の職人が手作業で行っているというから驚きです!

森山さん「バラパンはクリームを絞る過程と、生地を巻く過程が難しいんです。クリームが上や下にあふれないように生地の真ん中にまっすぐに絞らなければダメです。量の違うところがあると巻く時にゆがむ原因になるので、同じ力・同じ速さで絞る必要があります。生地を巻く時には、ふんわりと花が開くような巻きにするために、職人の微妙な感覚が頼りになるんです」

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この道20年以上のベテランの職人さんが、慣れた手つきで次々にクリームを絞っていきます。

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ふんわりと巻き上がったばかりのバラパン。

美しいバラパンは、職人の手でひと手間もふた手間も加えられて初めて花開くパンでした。

■バラパン誕生の経緯

美しい島根名物のバラパン。どのようにして誕生したのでしょう。

森山さん「創業した頃にうちで働いていた男性の職人が、変わったパンを作りたいと日頃から考えていたようです。1950年頃はパンと言えば、あんパン・クリームパン・ジャムパンぐらいで、変わり映えのない時代でした。そんな時、通勤途中に偶然バラの花を見かけて、パンにしてみたいと思い付いたそうです。実は、彼は大の花好きだったんです。それから開発を始め、花びらの表現に苦戦しながら、試行錯誤の末に今の製法にたどり着いたと聞いています」

バラの花という”乙女なパン”は、なんと男性が生みの親だったのです。発売後、かわいらしい姿と味が好評で、少しずつ出雲の人々に広まっていったようです。

森山さん「当時は大型スーパーなどもありませんから、小さな商店に置いてもらったり、行商の方に売り歩いてもらったりして少しずつ広まりました。今では、出雲市内のほとんどの高校の購買に置いてありますし、スーパーでも売り切れて追加注文が来るほどの人気商品です」

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出雲市内のスーパー「ラピタ本店」の売り場には、バラパンがズラリ。味はプレーン、コーヒー、和風、白バラの4種。

少しずつ地域の人々に親しまれるようになったバラパンは、今では地域の集会のおやつになったり、法事の引き出物として注文する人がいたりと、出雲の人々の日常にしっかり根づいている様子。さらに、地元の有志の人々で”日本バラパン友の会”が結成され、なんぽうパンから仕入れたバラパンの生地を使ってオリジナルバラパンを作ったり、バラパンの歌を作ったりと熱狂的なファンもいるようです。

森山さん「これだけ長く、多くの人に愛されているのはすごくありがたいことです。この先も愛されるバラパンであるために、100年たっても同じ味を守り続けたいですね。今の味は発売当初からずっと受け継がれてきたものです。だからこそ、たくさんの人に懐かしいと言われ、愛されているんだと思います。いつまでも変わらないパンでありたいです」

60年以上もの間、人々に愛される見た目と味を守り続けてきたバラパン。100年先も愛されているのは、今と変わらぬ味と美しさを守り抜いたバラパンなのでしょう。バラパンは出雲市内のスーパーや空港で気軽に購入できますが、工場で直接購入することもできます。せっかくなら、作りたてのバラパンを味わってみてはいかがでしょうか。

  • 店舗情報 ● なんぽうパン
    住所:島根県出雲市知井宮町1274-6
    電話:0853-21-0062
    営業時間:7:30~18:30(土曜休)

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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