地域で愛されているパンを探して、全国各地をゆく「地域密着 愛されご当地パン」。今回は、群馬の名物にちなんだ珍しいパンがあると聞いて、群馬県沼田市の「フリアンパン洋菓子店」を訪問しました。
1949年(昭和24)創業のフリアンパン洋菓子店は、沼田市内に2店舗をかまえるベーカリーです。このお店で、50年以上も愛され続けているのが、なんと「みそ」を使ったパンなんだとか。群馬県は、細かく刻んだふきのとうをみそで和えた「ふきみそ」や、地元の名産品であるこんにゃくにみそを塗った「みそ田楽」など、古くからみそを使った料理が豊富。そんなみそ文化が根付いた地域で支持を受ける「みそパン」とは!? 早速、拝見してみましょう!
その外見は、白い色とひょうたん型の形が印象的ですが、「みそ」の面影はありません。そこで、パンを開いてみると……。
パンの中には、とろーりとしたペースト状のみそがたっぷりと塗られていました。それにしても、みそとパンは異色の組み合わせです。一体どんな味がするのでしょうか。
一口食べてみると、意外なことに、甘じょっぱいみそダレが、クセのないシンプルな味のパンとよく合っています! 一般的にみそは塩辛いイメージがあると思いますが、このみそダレは甘みが強め。その上、ねっとりしているので、まるでジャムパンを食べているようです。そして、みその香り高い風味と濃厚なコクが、うまみとして舌を楽しませてくれます。
パンはもっちりしていて、噛みごたえ抜群。その食感は団子を彷彿とさせます。食べる前は異色と感じていた組み合わせでしたが、甘辛いタレと団子がよく合う「みたらし団子」のように、みそパンのみそだれとパンも驚くほどの好相性でした。
◼郷土グルメがモデルだった!?
なかなかお目にかからない取り合わせは、どのように生まれたのでしょうか。フリアンパン洋菓子店の3代目社長、松村知幸さんに聞いてみました。
松村さん「群馬は小麦粉の生産量が多く、みそをベースにした粉もの料理も充実しているんです。例えば、串刺しにしたまんじゅうに甘辛みそを塗り、炭火でじっくり焼き上げた『焼きまんじゅう』が有名ですが、実はこれが、みそパンのルーツなんです。焼きまんじゅうは、沼田では昔からおやつとしてなじみのあるグルメで、『みそまんじゅう』と呼ばれることもあります。似たようなパンを作ったら、きっと地元の人々に受け入れてもらえるのではないかと思い、1963年(昭和43)に初めて作りました」
郷土料理からインスピレーションを受けたというみそパン。パン生地もまんじゅうに近づけるための工夫が施されています。
松村さん「低温で焼くことで、焼き色が抑えられ、まんじゅうのような白い見た目になります。また、ふんわりしっとりと焼き上がるんです。パンにくびれをつけているのは、串刺しのまんじゅうの形に少しでも似せるためです」
たしかに、言われてみると、まんじゅうが2個くっついているように見えます! さらに、みそダレにもこんなこだわりが。
松村さん「地元の焼きまんじゅう屋さんに、どんなみそを使用しているか聞き込みをしました。それを参考に、豊かな甘みのある『赤みそ』と『白みそ』をブレンドして風味を重ね、コクを出しています。ただ、パンの甘みと調和させるため、焼きまんじゅうよりも、塩気を抑え、甘みを立たせています」
松村さん「1ボールを2時間かけてじっくり煮込む作業を1日5〜8回ほど繰り返します。そして、みそダレは別容器に移し、1週間ほど寝かせます。そうすることで、みそが熟成し、さらにコクととろみがアップするんですよ」
こうした創意工夫や手間ひまをかけることで生まれた、焼きまんじゅうのようなパン。お店の期待通り、発売当初から「焼きまんじゅうみたい」と地元民に受け入れられ、じわじわと人気が浸透していったと言います。先代社長が沼田市内の催事などで実演販売をし、PRに力を入れたことも知名度が高まる要因になったそうです。そして、周辺のベーカリーで、「みそパン」の輪が広がるようになりました。
松村さん「沼田市では、弊社のようにみそダレをソフトフランスに塗ったものもあれば、コッペパンに塗ったものも販売されています。みその種類や、砂糖の量、塩加減などによって、それぞれ味には個性があります。お客さまの中には、あちこち食べ比べして、自分好みのみそパン探しを楽しんでいる方もいらっしゃいますよ」
地元ではおなじみの味として親しまれていますが、観光客にとっては未知の味ですよね……。
松村さん「女性2人組のお客さまがいらっしゃったとき、『みそのパン!?』とお互いに目を疑っていました。興味を持たれたようで、みそパンを一つ購入して試食されていました。そして、お気に召されたのか、お土産用として追加で購入いただいたときはうれしかったですね」
こうして県外のお客さんも虜にしているみそパン。東京・銀座にあるぐんま総合情報センター「ぐんまちゃん家」では、1日約60個販売され、売り切れになることが多いそう。「ご愛顧いただいていますが、群馬名物としてはまだまだです」と松村さんは言いますが、ここでは“本家”焼きまんじゅうを凌ぐ一番人気の商品なんだとか。また姉妹品として、「みそバター」も取り扱っているそう。
みそのまろやかさが格段にアップするということで、こちらも人気上昇中。2018年には、このみそバターにちなんだスペシャル商品の開発を予定しています。
松村さん「県内の製乳会社の社長さんに、『弊社の発酵バターとコラボしませんか?』とお誘いいただいたのがきっかけです。群馬を代表するソウルフードとして、牽引できるようなパンに成長させたいですね」
群馬を代表するご当地グルメ・焼きまんじゅうに負けず劣らずの人気を誇るみそパン。群馬に訪れた際は、“本家”とみそパンを食べ比べしてみるのも面白いかもしれませんね。
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店舗情報 ●フリアンパン洋菓子店
ベーカリー&カフェ グリーンフォレスト 郊外1号店
住所:群馬県沼田市高橋場町2081
電話:0278-20-1811
営業時間:9:00〜18:00(年中無休)
公式HP:https://friand.co.jp
※記事中の情報・価格は取材当時のものです。