暮らしのコト

麺は口ほどにものを言う~ご当地ヌードル探訪~

ホクホク食感が楽しい屋台の味 栃木県足利市の「ポテト入り焼きそば」

この「記事」が気に入ったらみんなにシェアしよう!

みんなにシェアしよう!

日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は、栃木県足利市にやってきました。

足利市の駅。駅の中にはこの地方の観光情報やお土産が手に入る「足利観光交流館」があります。

足利市の駅。駅の中にはこの地方の観光情報やお土産が手に入る「足利観光交流館」があります。

実はこの街、ある曲の聖地として知られてます。それは90年代の名曲、森高千里さんの「渡良瀬橋」です。足利市の駅から徒歩7〜8分ほどのところに同名のモデルとなった橋が架かっています。橋の近くにはボタンを押すと歌も流れる石碑も建っていて、観光スポットの一つになっています。

渡良瀬橋の歌碑。橋も歌碑も今回のお店とは反対方向なのでご注意を。

渡良瀬橋の歌碑。ちなみに橋も歌碑も今回のお店とは反対方向なのでご注意を。

そんな見どころもあるこの地には、昔から食べられている「ポテト入り焼きそば」なる麺料理があるといいます。焼きそばにポテト? イマイチしっくりこない、この組み合わせの謎を解きに「焼そばハウス おおぜき」に向かいました。

「焼そばハウス おおぜき」。店の前にポテト入り焼きそばの旗が立てられています。

「焼そばハウス おおぜき」。店の前にポテト入り焼きそばの旗が立てられています。

今回はこの店である人と待ち合わせをしています。

アットホームな店内。

アットホームな店内。

迎えてくれたのは「ポテト入り焼きそばを広める会」会長の長沼幹雄さん。長沼さんはポテト入り焼きそばのソースとして多く使われている「月星ソース」を製造販売する月星食品の社長でもあります。

月星食品の「手造り 焼きそばソース」。家庭で作るならこのソースがおすすめだそうです。

月星食品の「手造り 焼きそばソース」。家庭で作るならこのソースがおすすめだそうです。

早速ですが、ポテト入り焼きそばということはジャガイモが入っているんですよね?

長沼さん「はい、そうです。それがこの地方で食べられる焼きそばの大きな特徴ですね。ジャガイモは、大きさや切り方、蒸してあるもの、揚げたものなど、店によっても様々です」

焼きそばの具でジャガイモというのは珍しいですね!

長沼さん「このあたりは昔、米作農家が多く、休耕の間にジャガイモを作る家も多かったんです。なので身近な食材のジャガイモを屋台で炒めてしょうゆで味付けしたものを、戦前から子どものおやつとして売っていました。そこに当社の初代がソースを持ち込み、ジャガイモのソース炒めが誕生。これは後に『子供洋食』と言われ、人気を博しました。そして戦後、麺の文化が流入したので『子供洋食』に麺を入れてみたところ、これはおいしいと評判になって生まれたのが『ポテト入り焼きそば』だと聞いています」

つまり、最初に焼きそばがあってジャガイモを入れたのではなく、ジャガイモ炒めに麺を入れたのがポテト入り焼きそばの始まりだったのですね。

さて、由来を聞き終えたところで「焼そばハウス おおぜき」のご主人・大関 博さんに、実際に作ってもらいましょう!

大関さん「まずは具材を炒めるところから。ウチは、ジャガイモキャベツ豚肉が入ります。肉が入るので他の店よりイイ焼きそばなんですよ(笑)。具材に火が通ったタイミングで、お湯につけてほぐれやすくした麺を投入します」

鉄板の上で具材が踊ります。

鉄板の上で具材が踊ります。

大関さん「麺を軽く炒めたら、スープを入れます

水ではなくスープなんですね。しかも、かなりの量を入れるんですね!

スープを入れると鉄板の上は蒸気で真っ白に。

スープを入れると鉄板の上は蒸気で真っ白に。

大関さん「この辺では『肉汁』なんて言われたりもしますが、ウチでは鶏ガラベースのスープを使っています。このスープを麺に吸わせていくんです。炒めるというよりか、『ゆでる』と『蒸す』の中間のような感じですね」

こうしてたっぷりのスープを麺にしみ込ませることで、うま味が増すのだそうです。

大関さん「麺がスープを吸い込んだら、ソースを入れます。あとは、少し焼き付けて全体をなじませたら完成です」

立ち上る香ばしい香りに食欲のブレーキが壊れそうです。

立ち上る香ばしい香りに食欲のブレーキが壊れそうです。

これが足利市周辺で愛され続ける「ポテト入り焼きそば」です!

「焼そばハウス おおぜき」の「肉ポテト焼きそば」。

「焼そばハウス おおぜき」の「肉ポテト焼きそば」。

立ち上る香ばしいソースと多めに振られた青のりの香りが合わさり、食欲を猛烈に刺激します! まずはジャガイモだけいただいてみましょう。ホクホクの食感に少し焦げたソースの風味が重なり、思わず笑みがこぼれてしまいます。

続いて麺をいただきます。麺は中細で一般的な太さです。食感はスープで煮込むように作っているのでしっとり柔らか。一般的に焼きそばの麺はソースで味を付けるだけですが、この一品はソースの香ばしさに加えて、鶏ガラスープのうま味とコクがしっかりと麺にしみ込み、奥深い味に仕上がっています

しっかりとした味付けなので、ご飯との相性がいいそう。男性のお客さんは定食のようにして食べる人も多いとか。

しっかりとした味付けなので、ご飯との相性がいいそう。男性のお客さんは定食のようにして食べる人も多いとか。

麺のもちもち、イモのホクホク、そしてキャベツ、豚肉とさまざまな食感も加わり、もう箸が止まりません。予想以上のおいしさに、ほとんど一気に完食。ジャガイモが入っているので、普通盛りでもかなりの満足感が得られました。

「焼そばハウス おおぜき」のご主人と奥さま。体が動く限り、昔懐かしい味を守っていきたいと笑顔で語ってくれました。

「焼そばハウス おおぜき」のご主人と奥さま。体が動く限り、昔懐かしい味を守っていきたいと笑顔で語ってくれました。

■屋台から始まった地元の味

ポテト入り焼きそばを提供する店は、市内だけで20店舗以上あります。

取扱店が一目でわかるマップも配布されています。

取扱店が一目でわかるマップも配布されています。

長沼さん「今でこそお店になっていますが、当初はみな屋台でした。戦後は物が潤沢にあるわけではなく、入れ物は新聞紙を三角形に折ったもの、箸もトコロテンのように一本ですくって食べていたそうです。そのころから長く地元で愛され続け、今ではご当地グルメとして各地からお客さんが来るまでになりました」

長い歴史の中で、愛され育ってきたポテト入り焼きそば。お店ごとにかなり違いがあるそうで、肉が入るもの、ジャガイモだけのもの、目玉焼きがのるものなどバリエーション豊か。特に個性が現れるのは「ソース」だといいます。

長沼さん「みなさんソースをブレンドして、独自の味を作り出しています。甘めなお店からスパイシーな店までお店の数だけ味がありますよ。地元の人はそれぞれお気に入りのお店を持っていて、基本的にそこに通う方が多いみたいですね。でも観光で来ていただいた方は、ぜひ食べ歩きで違いを味わってほしいです」

同じ店でもトッピングでガラリと味が変化。ねぎマヨネーズを追加すると、まるで別メニューに。

同じ店でもトッピングでガラリと味が変化。ねぎマヨネーズを追加すると、まるで別メニューに。

もう一つ、気になるのがお値段。並盛り380円って安すぎませんか? 都市部では見たことないお値段なんですけど……。

「焼そばハウス おおぜき」のメニュー。その安さに驚かされます。

「焼そばハウス おおぜき」のメニュー。その安さに驚かされます。

長沼さん「屋台からの名残ですね。今とお金の価値が違うので正確には比べられませんが、昔は5円、10円で食べられていたものなので、値段を抑えてやっているんです300円〜400円くらいが多いのですが、中には220円というお店もあります」

それは安い! 食べ歩いてもお財布に優しいです。そうしてメニューを眺めているうちに、いまさらながら疑問が浮かんできました。なぜ「ジャガイモ入り」ではなく「ポテト入り」なんでしょうか?

長沼さん「これも屋台からの名残なんです。『子供洋食』もそうなんですが、戦後は海外の食文化が多く入ってきて、洋食が注目されました。そこで、ジャガイモのソース炒めがよりみなさんに親しまれるように『洋食』とつけたと。同じように焼きそばのジャガイモに『ポテト』と横文字の響きをもたせることで、ハイカラな食べ物として人気が出るようにという思いが込められているそうです」

戦後から地元で愛され、試行錯誤しながら成長し続けてきたポテト入り焼きそば。その味は、どこか懐かしさを感じさせてくれます。足利市は歴史や文化にまつわる観光スポットはもちろん、藤の名所があることでも有名な街。GWの予定がまだ決まっていない人は、ぜひ小銭を手にして街を練り歩き、様々な味のポテト焼きそばの食べ歩きを愉しんでみてはいかが?

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

この「記事」が気に入ったら
みんなにシェアしよう!

MATOME