「猫との暮らしが夢だったんです!」と、若いご夫婦は勢いよくおっしゃいました。里親の面談で、ご希望の動機を聞き始めた時のことです。
猫の保護団体開始からから8年ほど。今では月約60頭・年間700頭以上の猫達を、新しいご家庭に迎えていただいています。
人が伴侶動物との暮らしを望む理由はそれぞれですが、「住まいが変わって飼える環境になったので」という方が、やはり意外と多いものです。飼育経験のある方は、前に一緒に暮らした子達との生活を思い浮かべて用意すると思いますが、ビギナーさんはTVや雑誌、ネットなどの情報や友人宅などで見た猫の様子を想像します。
先の若いご夫婦は、戸建ての新居を購入されたようでした。「小さいんですけど庭がついていて」「昔からの夢だったんです、芝生で猫と遊ぶのが」「お庭の周りは脱走防止が出来てますか?」「ええ、もちろん! 1・5mもある柵をぐるっと…」。
猫と暮らした経験のある方はお分かりかと思いますが、彼らはその気になれば人間以上の高さを軽~く飛び越えます。いろいろ実例をお話ししたら、ご本人達もびっくりされたようで「よく考えて来ます」と、ちょっと肩を落としてその日はそのままお帰りになり ました。
シェルターで暮らしているのは一度辛い目にあった猫達です。新しいご家庭で長く安全に幸せな生活を送ってほしいと、私どもも里親希望様も考えての“双方保留”でした。そして、その後こちらのご夫婦は「庭を鳥よけの網で全部カバーしました!」と再度お越しいただき、猫との生活を実現されました。
私の子供時代の猫達は、外から開けっ放しの家の中に入って来て、ご飯を食べたらまた外に行く…という光景が一般的でした。いわゆる「外飼い」です。動物タンパクをエネルギーにしている猫達に「みそ汁ぶっかけご飯」や「おかかご飯」をあげていた時代。それなりに寿命も短く、それゆえ過剰繁殖の問題も少なかったように覚えています。しかし、ふらっと外にいくその気ままさは「自由」ではあったでしょうが、最後は過酷な終わり方をしていたでしょう。
その時代に比べると今、「猫との暮らし方の常識」は、都市部とそうでない場所では温度差があるものの、全体的には「可能なら完全室内飼い」になって来ています。猫は3歳くらいの知能だといわれていますが、身体能力はオリンピック選手なみと考えてくださ い。そんなスーパーチャイルドと安全に末永く暮らすためには、住まいに「逃走防止手段」や「事故防止手段」が必要です。“猫仕様”というと、キャットステップやキャットウォーク、くぐり戸などを楽しく想像される方も多いと思いますが、まずは安全に暮らせる事が第一。玄関から脱走、窓から脱走、ベランダから…を防止します。
外には危険が一杯。迷子になって近隣の方のご迷惑にならないようにという意味合いでも、「いまどきの猫は完全室内飼い」「安全第一」と動物愛護相談センターの方と普及に努める訳です。
また、私どもは里親探しだけでなく「猫付きマンション」「猫付きシェアハ ウス」の企画も始めています。面談応募には様々な動機の方がお見えになりますが、「出来れば小さい時から」「2頭目なので先住猫のストレスを考慮して」と、子猫に人気が集まりがちです。大人の猫の行き場も探っていますが、そんな中で出て来た企画でした。
「猫付きマンション」は2010年に開始しました。猫の飼育OKの大家さんと、猫の預かりボランティアをしてくださる住人と、猫の行き場を探している保護団体とのコラボです。現在 約80頭がお世話になっています。
「猫付きシェアハウス」は14年に開始。戸建てのオーナーさんと契約して、猫達の住まいとシェアハウスのミックスを行ないました。コンセプトは「保護猫カフェに住んでいるようなシェアハウス」です。運営・管理のノウハウ提供と動物医療の提供を私どもが担当します。現在までに6棟、この秋に大阪にも1棟お目見えします。20数頭の猫達がご家庭のような環境で住人の方のお世話を受けて暮らしています。
伴侶動物と住む住居は、まだまだ改良の余地があります。私どもも勉強の毎日ですが、大家さんや業界の方はぜひお気軽にご相談に来ていただけると嬉しいです。一緒に人と動物、工夫しながら暮らして行く道を探りましょう。
NPO 法人 東京キャットガーディアン代表
山本 葉子
1960年生まれ、東京出身。2008年4月、それまで自宅でシェルターを運営していたが、任意団体として猫の保護・譲渡活動を始める。国内最大級の「保護猫カフェ」の運営や「猫付きマンション」「猫付きシェアハウス」などの多彩な企画で8年間で約5,000頭譲渡の実績をあげる。NPO法人初の「ペット保険代理店」、高齢者のペット問題に取り組む「ねこのゆめ」、24時間年中無休の「ねこねこ110番」の運営など、「足りないのは愛情ではなくシステム」を掲げて活動中。