暮らしのコト

麺は口ほどにものを言う~ご当地ヌードル探訪~

鳥取に広がるB級麺カルチャー「鳥取牛骨ラーメン」

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日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回ご紹介するのは、鳥取県の「鳥取牛骨ラーメン」です。

この「鳥取牛骨ラーメン」、もともとは半世紀以上の歴史を持つ県民食ですが、全国にその名が知られるようになったのは、ここ数年のこと。なぜ、長きにわたって未開の食べ物のままだったのか? 詳しい事情を、「鳥取牛骨ラーメン」の普及に務める「鳥取牛骨ラーメン応麺団」の米田良順さんにお聞きしました。

米田さんまず、『牛骨ラーメン』の特徴は、その名の通り牛骨からダシを取っていること。これは鳥取が畜産業がさかんであり、特に大山と呼ばれる地域のふもとはかつて西日本最大級の牛馬市で、牛肉が手に入りやすかったことが理由です。どのお店も豚骨や鶏ガラなどではなく、牛骨を使うのがベーシックでした。だから、主に鳥取県旧西部で『ラーメン』といえば、なにはなくとも『牛骨ラーメン』なんです

これが最もオーソドックスな「牛骨ラーメン」。

これが最もオーソドックスな「牛骨ラーメン」。

つまり、地元の人にとってあまりにも当たり前の存在だっただけに、「他県にないもの」なんて誰も思ってもみなかったということ。それに、かつてはラーメン専門店というもの自体が少なく、定食屋やレストランのいちメニューに過ぎなかったといいます。

そんな「牛骨ラーメン」が、あるきっかけで一気に知られるようになります。

米田さん「他にはない個性的なご当地グルメなのに、県外の人にはほとんど知られていない。だから、私たち『応麺団』が鳥取の『ラーメン』を『鳥取牛骨ラーメン』と名付け、地道にPR活動を進めたんです。それが、2009年のこと。その後、全国放送のテレビ番組に取り上げられる機会があって、一気に知名度が上がりましたね

現在、確認できるだけで、「牛骨ラーメン」を出す店は約70軒。ベースに牛骨を使っていることを除いては、お店によってまったくアプローチが異なると米田さんはいいます。それこそ、しょう油牛骨から塩牛骨、牛骨ちゃんぽんまで、バリエーションはいろいろ。これは、一度食べてみなけりゃ分からない! 鳥取まで飛んで、実際に味わってきました。

■あまりの人気に渋滞多発? 代表格の「香味徳」へ

行ってきたのは、米田さんにオススメしてもらった、東伯郡琴浦町の「香味徳 赤碕店」(かみとく あかさきてん)。1949年創業の「牛骨ラーメン」最古参のお店の1つで、ブームに火が付いて以降、地元ではあまりの人気ぶりに、国道沿いに「香味徳渋滞」なるものができることも珍しくないそう。「牛骨ラーメン」を代表する行列店の味。いやおうなく期待が高まります!

一見、大衆料理店のようで、ラーメン店には見えません。

一見、大衆料理店のようで、ラーメン店には見えません。

案内してくれたのは、2代目の紙徳武男さん。店名の「香味徳」は、名字の「紙徳」をもじって付けられているそうです。

紙徳武男は御年75歳。「体が動く限りラーメンを作り続けたい」と語る。

紙徳武男は御年75歳。「体が動く限りラーメンを作り続けたい」と語る。

紙徳さん「親爺の代からやっててね。うちはもともと定食屋で、『牛骨ラーメン』を出し始めたのは、私が中学生くらいの頃だったかなあ。当時は牛骨がタダで手に入ったんですよ。鶏や豚に比べてダシが長いこと出るから、毎日まる1日じっくり煮込んで、スープを作っています。さっそく、食べてみてくださいよ」

「香味徳」の「牛骨ラーメン」は、オーソドックスなしょう油味。

「香味徳」の「牛骨ラーメン」は、オーソドックスなしょう油味。

おお……! なんと透き通るように輝くスープ。牛と聞いてこってりしたイメージを想像していましたが、予想を裏切られました。味は果たして……?

いざスープをすすってみると、ステーキを食べたときに感じるような、牛独特の甘みがトロンと舌に広がります。そして甘みが抜けた瞬間、しょう油の味がやさしくじんわりと広がって、後味はとてもアッサリ!

そして麺。中太のちぢれ麺は輝くスープを纏って、美しくキラキラと。スープのインパクトに負けないしっかりとしたコシで、とても食べごたえがあります。その他の具は、チャーシューとメンマ、ネギ、輪切りの固ゆで卵のみ。飾らないシンプルな見た目ですが、この1杯のいかに完成度の高いことか!

牛骨ダシが絡み合った麺。

牛骨ダシが絡み合った麺。

紙徳さん「基本は牛骨の味。しょう油はあくまでこの味に深みを持たせるためのもので、地元産の薄口です。自家製の井戸水を使っているのも、おいしさの秘訣ですね

牛骨。味の決め手になるのは、ゲンコツの部分だそう。

牛骨。味の決め手になるのは、ゲンコツの部分だそう。

値段も並1杯550円と非常にリーズナブル。脂っこさが気になる女性にもオススメしたい1杯です。そしてこの「香味徳」さん、三男が東京・銀座、次男がなんとハワイに出店し、「牛骨ラーメン」を広めるのにひと役買っているのです。

紙徳さん「息子たちも自分たちなりに研究して、私のものとはまた違った『牛骨ラーメン』を出しています。私の味も息子たちの味も含めて、ぜひとも『香味徳』の世界を感じてもらいたいですね」

■「牛骨ラーメン」はカルチャーだ!

鳥取県民にとっての「ラーメン」だった「牛骨ラーメン」は、いまや世界に飛び出しています。この現状を見て、先に登場した米田さんは、「『牛骨ラーメン』はカルチャーだ!」と語ります。

米田さん「店主たちも世代交代が進んでいて、『香味徳』さんのように昔ながらの味を守るところもあれば、豚骨や魚介を取り入れるなど、現代風に進化させようと頑張っている人もいます。『牛骨ラーメン』は一過性のブームではなく、鳥取で脈々と受け継がれてきた歴史そのもの。これまでは少なかった旧西部以外にもお店が増えていますし、今後どうなっていくのかにも、ぜひ注目してもらいたいですね」

では、そんな「牛骨ラーメン」を楽しみ尽くすコツは?

米田さん本当に『牛骨ラーメン』を知ろうと思うなら、最低3軒は食べ歩いてみてください。そうすると、その奥深さに気づくはず。私が調べた限り、国道沿いは比較的新しいお店が多いです。もちろんその中にもいいお店はたくさんありますが、本当の名店を探すなら、どんどん鳥取を分け入っていく必要があります。定食屋からレストランまで、絶対にラーメンを出していなさそうな店にもありますから、『まさか!』という場所に、思いがけない名店と出会うチャンスがありますよ! そして食の旅を通じて、鳥取の魅力を再発見してください」

この立て旗がおいしい「牛骨ラーメン」店の目印。

この立て旗がおいしい「牛骨ラーメン」店の目印。

■取材協力
鳥取牛骨ラーメン応麺団
http://gyukotsu.net/index.html

  • 店舗情報
    ●香味徳 赤碕店
    住所:鳥取県東伯郡琴浦町赤碕1979
    電話:0858-55-0003
    営業時間:11:00〜21:00(LO20:30、月曜休[祝日の場合は火曜休])

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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