暮らしのコト

麺は口ほどにものを言う~ご当地ヌードル探訪~

漁師町に伝わる“即席”うどん!? 大分県佐伯市の「ごまだしうどん」

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日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は大分県佐伯市にやってきました。ここは、大分県南東部に位置する漁師町。県内でもとりわけ水産業が盛んなエリアで、海岸線には複雑なリアス式海岸の景色が続き、栄養豊富な海水に育まれた上質な魚介が毎日水揚げされています。映画「釣りバカ日誌19」のロケ地になった場所でもあります。
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港では朝早くから漁師たちが船を出しています。

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早朝の市場には水揚げされたばかりの新鮮な魚介がずらり。

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魚市場周辺には佐伯湾の景色が広がります。

そんな佐伯でおなじみの家庭料理が「ごまだしうどん」。漫画「美味しんぼ」で紹介されたり、農林水産省の「農山漁村の郷土料理百選」に選ばれたりと、佐伯ならではの味として注目されています。今回は、創業22年目を迎える「味愉嬉食堂」で地元でも評判のごまだしうどんを味わってきました!

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JR佐伯駅より大分バス大手前方面行きに乗り、中央通り1丁目で下車。徒歩すぐです。

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地元民も足繁く通うアットホームな雰囲気のお店。

迎えてくれたのは店主の磯貝直利さんです。

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母・みゆきさん(左)と二人三脚で営んでいます。

それでは早速、ごまだしうどんを注文してみましょう!

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これが「ごまだしうどん」。一見、ごくふつうのうどんのようですが…。

うどんの器の隣には、みそのようなものがたっぷりと置かれています。薬味として使うにはあまりにも多すぎる量。食べ方がわからず、戸惑っていると…

磯貝さん「よくみそに間違われるんですが、これが『ごまだし』です。うどんの湯に溶かして召し上がってください。量はお好みで調整してくださいね」

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さじ1杯分ほどのごまだしを投入し、はしで溶かしていきます。

かすかに魚介の香りのする汁にごまだしを入れた途端、ふわりと香ばしいごまの香りが漂い始めました! 麺をすすると、つるりとした喉越しとともに、やさしいごまの風味と魚介の奥深いうまみが広がります。しっかりとコクがあり、ほのかに魚介の油のようなまろやかさも感じます。

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溶けたごまだしが中太麺にほどよくからみます。

磯貝さん「ごまだしは、エソという魚のすり身とごま、しょうゆで作った調味料です。エソは佐伯の近海でよく捕れる白身魚。タイよりも淡泊かつ上品な味わいで、キスに近いですね。いいだしがとれるので、昔はかまぼこの原料として使われていました。また、うちでは隠し味として、うどんを湯がく時に焼いたエソの皮をお湯に入れています。すると、皮からうまみたっぷりの油が出て、やさしい味わいになるんですよ」

エソの旨みが楽しめる佐伯ならではの味ですね。
さらに、味愉嬉食堂ならではのごまだしうどんの楽しみ方があるそうですが……。

磯貝さん「うちではつけ麺風の食べ方もおすすめしています。別の器にごまだしを入れ、そこにうどんの汁を少量加えて溶かします。これでつけだれの完成です。かぼすごしょう、かぼすの絞り汁を好みで加えて、味の変化を楽しんでください」

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ごまだしうどんを注文すると、かぼすごしょう、かぼすの絞り汁がついてきます。

つけだれで頂いてみると、スタンダードな食べ方に比べてごまだしの味がより前面に出てきて、魚介のうまみがぐっと濃くなったような味わいになりました! かぼすごしょうを添えると、爽やかな香りとピリッとした風味がプラス。フルーティなかぼす果汁を加えれば、コクのあるごまだしがすっきりとした味わいになり、麺がどんどん進みます。さらにお腹に余裕があれば、残った汁にご飯(注文別)を加えてお茶漬けのようにして食べるのもおすすめなのだとか。

普段、ごまだしの製造は機械で行うそうですが、今回は特別にすり鉢を使った昔ながらの製法で実際に作って見せていただきました。

磯貝さん「エソのうろこ・頭・内臓をとり、2枚におろして焼いたら、皮と骨を取り除いてすり身にします。次にごまを炒ってすり鉢ですり、練りごまにしたものとすり身を合わせていきます」

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骨を取り除いたエソのすり身と練りごまをすり鉢でしっかり混ぜ合わせます。

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しょうゆを少しずつ加えてなじませたら、鍋に移して火にかけ、餡を練るように混ぜます。

火にかけることで、ごまの香りが和らぎ、水分が飛んで粘り気が出るのだそう。これを1日置けば、しょうゆがさらになじんで味が安定し、ごまだしの出来上がり! あとは麺とお湯さえあれば、簡単にごまだしうどんが作れます。

スタンダードなごまだしうどんの食べ方に始まり、薬味を加えたつけ麺風の食べ方、締めはお茶漬け。味愉嬉食堂のごまだしうどんは、まるでひつまぶしのように味の変化を堪能し、最後の一滴まで楽しめる1杯でした。

■始まりは漁師のまかない料理!?

地元の味として親しまれるごまだしうどん。誕生の経緯を聞いてみましょう。

磯貝さん「もともとは漁師のまかない料理だったと言われています。漁師の奥さんたちがごまだしを作り、漁から帰ってきた漁師たちに温かい食べ物をと、うどんに入れて振る舞っていたそうです。いいだしの出るエソで作るごまだしは、漁師たちにとってごちそうでした。うどん、湯、ごまだしさえあればできる手軽さから定着したと考えられています。正確なことはわかりませんが、昭和以前から食べられていたようですね」

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これがエソ。地元ではスーパーでも手に入れることができます。

漁師のまかない料理からスタートし、今では家庭料理として定着。地元の祭りやバザーでは、ごまだしうどんの提供が定番となっています。さらに、スーパーや土産物屋では瓶詰めのごまだしが販売されており、地元の人はうどんの麺と一緒にごまだしを買う人も多いのだそう。また、自家製のごまだしを作る家庭も多く、みそや砂糖を加えたり、別の魚を使ったりと、それぞれの家庭の味が存在するようです。

磯貝さん「うちではオープン当初からごまだしうどんを地元の食べ物としてメニューに加えていました。その際、地域のおかみさんたちに作り方を教わり、現在の製法に辿り着いています。ごまだしの歴史や作り方は文献では残っておらず、聞き語りで伝わってきた郷土料理なんです」

あらゆるレシピがある中で、味愉嬉食堂ではエソ、ごま、しょうゆの伝統的な3つの素材でごまだしを作り続けています。

磯貝さん「小学校では食育としてうちのごまだしが給食に出たり、授業の一環でごまだし作りのワークショップを開催したこともあります。若い世代に郷土の本物の味を知ってもらって、次の担い手をつくっていくことも僕たちの役割だと思っています。佐伯の伝統の味を地元の方はもちろん、観光客の方にも伝えて"大分といえばごまだしうどん"と言われるくらいに成長させていきたいですね」

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瓶詰めされた味愉嬉食堂のごまだしはお土産としても人気。

佐伯市では、2016年に「ご当地グルメでまちおこしの祭典!B1グランプリ」を誘致して開催するなど、ごまだしうどんによる地域のPRにまちぐるみで取り組んでいます。市内にはごまだしうどんを提供する店が17店ほどあり、それぞれの店の味を楽しむことができます。佐伯市観光案内所では食べ歩きマップも配布されており、食べ歩きで味比べするのもおすすめ。また、味愉嬉食堂をはじめ、多くの店でごまだしを販売しているので、自宅で漁師町の味を再現すれば、旅の思い出話にも花が咲きそうです。

  • 店舗情報
    ● 味愉嬉食堂
    住所:大分県佐伯市中村南町7-25
    電話:0972-23-7240
    営業時間:11:00~22:00(火休)
    http://www.gomadashi.com/index.html

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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