街のコト

火祭り・芋くらべ・ヨッカブイ…奇妙奇天烈な夏の奇祭

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日本全国に数多ある、地域独特の風習や文化の数々。それらが色濃く残っている行事の1つが祭りです。中でも地域のユニークな祭りは「奇祭」(きさい)とも呼ばれ、まさに奇妙奇天烈な内容でインパクトが大きいものばかり。at home VOXでは、1月に冬編(ユニーク! 笑える! 怖い! この冬行きたい日本の「奇祭」)、そして4月に春編(北は東北、南は九州まで この春に注目したい日本の奇祭)をお届けしてきました。

そして今回は「夏編」として、奇祭を求めて全国を訪ね歩いているライター・杉岡幸徳さんに、8〜9月に行われる奇祭をピックアップしてもらいました!

■富士山麓が火の海と化す? 「日本三大奇祭」の1つ

●吉田の火祭り
山梨県富士吉田市 北口本宮冨士浅間神社・諏訪神社/毎年8月26〜27日開催
ひまつり

杉岡さん富士山麓が火の海と化すお祭りです。火の粉が飛び煤煙が流れ、おそろしく熱い! 見終わると汗だくで、頭は灰でパリパリになりました」

話を聞いているだけで熱そうなこの祭り。参道を下った御輿が御旅所(おたびじょ=御輿を仮に奉安する場所)に着くや、高さ3メートルにもなる大松明約70本、さらに近隣の民家によって組まれた松明が一斉に点火され、街一帯がメラメラと火に包まれます。

富士山の「山じまい」の合図でもあり、この祭りが終わると、富士山は夏を終えて秋を迎えます。松明の消し炭はオキと呼ばれ、火除けのまじないになることから持ち帰る人もいるとか。

■思わず首をかしげたくなる! ヘンな奇祭

●芋くらべ祭り
滋賀県蒲生郡日野町 熊野神社/毎年9月1日開催

若者たちが支えている孟宗竹に、芋がぶら下げられています。

若者たちが支えている孟宗竹に、芋がぶら下げられています。

芋くらべ祭りは、中山という集落が東西に分かれ、朝に掘ってきた里芋の長さを競い合う祭り

杉岡さん「西が勝てばその年は豊作、東が勝てば凶作ということになります。まさに、集落の運命が決まる一大行事なんです」

芋の長さに村の存亡をかけるとは、なんとも変わった祭り! しかも、ただ長さを比べるだけと甘く見るべからず。裃(かみしも)姿の若者たちが踊り狂いながら、何度も何度も芋を測り合うのです。祭りは真夜中まで続くことも。

杉岡さん「『神事だから慎重にやろうやないか!』ということです。かつては勝った側に、水利権や山の入会権などの経済的特権が与えられたのだとか。だからどちらも、本気で勝ちに来るんです。昔は事前に相手側の芋を襲撃して折ってしまうという事件も起こったそうですよ

芋に村の未来がかかった戦い。見ている人には奇妙に思えても、住民にとっては真剣そのものなのです。

●筑波山ガマまつり
茨城県つくば市筑波山/2015年は9月13日開催
がま

ガマガエルの分泌液で作られた薬、「ガマの油」。現在でこそ本物のガマガエルは使われていませんが、このガマの油を生み出したといわれる光誉上人の供養と、商売繁盛を祈願する祭りとして始まったのがガマまつりです。

杉岡さん「ガマの油が地元の名物である筑波に、『ガマの油売り』が大挙集結し、技を競いあう祭りです。口上を述べたり、刀で自分の腕を切ってガマの油で血を止めたりするなど、さまざまな芸で観客を楽しませてくれます」

今年で67回目となるこの祭りのハイライトは、参加者たちがカエルのかぶり物を被り、筑波山の門前通りを一気に駆け上がる『ガマレース』です。その年の『ガマキング』の称号を得た人は、1年間ガマの恩恵を受けられる…とのこと。

■河童が子どもを襲う? 恐怖の奇祭

●ヨッカブイ
鹿児島県南さつま市金峰町 玉手神社/毎年8月22日開催
よっかぶい

町の大人たちが、棕櫚(しゅろ)の皮をかぶり、綿を抜いた布団を身につけた「ヨッカブイ」と呼ばれる異様な姿に扮し、集落を徘徊する祭り。300年の歴史を誇る行事で、ヨッカブイは子どもを見つけると、手に持った「かます」という大袋の中に入れてしまいます。

杉岡さん杉岡さん「ヨッカブイは泣き叫ぶ子どもたちに向かって、『ちゃんと先生と親のいうことを聞くんだぞ!』などといって脅すんです」

返事をした子どもを袋から解放するやいなや、すぐに別の子どもを追いかけ回します。怖っ!

杉岡さん「ヨッカブイは大ガラッパとも呼ばれていて、実は河童なんです。河童が悪さをして人間を川に引きずり込むという伝承がありますよね? この祭りは、人間が水難事故に遭わないよう、子どもを怖がらせて集落のルールをたたき込むのが目的なんです」

祭りのメインイベントは、子どもたちとヨッカブイによって行われる相撲。取り組みで子どもたちに花を持たせたあと、ヨッカブイたちは土俵を取り囲み、踊り始めます。水難事故から命を守ってくれる水神を祀っているのです。

■安産祈願に成長祈願。子どものための祭り

●面掛行列
神奈川県鎌倉市 御霊神社/毎年9月18日開催
おめん

もともとは日本三大八幡宮として知られる、鶴岡八幡宮の祭事だったとされる祭り。女性たちが仮面を被っておかめさんとなり、街中を練り歩きます。

杉岡さん「一説によると、源頼朝が身分の低い娘を身ごもらせったという出来事に由来があるといわれています。彼女は低い身分であったため、年に一度だけ、仮面をかぶって頼朝と町を練り歩くようになったのだとか」

身分の違いを越え、仮面をしてまで会おうとした娘と頼朝。決して許されない行いだったと思いますが、このエピソードからは、思わず2人の愛の深さを感じます。祭り中、おかめさんのお腹をなでると、安産のご利益があるそうです。

●泣き相撲
栃木県鹿沼市樅山町 生子神社/9月19日以降の最初の日曜日に開催
なきずもう

安産子育ての守護神を祭神とする生子神社(いきこじんじゃ)で、毎年、子どもの健やかな成長を祈願して開催されている祭り。幼児を抱きかかえた2人の氏子が、力士に扮して土俵で二手に分かれ、掛け声とともに幼児を頭上高くに3回持ち上げて取り組ませます。

杉岡さん「はたから見れば、大人同士が無理矢理赤ちゃんを代理に立て、にらめっこさせて勝敗を決めているように見えます(笑)。会場はとにかく、親御さんたちの異様な熱気に包まれています

「泣く子は育つ」という言い伝えにちなんで、かつては泣いた方が勝ちとされていました。現在では両方とも勝ちになります。

商売繁盛に安産子育て、水難除け。執り行われる行事こそ摩訶不思議ですが、それも暮らしの平穏無事を願うゆえに現在のような形になったのでしょう。奇祭、バンザイ!

取材協力
杉岡幸徳
http://www.sugikoto.com/

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