暮らしのコト

麺は口ほどにものを言う~ご当地ヌードル探訪~

“そば湯”で味わう出雲そば !  島根県出雲市の「釜揚げそば」

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日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は島根県出雲市にやってきました。ここは、縁結びの神様として有名な出雲大社のある街。年間200万人を超える参拝客が全国各地から訪れます。
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出雲大社の入り口。鳥居の向こう側が神域です。

この出雲市に古くから伝わるのが「出雲そば」。岩手県のわんこそば、長野県の戸隠そばと並ぶ“日本三大そば”の1つです。出雲そばの食べ方としてポピュラーなのは、3段の丸い器にそばを盛り、直接つゆをかけて食べる「割子そば」ですが、実はもう1つ、長年受け継がれてきた食べ方があるのです。それが「釜揚げそば」。その歴史は、割子そばよりも古いといわれています。今回は、江戸時代から続く出雲そばの名店「羽根屋本店」で歴史ある味わいを確かめてきました!

羽根屋本店は創業200年以上の老舗そば屋。大正天皇にそばを献上し、その味を高く評価されたことから「献上そば」の屋号をもち、伝統の味を守り続けています。

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出雲市駅より徒歩10分ほど。創業時から同じ場所で営んでいます。

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店内はテーブル席が20席、奥の座敷席も合わせて全80席ほどが連日満席になる人気店です。

案内してくれたのは取締役の石原健太郎さんです。

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22歳の時から12代目として本格的に修行をはじめ、今年で12年目になる石原さん。

それでは早速、釜揚げそばを注文してみましょう!

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これが「釜揚げそば」。少し黒っぽい色合いの麺です。

出てきた器に入っていたのは、たっぷりのそばとつゆ…ではなく、ほんのりと白く濁ったお湯…? どのように食べるのでしょうか。

石原さん「器に入っているのはそば湯です。釜揚げそばは、湯がいたそばを水洗いせず、そのまま器に入れてそば湯を注ぎ、お客さまにお出しするんです。食べる時は、薬味を加えてつゆを入れ、少しずつ味を調整していくのですが、まずは何も加えずにそば本来の味わいを楽しんでみてください」

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器に顔を寄せると、立ち上る湯気とともにそばのふくよかな香りに包まれます。

口に含むと、そばの豊かな風味がふわっと広がり、鼻に抜けていきます。麺は少しざらついた歯触りで、かむほどにそば粉の滋味あふれる味わいが感じられます。しっかりとコシがあり喉越しもよく、するりと喉を滑り落ちたあとも口の中には芳醇(ほうじゅん)な余韻が広がります。そば好きにはたまらない逸品です!

石原さん「そばの香りと味わいが素晴らしいでしょう。出雲そばは、ひきぐるみと言って収穫したそばの実を黒い殻ごとひいて粉にします。だからこそ、野趣に富んだ味わいになるんですよ。うちでは出雲のそば粉をメインに使い、他県のそば粉を2種類ほどブレンドしています。この麺をそば湯ごと食べることでそばの風味がいっそう増すんです」

そば本来の味わいを十分に堪能したところで、次はつゆと薬味を加えて味わってみましょう。

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薬味はかつお節、のり、ねぎ、もみじおろしの4種。

薬味を加えると、そばの香りと一緒にかつお節、のり、ねぎの香りが立ちのぼり始め、さらに食欲を掻き立てられます。つゆをかけると、だしとしょうゆの香りも加わり、思わずつばを飲みました…! たまらず、薬味とつゆをそばにしっかりと絡めて一気にすすります。うま味が凝縮されただしの奥深い味、そばの風味がそれぞれに引き立て合い、もみじおろしの辛味がアクセントになって舌を楽しませてくれます!

石原さん「うちのだしはかつお節だけで引いているのが特徴です。使用しているのは鹿児島産の本枯れ節。本枯れ節というのは、かつお節菌というカビの一種を人為的に発生させて天日干しを繰り返したもので、上品なうま味とまろやかな香りのだしが引けるんです。そのかつお節を中厚削りにして煮出すことで、濃く深い味わいのだしになります。そこに出雲産のしょうゆ、みりん、酒、きび砂糖などを加えてつゆを作っています」

また、釜揚げ用の麺は少し太めに切ることで食感も楽しめ、つゆも絡みやすくなるのだとか。

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食感の決め手になる麺切りの工程。わずかに太さを変えて、釜揚げ用と割子用に麺を切り分けます。

長年、出雲大社の参拝客に親しまれてきた釜揚げそば。それは、〆に味わうのが一般的なそば湯をあえてそばと一緒にいただくことで、出雲そば本来の風味を格段に楽しむことのできる一杯でした。

■水が貴重だったからこそ生まれた釜揚げそば

出雲に古くから伝わる釜揚げそば。誕生の経緯を教えてください。

石原さん「一説によると、その昔、出雲大社の参道には屋台が立ち並び、参拝客にそばを振る舞っていたそうです。当時は井戸で汲んできた水でそばを湯がいていたので、水はとても貴重でした。そのため、湯がくたびに水を替えたり、今のようにそばを水で洗うことができず、湯がいたままのそばを器に盛っていたのが、釜揚げそばの由来といわれています。時期は定かではありませんが、200〜250年ほど前にはあったのではないかと聞いています」

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出雲大社前の神前通りが現在のメインストリート。休日には大勢の参拝客で賑わっています。

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水が貴重だった時代は、もっと少量のそば湯で味わっていたのだそう。

伝統的な出雲そばの食べ方として、今日まで受け継がれてきた釜揚げそば。出雲といえば、全国的には割子そばが有名ですが、地元ではどちらも同じように愛されています。

石原さん「出雲にはそば屋が数多くありますが、釜揚げそばと割子そばのどちらも提供している店がほどんどです。よりそばの味を楽しめる釜揚げそばは、特に年配の方に評判が良いですね。なかでも釜揚げそばに山芋おろしをかけた『釜揚げ山かけ』がうちでは人気で、よく注文が入ります。また、割子そばを食べていた方でも、釜揚げそばを1度食べるととりこになる方も多いですよ」

江戸時代から現在に至るまで、香り高い出雲そばの味を出雲大社へ訪れる人々に伝えてきた釜揚げそば。出雲参りの際は、釜揚げそばを味わいながら、その歴史に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

  • 店舗情報
    ● 献上そば 羽根屋本店
    住所:島根県出雲市今市町本町549
    電話:0853-21-0058
    営業時間:11:00~15:00、17:00〜20:00(元旦休)
    http://kenjosoba-haneya.com

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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