暮らしのコト

麺は口ほどにものを言う~ご当地ヌードル探訪~

シンプルでどこか懐かしい“青春の味” 滋賀県甲賀市の「スヤキ」

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日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は、滋賀県甲賀市にやってきました。言わずと知れた日本最大の湖、琵琶湖を抱える滋賀県。中でも甲賀市は忍者の街として全国的に有名ですね。この地に、「スヤキ」という非常にシンプルでローカルな麺料理があるそうなのです。

近江鉄道・水口城南駅を降りると、そこはのどかな住宅街。水口は江戸時代には水口城の城下町として、また東海道の50番目の宿場町として栄えた街でした。お店に向かう途中には、復元された水口城が当時を思わせる堂々とした姿でたたずんでいます。

水口城跡に復元された水口城は「水口城資料館」として公開されています。

水口城跡に復元された水口城は「水口城資料館」として公開されています。

城跡から歩いて2〜3分ほどで目的のお店、「谷野食堂」に到着。入り口横にかかる大きな“青春の味”という垂れ幕が気になりつつも、のれんをくぐりいざ入店です。

立派な瓦屋根の谷野食堂。

立派な瓦屋根の谷野食堂。

店内は、昔ながらの食堂といった感じの落ち着ける雰囲気。

店内は、昔ながらの食堂といった感じの落ち着ける雰囲気。

■ほとんど焼くだけのシンプルな麺料理

「いらっしゃい! こんにちは」と温かく迎えてくれたのは、二代目店主の谷野義明さん。こちらに、スヤキという麺料理があると聞いてきたのですが……。

谷野さん「ありますよ。すぐできるので今から作ります」

目当てのメニューと、すぐにご対面できることになりました。作るところも、見せてもらいましょう!

谷野さん「まずはフライパンに少し多めのラードを入れ、火にかけます。温まったら麺を入れます。このときあまり麺には触らず、しっかりと焼き付けるのがポイントですね」

中細の自家製中華麺に、こんがりとした焼き色が付いてきました!

中細の自家製中華麺に、こんがりとした焼き色が付いてきました!

谷野さん「片面が焼けたら、裏返し反対側にも焼き色をつけます。そして、ここで具材を投じます

そう言って谷野さんが投入した具材は、ねぎもやしだけ。他に具材はないのでしょうか?

谷野さんこれだけです。シンプルでしょ? 最後に軽く塩をふって、全体を炒め合わせてできあがり。これがうちの名物メニューのスヤキです」

完成した姿も非常にシンプルな「スヤキ 並」。

完成した姿も非常にシンプルな「スヤキ 並」。

ものの5分ほどで完成したスヤキは、炒めた麺料理には珍しいラーメンどんぶりに入って到着しました。調理中にほとんど味付けをしていなかったように見えましたが……?

谷野さん「実は、スヤキはお客さんに味付けをしてもらう料理なんです。テーブルに置いてあるソースとこしょうをお好みで入れて、よく混ぜて食べてください。ちなみに、器がラーメンどんぶりなのも混ぜやすくするためなんですよ」

焼いて素のままだから“素焼き”というわけですね! でもまずは、スヤキの“素”の味を確かめるため、何も入れずに食べてみます。どんぶりに顔を近づけると、湯気とともにラードの香りが立ち昇ってきました。シンプルゆえにどんな味がするのか、少しだけ心配しながら口に運ぶと、その心配は驚きに変わります。

ところどころに香ばしい焼き色がついています!

ところどころに香ばしい焼き色がついています!

ラードの少し甘めの香りとねぎの風味、そしてもやしのシャキシャキ感! 麺はしっかりと焼き付けられているので、カリッとした食感とモチっとした食感を同時に味わうことができます。そのバランスが一口ごとに違うので、食べていて全く飽きません。

次は、谷野さんにすすめられるままソースとこしょうを投入し、よく混ぜて食べてみることにします

テーブルに備え付けてあるソースやこしょうを好みで入れていきます。

テーブルに備え付けてあるソースやこしょうを好みで入れていきます。

全体に行きわたるようにしっかり混ぜます。

全体に行きわたるようにしっかり混ぜます。

すると、一気にスパイシーな焼きそば風の味に! しかし、フライパンの上でソースと麺を炒め合わせるソース焼きそばとは微妙に違います。しっかり焼かれた麺の味わいを感じられるという特徴はそのままに、ソース風味をまとったという感じです。食べたことはないはずなのに、なぜかとても懐かしい味がします……。

気づけば、どんぶりは空。一気にたいらげてしまいました!

■よみがえる“青春の味”

地元では知らない人のいないという有名店の谷野食堂ですが、本来は製麺所。食堂を開いたのは谷野さんの父にあたる初代だそうです。

谷野さん「製麺所の仕事は朝早くから、だいたい昼前には終わってしまいます。父は、『人間は暇があると金を使ってしまう、それなら働いていた方がいい』と考えていたようで、それが食堂を始めるきっかけになりました」

もちろん製麺所も続けており、黒米を使った黒い「忍者麺」など甲賀らしい夏季限定の商品もあるそう。

もちろん製麺所も続けており、黒米を使った黒い「忍者麺」など甲賀らしい夏季限定の商品もあるそう。

そんな谷野食堂で、なぜスヤキが生まれたのでしょうか?

谷野さん「スヤキが誕生したのは、昭和29年のことです。近くにあった甲賀高校(現在の水口高校)の学生向けに、安くておいしいメニューは作れないだろうかと生み出されたのが、スヤキでした。当初はもやしが入っておらず、炒めた麺とねぎだけの今よりもっとシンプルなものだったようです」

今でも価格は並300円(麺1玉)、大400円(麺2玉)、特大500円(麺3玉)と、学生でも気軽に食べられる安さで提供されています。

谷野さん「父によれば、放課後になるとおなかをすかせた学生が次々に訪れるので、一つ一つ味付けしている時間がなかったそうです。そこで炒めた麺だけを出し、あとの味付けは学生たちにテーブルでやってもらったのが、スヤキの始まりだと聞いています」

常連からはソースやこしょうだけでなく、100円でもらえるスープでつけ麺風にして食べるのも人気だとか。

常連からはソースやこしょうだけでなく、100円でもらえるスープでつけ麺風にして食べるのも人気だとか。

ということは、入り口の横に下がっていた幕の“青春の味”というフレーズも、元々学生向けに作られたことと関係あるのでしょうか?

谷野さん「あれは、お客さんの感想からとった言葉なんです。お客さんのなかには学生の時からずっと通っていただいている方も多く、大人になって奥さまと来られる方、子どもを連れて来られる方もいます。その方たちがスヤキを食べると『懐かしい』『あの頃の思い出がよみがえる』と口々に言ってくださるので、“青春の味”という言葉を使わせてもらっています」

“青春の味”の幕の前で「これからもこの懐かしい味を作り続けます」と笑顔の谷野さん。

“青春の味”の幕の前で「これからもこの懐かしい味を作り続けます」と笑顔の谷野さん。

スヤキには、始めて食べる人にも懐かしさを感じさせる何かがあります。それはスヤキの素朴さや、食堂の親しみやすい雰囲気がもたらす、ノスタルジーかもしれません。

そろそろ夏の旅行シーズンが近づいてきました。見どころのたくさんある滋賀で、琵琶湖観光や比叡山延暦寺の参拝、または甲賀の里で忍者体験をした帰りに、足を伸ばしてみてはいかがでしょう?

  • 店舗情報

    ●谷野食堂(谷野製麺所)
    住所:滋賀県甲賀市水口町城内8-12
    電話:0748-62-2488
    営業時間:11:00~18:30LO(日祝休)

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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