暮らしのコト

麺は口ほどにものを言う~ご当地ヌードル探訪~

太くて長くてご利益もたっぷり! 京都北野の三大名物「一本うどん」

この「記事」が気に入ったらみんなにシェアしよう!

みんなにシェアしよう!

日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は、京都北野で長い歴史を持つ「一本うどん」を紹介します。

北野とは京都市上京区と北区周辺地域のこと。学問の神様、菅原道真を祀る北野天満宮のお膝元です。一本うどんは、ここ北野の地で古くから参拝客に親しまれてきたそう。現在でも、シンプルな名前とは裏腹に一度見たら忘れられないインパクトがあると、観光客に評判らしいのです。at home VOXはその人気に迫るべく、一本うどん発祥の店「たわらや」を訪ねてみました!

■極太、もちもち、一本うどん!

北野天満宮の入り口である一ノ鳥居に背を向けると、大通りの今出川通を挟んで、御前通という細い通りが見えます。たわらやは、この御前通で江戸時代の享保年間(1716~1736年)に創業したと言われています。

お店は築350年~400年という驚きの古さを誇る町屋。

お店は築350年~400年という驚きの古さを誇る町屋。

案内してくれたのは、15代目店主・久保功さんとともに店を支える、女将の久保克子さんです。

克子さん「一本うどんは、創業時からあったみたいです。澤屋の粟餅、長五郎餅と並んで、北野の三大名物と言われているんですよ」

一本うどんと呼ばれている理由は、「見ればわかります」とのこと。さっそく、注文します!

名物「たわらやうどん」(一本うどん)、あらわる!

名物「たわらやうどん」(一本うどん)、あらわる!

器には、見たこともないような極太うどんがとぐろを巻いています。麺を箸で“つかむ”と、立ち上る湯気とともに上品なかつおの香りが鼻の中を抜けていきました。

口を大きく開けて、いざ実食。麺の表面はつるつるで、口の中へ滑らかに吸い込まれていきます。しかし、この太さですから、丸ごと一本を口に含めるわけがありません。途中で噛みちぎりながら食べていきます。見た目も味付も確かにうどんなのですが、食感はまるで柔らかな餅のよう

克子さん「芯までしっかり火を通すために、60分かけてゆでています。うどんの表面が、ざらざらしていないでしょう? 強火で一気にゆでると、こうはいきません。芯まで火が通る前に表面から溶けていってしまいます。弱火でじっくり時間をかけてゆでるから、つるつるのうどんになるわけです」

通常のうどんのゆで時間が10分くらいであることを考えると、何とも常識外れ! しかも、ただお湯に入れておけばいいのではありません。火の通りを均一にするために、ゆで釜のなかで適度にかき回しながら、ゆで上げる必要があります。この1本を作るために、普通のうどんの何倍もの手間暇がかけられているのです

麺の太さは1センチ以上。つまむというより、持ち上げるという感じです。

麺の太さは1センチ以上。つまむというより、持ち上げるという感じです。

こだわりの出汁は、利尻昆布とさばや花がつおなど数種類の魚介をだし取りしたもの。シンプルながら深いコクが楽しめます。唯一の薬味である土しょうがを入れると、どこか温かみのある味わいに。そうして食べ進めるうちに、あることに気づきました。あれ?一本うどんのはずが、二本入っていませんか?

克子さん「昔は1本につながっていたんですけれどね。一本うどんの目方は、普通のうどん1杯分と同じですから、1本だとやっぱり食べにくいみたいで。今は食べやすいよう2本に切っています」

この重量感、1本のまま食べたら確かに苦労しそう。何でも麺を取り落としてつゆを飛び散らせてしまう人が続出したとか。食べる人のことも、しっかり考えられているのですね。

■現代によみがえった一本うどん

たわらやと一本うどんの歴史は、北野天満宮とともにありました。

克子さん「天神様(北野天満宮)の一ノ鳥居は、昔は二ノ鳥居だったんです。一ノ鳥居は下の森(現在の一条通周辺)にあって、この辺りは参道沿いでした。天神詣でのついでに、うどんを食べていってくれたんです。昭和のはじめ頃までは、嵐電・北野線の終着駅も店のすぐそばまで延びていて、たくさんの参拝客が来てくれました

昭和時代の「たわらや」の写真。客はお盆にのせたうどんを、思い思いの場所に座って食べています。

昭和時代の「たわらや」の写真。客はお盆にのせたうどんを、思い思いの場所に座って食べています。

にぎわいを見せるたわらや。しかし、戦争をきっかけに、その歴史に暗雲が立ちこめます。

克子さん戦後の物資不足で、十分な材料が手に入らなくなってしまったんです。天神様の縁日がある毎月25日だけは開けていたんですが、先代が身体を壊してからはそれもやめてしまいました」

こうしてたわらやは、一度は店じまいしたのです。それを15代目店主・久保功さんが再開。店とともに姿を消した一本うどんも、平成8年に復刻させました。よみがえった一本うどんは、かつてと同じように、参拝客から人気を集めています。

克子さん「遠方からお参りに来られた人たちが、よく寄っていってくれます。修学旅行の学生さんたちも多いですね。一本うどんを注文して、みんな残さず食べていってくれます」

繁忙期は広い店内が満席となり、行列もできるそう。一本うどんは開店から1時間ほどで品切れになることもあるようです

広々とした店内。店主の趣味である信楽焼の販売スペース(右奥)もあります。

広々とした店内。店主の趣味である信楽焼の販売スペース(右奥)もあります。

最近では、ご利益のある食べ物としても注目されている一本うどん。健康や長寿の意味を込めて、“細く長い”そばを縁起担ぎに食べることがありますが、一本うどんは……?

克子さん「このうどんのように“太く長い人生”を送ってほしい。器に入った一本うどんは、とぐろを巻いてこしが強いので、忍耐強くなれると思います。“ふんばれる”ってこと(笑)」

この太さ、そんじょそこらのうどんとはわけが違います。ご利益もたっぷりありそうですね! あなたも今年一年のご利益を願って、天神詣でとともに一本うどんを食べてみませんか?

  • 店舗情報
    ●たわらや
    住所:京都府京都市上京区御前通今小路下ル馬喰町918
    電話:075-463-4974
    営業時間:11:00〜16:00(不定休)
    http://www.geocities.jp/tawaraya_udon/

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

この「記事」が気に入ったら
みんなにシェアしよう!

MATOME