街のコト

中川たまさん「自分らしい家を求めて」

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都内から移住し、かれこれ14年間、神奈川県の逗子で暮らしています。

逗子に引っ越したきっかけは、娘を授かり、できれば自然が身近にあるところで育てたいと思うようになったことでした。都内で働く夫も、逗子までであれば通勤可能と職場の了承をもらい、それまでの自転車通勤から、初めての片道1時間の電車通勤となりました。
そしていざ、娘の幼稚園入園を機に引っ越し。逗子に来て最初の家は駅近くの賃貸のテラスハウスで、南向きの日当たりの良さ、小さな庭がついていたことが決め手となりました。駅が近いのにとても静かな環境で、「鳥のさえずりで起床できるなんて!」と感動 したものです。うつろう季節のすばらしさが身近に感じられ、旬のお野菜や魚もとびっきり美味しい! そのころは、まだ子育てに追われて仕事はしていませんでしたが、食材の宝庫に、人を招いては振る舞うのが楽しみになりました。
また、すぐ近くに神社があり、朝晩、犬の散歩でご近所さんが訪れます。当時幼稚園児だった娘は、皆さんに会いに出かけていくようになり、それはそれは面倒を見てもらって仲良くさせていただきました。ここでの暮らしは私たち家族に合っており、とても充実した日々でした。この経験が逗子のいいイメージとなり、ずっと住みたいと思うようになったのかもしれません。
そのうち、いつか自分たちの家を持ちたいと考えるようになりました。そして、そのチャンスはわりと急に巡ってきました。うちから徒歩7~8分の所に、コンパクトにデザインされた5棟各6戸ほどの古いテラスハウスがあり、通りかかる際に気になっていました。あるとき、友人に招かれて家に伺うと、そのテラスハウスだったのです。お邪魔すると、そんなに広くはないもののシンプルながらモダンな設計でとても素敵。友人夫婦の趣味がとても良かったこともあったのでしょう。彼らは賃貸でしたが「あそこに住めたらいいね」と夫とも話が盛り上がりました。それからしばらくすると、友人から「売りに出そうな1戸がある」との連絡が…。 一目散に自転車をとばして内見をさせてもらい、リフォームをする前提で購入することを決めました。

ただ、この段階では、なんとなく大まかな理想や妄想はありましたが、具体的にこうしたいというはっきりとした要望はありませんでした。しかし金銭的な問題をはじめ、間取りをどうするか、そのまま使うかリフォームするかなど、いろいろとクリアしなければいけないハードルがあり、時間の制限がある中、思っていた以上に細かい打ち合わせや決断を迫られる日々。家を買うってなかなか大変なのだなと実感しました。
でも一方で、「せっかくだからこの工程も楽しもう」と当時小学生だった娘も一緒に、漆喰の壁などできるところはある程度、自分達で塗りました。床もどうしても無垢の楢にしたくて、職人さんに張ってもらった後に無添加のワックスを取り寄せて自分で塗った ものです。この床材が一番高かったのですが、夏は裸足に気持ちよく、冬は暖かい。床でかなり部屋の印象が変わることもあり、こだわってよかったなとつくづく思います。

キッチンは間取り的に広くとれなかったので、シンプルで機能的な業務用のステンレスのキッチンにしました。最後まで悩んだのは、ダイニングルームに作り付けである棚。取り外して壁を壊せば部屋をつなげることもできたのですが、モダンでとても素敵な棚だったのでそのまま使うことに。こうして出来上がった家は、狭いながらもなかなかいい空間ができたなと思える家。私達の持ち物もアンティークの家具や食器が多いので、よくなじみました。

それから月日が経ち、いろいろと事情が変わったこともあり、この家は現在、手放しています。でも新しい住民の方は私達の手掛けた家を気に入ってくださって丁寧に住んでいただけているようで、とても嬉しく思います。
そして、今は賃貸の古い一軒家です。賃貸なので好き勝手にはなかなかできませんが、決まった枠の中で自分らしく工夫するのも楽しいなと思っています。どんな環境でも柔軟に暮らしていけるのが理想ですね。
またいつかリフォームするような物件に出会った時は、これまでのいい経験を活かしながらまた違った今の私達の生活の在り方を生かせればと思います。そして住みなれたこの逗子でまた素敵な家に巡り会えるといいなと思っています。

 

料理研究家
中川 たま
神奈川県逗子市在住。自然食品店勤務後、2004年にケータリングユニット「にぎにぎ」で活動し08年に独立。季節の食材を使った常備菜や保存食づくりを得意とし、料理教室を主宰する他、雑誌、イベントなどで活躍する。著書に『「たま食堂」の玄米おにぎりと野菜のおかず』(主婦と生活社)、『一汁二菜の朝ごはん』(成美堂出版)、『季節を慈しむ保存食と暮らし方 暦の手仕事』(日本文芸社)などがある。 ブログ:http://tama2006.exblog.jp

月刊不動産流通2016年11月号掲載ƒ

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