街のコト

あんどう りすさん「アウトドアスキルで防災」

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2003年から“アウトドア流防災” の提案をしています。
実は私自身がそうなのですが、防災・減災って気が重たくなりませんか?暗くて重たい現実と向き合わないといけない。やった方がいいのはわかっているけど、日々の暮らしに追われてついつい後回しに…。
これに加えて、さらに気が乗らない理由が私にはありました。阪神・淡路大震災を体験していたので、辛い事を思い出したくないという気持ちがどこかにあったのです。

そんな私がなぜ、今、このような講演をしているかというと、アウトドアのスキルを知ったからです。
アウトドアスキルは自然とともに生きる知恵です。毎日の生活を楽しんでいたら、結果として防災対策にもなっていた、そんな感じで、気負わず日常生活に防災を落とし込める知恵がたくさんあるのです。
例えば災害時、素早い避難のためにどんなカバンが適しているのでしょうか? 専用の防災バッグを思い浮かべる人が多いかもしれません。でも、アウトドアスキルでは、体にフィットしたものであることが、どのメーカーで
あるかよりも重要です。フィットしないカバンは揺れます。揺れると慣性の法則が働いて、物がその場に留まろうとする力に対抗しなければならず、素早い避難を妨げるのです。また、重心が下がると、荷物は重くなります。テントや水などの重たいものはリュックの上部に、軽い物は下部に入れるのがパッキングの基本。歩くたびに遠足の水筒が揺れたり、リュックが腰下で揺れていませんか? このような状態の人は、普段から荷物を“重く感じる”状態で持っていて、災害時は「素早く動けない人」になってしまうのです。こうした際、ストラップを短くする、水筒などは服の中に入れて揺らさないなど、知恵を持っていると応用できます。また、この揺れない&重心を上にする知恵は、だっこやおんぶで人を救助する際にも使えます。

災害時の防寒など天候対策などにも、アウトドアスキルが生きてきます。今年のセンター試験は雪の所もありました。雪予報を見て慌てて対策を考えているようでは、災害時、対応できません。普段から心がけることで災害時に役立ちます。
では、雪や風が吹き荒れる寒さの中でも暖かい服装とはどんなものでしょう。例えば、“ふわもこ”の服をたくさん着ればいい? 厚手のフリースやダッフルコートを上着として着ればいい? いいえ、それで暖かくなるわけではないのです。暖かさのキーワードは空気をためる素材。空気は自然界最強の断熱材。だから、薄い服の重ね着で動かない空気をためると暖かいのです。さらに風の日の上着は空気を通さないような、例えばナイロン素材のウィンドブレーカーなどの防風素材にしないと、空気が逃げてしまって断熱材の役割を上手く果たせません。また雪や雨の日なら濡れないことも重要。濡れると気化熱が発生し、体温を奪っていきます。
このように水と風と空気を衣服の素材でコントロールすることで、体感温度はかなり変わります。少ない衣類で最大の効果が発揮できれば、必要な収納スペースも減って、転倒する家具を減らすこともできますね。

その他、濡れている状態でも音の出やすい玉の入っていないホイッスル (災害時すばやく救助を呼ぶために使う)を入れておくなど、毎日のカバンを防災仕様にするコツや、動かし方の工夫で高い所に手をのばせるクライミング技などのアウトドアスキルをお伝えしています。

幸い、口コミ中心で年100件ほど講演の依頼がくるようになりました。その中で気づいたことは、たった1つでも自分が実践したくなる防災・減災スキルを得た人は、人にも伝えたくなり、地域や家族のためにも力を発揮するようになるということです。地域の人と関わりを持つためにイベントに参加したとか、防災イベントを開催するために役員になったなどの報告をいただいて、私も大いに励まされています。
防災・減災は、このように地域のいろいろな人をつなげる素敵なツールとなりえるのです。防災に関心を持ったついでに、アウトドアや自然のことをもっと好きになってもらえたらこんな嬉しいことはありません。防災と難しく考えずに、ぜひ自然の楽しさ(時々かなり厳しいけど…)を皆さんで共有したいです!

 

アウトドア流防災ガイド
あんどう りす
阪神・淡路大震災被災体験とアウトドア の知識を生かし、2003年より全国で講 演活動を展開。当時、まだ誰も提唱して いなかった毎日のカバンを防災仕様にと いうアイディアを提案。楽しくてすぐに 実践したくなる、毎日の生活を充実させ るヒントがたくさんあると口コミで全国 に広まり、現在、年間の講演回数は100 回以上。とりわけ子育てグッズと防災 グッズをイコールにしてしまうアウトド ア流の実践的な内容が好評。17年夏に新 建新聞社より著書が発売予定。 HP:https://andorisu.jimdo.com

月刊不動産流通2017年4月号掲載ƒ

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