暮らしのコト

西野 弘章さん「格安住宅を実現する 「ハーフビルド」」

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私が「プチ自給自足」の暮らしを目指して千葉県の房総半島に移住したのは、出版社を辞めてフリーとなった30歳の頃だった。入手した海の近くの土地は、何軒もの不動産会社を1年以上も訪ね歩いてようやく見つけたもの。灌木や葦ヨシにびっしりと覆われた敷地に大小の石ころが大量に埋まる荒れ地ではあったが、ゼロからの開拓にワクワク感が止まらなかった。

まずは、ホームセンターで買った小型刈り払い機で草刈りの日々。自分の背丈の2倍以上ある葦の根っこは土中に固く張り付いていて、スコップで掘るのに1時間以上かかる。それを無数の石ころと一緒に掘っていくのだが、掘っても掘っても終わらない……。遅々とした作業にいい加減うんざりしたこともあったが、葦の林を切り終えた瞬間、それまで見えなかった東京湾が眼下に広がり、その向こう側に富士山がポッカリと見えたときには思わず感動してしまった。
土地の開拓がひと段落して、着手したのは小屋作り。当時は、セルフビルドに関する知識はあまりなかったものの、基礎を作らずに丸太材を地面に直接立てて柱にしてしまう「掘っ立て」スタイルを採用。3間×3間ほどの広さの作業小屋を2週間で建てることができた。その後もログハウスや工房、ガレージなどを作りながらセルフビルドのノウハウを蓄積し、子供たちが大きくなってきたのを機にいよいよ自宅を建てることに。

当初は完全セルフビルドで作るつもりだったのだが、本業も多忙になってしまったため、建築士の友人に相談して「ハーフビルド」で建てることになった。基礎から駆体作り、屋根の仕上げなどはプロにお願いして、それ以外の外装や内装工事、デッキ作りなどを家族や仲間たちで行なうわけだ。
また、素人でも安全に作業できる前提でプランニングをした結果、「1・5階」という変則的な構造の家にした。要するに、普通の建物の2階にあたる部分を「ロフト=屋根裏部屋」のように活用する作戦だ。2階の天井高は部分的に低くなるものの(一番低いところで1mほど、高いところは2・7m)、建築費は確実に軽減できたし、総2階の建物に比較して工事は飛躍的にやりやすくなった。定期的なメンテナンスにも有利だと思う。

こうしたハーフビルドを楽しむときに、一番大切になるのが事前の入念な打ち合わせだ。ウチの場合、地元の工務店と契約する際に、ハーフビルドで作業する内容やスケジュールを詳細に相談しておいた。これをしないと責任の所在があいまいになり、保証関連を含めて思わぬトラブルになりかねない。また、この家の構造体は軸組み構法のプレカットだが、家の中心に立つ大黒柱だけは太いスギ丸太を使って自分で刻むことにした。こうしたイレギュラーな作業もトラブルの要因になるが、ある程度の施主のわがままを聞いてくれる業者との出会いも、ハーフビルドを成功させるための大きなカギとなる。
実際の作業では、外壁張りや塗装などは仲間たちを呼んで一気に進めることにした。素人だと2週間以上かかるといわれた作業だが、シンプルなスギ板のヨロイ張りにしたことで5日間で完了。28畳ほどある巨大デッキも3日間で完成した。間仕切りの造作や内装仕上げ、薪ストーブ、エアコンなどの設置も含めて、自分たちでできることは全部やりきったと思う。
ちなみに、使用した建材は地場産のスギやヒノキで、塗料や漆喰などは身体に優しいものにこだわった。家の性能を大きく左右する断熱材や建具も標準以上のスペックにしたが、総工費は格安住宅といわれる住宅の相場よりもさらに安くできた。
そして何より、家作りを通じて家族や仲間たちとの絆が強まったことも大きな財産になっている。

フリーエディター
西野 弘章
都内の出版社に7年間勤務後、フリーの編集者として独立。その後、「自給自足生活」を目指して千葉県・房総半島に移住し、自宅のハーフビルドを含めて8棟の建物を手掛けた。DIYアドバイザー、宅地建物取引士、第二種電気工事士。著書・編書に『小屋大全』『DIY工具50の極意』『日曜大工で楽しむ金属DIY入門』(いずれも山と渓谷社刊)のほか、釣り関係の著書も多数。ブログ:房総爆釣通信
http://bosobakucho.jp

月刊不動産流通2018年4月号掲載ƒ

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