暮らしのコト

やまぐち せいこさん「暮らしを変える ミニマリスト」

この「記事」が気に入ったらみんなにシェアしよう!

みんなにシェアしよう!

2011年の東日本大震災以降、“ミニマリスト”というライフスタイルが注目されています。

ミニマリストとは「最小主義」という意味合いで、芸術・デザイン面でも無駄のないデザインはミニマルと称されます。震災の時に、物が凶器として頭上に落ちて怪我をされた方や自宅を失った人ばかりでなく、それまでの暮
らしを見つめて「あれ? 本当に必要な物って、実はそんなにたくさんいらないのかも?」と疑問を持ち始めた方や、物を持たない暮らしへ興味関心を持つ方が増えました。

私自身は、結婚後引っ越しを繰り返しながら、物が少しずつ減り、今のミニマリストとしてのライフスタイルが完成しました。というのも夫は転勤族で「異動の辞令が出たその日から10日以内に引っ越しを完了しなければなら
ない」という状況だったからです。家を探し、引っ越しの荷造りをして、手続き、そして引っ越し。それら全てを10日以内に行なう…。毎回引っ越しには泣かされました。

最初の住まいは夫と二人暮らしの社宅。独身同士が物を持ち寄り、それほどの物量ではありませんでした。
問題が起きたのは、結婚後4回目の引っ越しでした。3LDKの大きな家から2LDKの家へ引っ越すことになり、「予想外に物が多過ぎて収納しきれない」というトラブルが発生したのです。それに懲り、「もう、物は増やさない!家具は持たない!」と、テレビ・机・食器棚以外の物を、収納部分に収まるだけに処分し、5回目の引っ越しへと自信満々で挑みました。
すると、次は「収納が少なすぎて物が収まりきらない!」という事件が起こりました。賃貸の備え付けの収納のスペースが4回目の家と全く違い、物が入りきらないのです。引っ越し自体は1時間半で終了したのですが、物が収まりきらなかったことで、その後の片付けに2週間、毎日悪戦苦闘の日々でした…。

引っ越しするたびに「これは絶対必要だ!」と思い、物を持っていくのですが、次の引っ越し時には不要になっている。それを何度か繰り返すたびに自然と「本当に必要だったのかな?」と考えるようになりました。

また何度か引っ越しを繰り返すうちに、古い家も築浅の家も「物を大量に持っていると、家が荒れていく」ということに気付きました。
毎日掃除をして、キレイだと思っていた我が家。引っ越し当初は家中ピカピカだった家が、引っ越しすることになり家の中の荷物を全部運び出してみると、壁紙の汚れや、キッチンのガスコンロ下の油汚れ、埃…。物の多さに 掃除が行き届かないのです。「毎日お掃除していたのに…」それはとてもショックでした。これも引っ越しの回数が増えるたびに、暮らしに必要のない物を減らす大きな理由でした。物が減るごとに掃除がしやすくなり、徐々に 家は美しくなっていきました。

ミニマリスト生活は、引っ越し後の敷金清算にも影響を及ぼしました。敷金精算では、汚れた壁紙などの補修費として敷金からいくら差し引かれるのか、具体的な金額が出ます。「この数年、この家でどう暮らしたか?」という成績発表のようで、毎回ドキドキします。現在、家を購入しましたが、最後に3年間住んだ賃貸物件の引っ越しでは、敷金は8割返還されました。さらにオーナー・仲介会社双方から「3年間、綺麗に大切に暮らしてくれてありがとう」というご連絡までいただきました。自分の暮らしについて、家族以外の誰かから「大切に暮らしてくれてありがとう」と言われたこと、それはとても感動し、忘れられない出来事となりました。

家を探す際、不動産広告で、収納の多さをメリットの一つとしている物件をよく見かけました。それは確かに一般的には便利なことに違いありません。でもその一方、物を減らすことで、このように得られるメリットも多くあるのです。掃除などの家事が楽になり、家の中が動きやすくなり、空間がより広く感じられるようになる…。

私にとっては引っ越しが一つのきっかけでしたが、ミニマリストになることで、自分にとって必要な物を最小限に持ち、大切に暮らすという、人生の大切なことを教わったと感じています。

ミニマリスト
やまぐち せいこ
2012年11月に「少ない物ですっきり暮らす」をテーマにブログを立ち上げ、15年のミニマリストブームにより「家族がいてもミニマルに暮らす」人として脚光をあびる。以来、物を持たない暮らしの牽引者として活躍し、雑誌・新聞等に数多く取り上げられる。著書に『少ない物ですっきり暮らす』(ワニブックス)、『無印良品とはじめるミニマリスト生活』(KADOKAWA)、『服を捨てると幸せが見つかる』(SBクリエイティブ)、『シンプル思考ですっきり身軽に暮らす』(マイナビ出版)など。●ブログ「少ない物ですっきり暮らす」http://yamasan0521.hatenablog.com

月刊不動産流通2017年8月号掲載ƒ

この「記事」が気に入ったら
みんなにシェアしよう!

MATOME